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金大×京大ジョイントコンサート
2015年8月16日(日) 14:00〜 金沢歌劇座

1)ドヴォルザーク/交響曲第8番ト長調
2)プロコフィエフ/交響曲第5番変ロ長調
3)ワーグナー/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲
4)(アンコール)レスピーギ/交響詩「ローマの松」〜アッピア街道の松

●演奏
西原通隆*1,3;穐山大輝*2,4指揮金沢大学フィルハーモニー管弦楽団*1,3-4;京都大学交響楽団*2-4



Review by 管理人hs  

金沢大学と京都大学の学生オーケストラが合同で演奏会を行うということで,金沢歌劇座に聞きに行って来ました。前回,両大学の合同演奏会が行われたのはは5年前で,準備にあたっては苦労も多かったようですが,その成果が実った聞きごたえのある演奏会となりました。

プログラムは金沢大学フィルの単独演奏でドヴォルザークの交響曲第8番,京都大学交響楽団の単独演奏でプロコフィエフの交響曲第5番,合同でワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲,そしてアンコールが1曲演奏されました。

京都大学交響楽団は,2010年,ラ・フォル・ジュルネ金沢に招待されたこともあるとおり,歴史と実力のある団体です。この時は,井上道義さんが指揮をされたのですが,「京都市交響楽団より巧かった時代もある」と結構真面目な顔で語っていたのを思い出します。今回もその実力どおりの演奏を聞かせてくれました。

演奏会は,まず,金沢大学フィルの演奏するドヴォルザークの交響曲第8番で始まりました。第1楽章冒頭からじっくりとした雰囲気のある演奏で,やや慎重な感じがしましたが,演奏が進むにつれて,気分が大きく広がり,意志の強さを感じさせる演奏になっていきました。特にニュアンス豊かな弦楽器の演奏が素晴らしいと思いました。

第2楽章では,ヴァイオリンの独奏になる部分が聞きどころです。コンサートミストレスの上野さんが楚々とした品の良い音を聞かせてくれ,お見事でした。第3楽章でも,メランコリックな雰囲気のある弦楽器が特に良いと思いました。中間部でのオーボエも田園風の気分をしっかり出していました。

第4楽章は,管楽器でちょっと粗が目立つ部分もありましたが(音楽堂より歌劇座の方が目立ちやすいかもしれませんね),変奏が進むにつれて,多彩な響きが出てきて,エネルギーがどんどん充実していくような聞きごたえのある音楽を聞かせてくました。この楽章では,第2変奏で泥臭い気分になり,ホルンが野性的なトリルを聞かせる部分が,個人的な「チェックポイント」の一つなのですが,イメージどおりの強烈さでした。コーダでは,テンポを一段階上げ,キリっとした雰囲気で全曲を締めてくれました。

第2ステージでは,京都大学交響楽団が登場し,プロコフィエフの交響曲第5番を演奏しました。金沢でこの曲が実演で演奏されるのは...もしかしたら今回が初めて?かもしれません。少なくとも,この20年ぐらいは演奏されていないと思います。

京都大学交響楽団の楽器の配置ですが,金大とはかなり違っていました。まず,第1ヴァイオリン,第2ヴァイオリンが対向配置になっており,コントラバスが下手側に来ていました。チェロも下手側で第1ヴァイオリンの隣にいました。金管楽器の配置も金大とは違っており,テューバが下手奥,その隣にトロンボーン,トランペットと並び,ホルンが上手側にいました。この曲にはハープやピアノも加わるのですが,これらは第2ヴァイオリンの奥あたりにいました。そして,最後列に多数の打楽器が並び,大活躍していました。

この配置のせいかどうかは分かりませんが,京大オケの音は,非常にしっかりと練られており,安定感を感じました。この曲の持つモダンさやスケールの大きさをしっかり楽しむことができました。

第1楽章は,これから始まるドラマを予感させるような意味深な気分で始まり,次第に巨大な建造物が出現してくるような感じで盛り上がっていきました。特に楽章最後の部分でのパーカッションなどが炸裂する,凄味のある硬質な響きが印象的でした。演奏の後,楽章全体としての見事なフォームを見せてくれるような,スケールの大きな演奏だったと思います。

第2楽章はスケルツォ風の楽章なのですが,どちらかといえばガッチリとまとまった厳格さを感じました。冒頭のクラリネットをはじめとした木管楽器群の演奏が特に明快で,曖昧さのない音楽を聞かせてくれました。第3楽章は緩やかな楽章ですが,停滞感はなく,要所要所でドラマティックな響きを聞かせてくれました。テューバをはじめとした,重みのあるサウンドも聞きものでした。

第4楽章は,リズミカルで動きの速い主題で始まりますが,各楽器のソリスティックで伸び伸びとした演奏が印象的でした。ちなみに...この楽章の主題(やホルンの刻むリズム)を聞くと,いつも映画[E.T.」のフライング・テーマを思い出してしまいます(私だけかな?)。混沌とした感じを通り抜け,最後はスッキリ,パリッと終わるのが,「いいなぁ」と思いました。

最後の最後,一瞬,弦楽四重奏のような感じになっている部分があったのですが,目からウロコという感じでした。CDで聞いているだけでは,こういった部分は気づかないですねぇ。実演で聞いてなるほどと思わせる曲だと思いました。

ここでもう一度15分の休憩が入り,両オーケストラ合同で,ワーグナーの楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲が演奏されました。合同公演にぴったりの選曲・演奏でした。

この曲では,指揮者は金大,コンサートマスターは京大となっていました。こういったヒネリも,ジョイントコンサートならではですね。全体として余裕たっぷりのテンポで演奏され,大河の流れに乗っているような心地よさで,オーケストラの響きに浸ることができました。特に6人も並んでいたトロンボーンの響きが,暖かさを醸し出している気がしました。

トライアングルやシンバルが2人ずついたのもジョイントコンサートならではです。余談ですが,私の座席のすぐ前に,シンバル奏者のご家族らしき人が座っており,最後の最後の部分でシンバルが出て来た時に大変嬉しそうな表情をされていたのが印象的でした。個人的に...この部分のシンバルは,一度で良いのでやってみたいなぁと思います(1度でなく2発出てきますが...)。

この曲は最後,「ジャン,ジャン,ジャン」とシンプルに終わるのですが,今回は,演奏後,指揮者の方がしばらくじっとしていたので,拍手をすべきかどうかちょっと迷いました。この曲の場合,さらにもう2回「ジャン,ジャン」と続く終わり方もあるので,意外に拍手を入れにくい曲ですね。

その後,両オーケストラの代表の学生2人のトークがあった後,アンコールが演奏されました。ステージの両袖に譜面台が出て来たので,もしかしたら,バンダの入るあの派手な曲かな?と思ったら,やはり「ローマの松」の「アッピア街道の松」でした。

最近では,吹奏楽で演奏されることの方が多い曲で,特に金沢では,オーケストラ版を聞く機会は滅多にありません。いちばん最後の音は特に大音量になります。2つのオーケストラの合同ということで,さらにものすごい大音量となっていました。この曲では,指揮者が京大,コンサートマスターが金大でしたが,特に弦楽器の皆さんがクライマックス付近で,ここぞとばかりに大変楽しげに伸び伸びと演奏していたのが印象的でした。暑気払いにぴったりの演奏でした。低音楽器が一定のテンポを刻む上で,段々と音量がクレッシェンドしていくシンプルな構成の曲ですが,両袖の別働部隊の金管楽器6人のステレオ効果も加わるなど,5年に一度の「お祭り」的な気分にもぴったりだと思いました。

今回の演奏会を通じて,「もう一工夫欲しいかな」と思ったのは,視覚的な見せ方です。大学ごとに衣装に視覚的な違いを付けてもらった方が,面白かったと思います。2人の指揮者も遠くから見ると似た雰囲気だったので(振り方は全然違ったのですが),いっそジャケットの色を変えてもらう方が,「特別な演奏会」という気分が出たのではないかと思いました。

京都大学の前身の一つが旧制第三高等学校,金沢大学の前身の一つが旧制第四高等学校。その頃から両校は,運動部が対抗戦をよく行っており,金沢から京都に”南下”していたこともあり,四高の応援歌は「南下軍の歌」と呼ばれています。旧制高校時代にオーケストラ部があれば,きっとジョイント・コンサートを行っていただろう―そんなことを考えながら,この伝統が続くと良いなと思いました。他県のオーケストラとの合同演奏会というのは,何かと大変だと思いますが,是非また5年後に期待したいと思います。

(2015/08/20)





公演の立看板


演奏会前の金沢歌劇座前の様子