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IMAライジングスターコンサート2015
2015年8月22日(土)18:00〜 石川県立音楽堂交流ホール 

1)クライスラー/レチタティーヴォとスケルツォ・カプリース, op.6
2)サン=サーンス(イザイ編曲)/「ワルツ形式の練習曲」による奇想曲, op.52-6
3)ショパン/序奏と華麗なるポロネーズ ハ長調, op.3
4)モーツァルト/ロンド ハ長調,K.373
5)ラヴェル/ツィガーヌ
6)ショパン/ノクターン第16番変ホ長調,op.55-2
7)ショパン/マズルカ風ロンド へ長調,op.5
8)ストラヴィンスキー/協奏的二重奏曲
9)フバイ/カルメンによる華麗な幻想曲,op.3-3
10)ベートーヴェン/チェロ・ソナタ第3番イ長調,op.69〜第1楽章
11)サン=サーンス(イザイ編曲)/「ワルツ形式の練習曲」による奇想曲, op.52-6
12)ドビュッシー/ヴァイオリン・ソナタ ト短調
13)メンデルスゾーン/ピアノ三重奏曲第1番ニ短調,op.49〜第1楽章,第4楽章

●演奏
吉田南*1,2,石倉瑶子*4,5,辻彩奈*8,スビン・イ*9,ドンヒョン・キム*11,ミンギョン・キム*12,岡本誠司*13(ヴァイオリン)
竹田理琴乃*6,7,森千紘*13(ピアノ)
牟田口遥香*3,増山頌子*10,金子遥亮*13(チェロ)

ピアノ伴奏:ヤンヒー・リー*4,8,松井晃子,山田ゆかり



Review by 管理人hs  

いしかわミュージックアカデミー(IMA)の恒例の演奏会となっているライジングスターコンサートを聞いてきました。IMA出身者が国際的なコンクールで優秀な成績を上げるのは,すっかり「当たり前」になっており,今回出場した若手演奏家の中からも,未来のスターが登場することでしょう。

今回は次の方々が出演しました。
  • ヴァイオリン:吉田南,石倉瑶子,辻彩奈,スビン・イ,ドンヒョン・キム,ミンギョン・キム
  • チェロ:牟田口遥香,増山頌子
  • ピアノ:竹田理琴乃
  • ピアノ三重奏(岡本誠司(ヴァイオリン),金子遥亮(チェロ),森千紘(ピアノ))

例年通り,技術的に水準の高い演奏の連続で,将来有望な若手奏者たちの気合いの入った演奏を堪能しました。以下は,演奏後にメモした印象です。

1.吉田南(ヴァイオリン)
クライスラーの曲は無伴奏の作品。ゆっくりした序奏+速い後半というパターンの曲は多いですね。和音の響きが大変美しく大変柔らか。技巧が安定していて,前半と後半の対比も鮮やかでした。

サン=サーンスの曲は,後半で別の人も演奏していましたが,イザイ編曲ということもあり,大変聞きごたえのある曲で,大変力強く音が鳴っていました。

2.牟田口遥香(チェロ)
ショパンの序奏と華麗なるポロネーズは,以前,一度聞いたことのある作品。牟田口さんは,夏の日焼けが似合う感じの若々しい雰囲気の方。全身から歌が出てくるようでした。芯の強さもあり聞きごたえがありました。ピアノ伴奏は,金沢ではおなじみの山田ゆかりさん。ショパンらしく,ピアノ・パートもキラキラとしていて聞き映えがしました。

3.石倉瑶子
モーツァルトのシンプルな作品ということもあり,ヴァイオリンの音の美しさがストレートに伝わって来ました。素直で教科書的と言ってよい演奏だと思いましたが,その音色には天性の魅力のようなものがあると思いました。音楽がしっかり安定していて崩れないのも素晴らしいと思いました。

2曲目はラヴェルのツィガーヌ。IMAではおなじみの作品。変わったことはせず,速目のテンポで平然と聞かせる演奏。無伴奏の序奏の後,主部に入る辺りの音程もピタリと決まっていました。熱演という感じはなく,全然汗をかかずにスパッと聞かせてくれ,通常とは違った面での凄さを感じました。

4.竹田理琴乃(ピアノ)
竹田さんの演奏は,8月中旬に同じ場所で聞いていますが,その時とは違い,ピンクの花柄のドレスでした。ショパン国際ピアノコンクールに向けての調整ということで,今回もショパンの曲が2曲演奏されました。ノクターン第16番での感情の入れ方と盛り上げ方。マズルカ風ロンドでのほの暗さとキラキラ感とのバランスが印象的でした。マズルカ風ロンドは,初めて聞く曲でしたが,予想以上に充実感のある作品でした。

5.辻彩奈
この日のプログラムの中で特に印象に残ったのは,前半最後に演奏された,ヴァイオリンの辻彩奈さんによる,ストラヴィンスキーの協奏的二重奏曲でした。初めて聞く曲で,必ずしも親しみやすい曲ではないのですが,鬼気迫るような迫力があり,音の密度が非常に高い音のドラマをしっかり堪能させてくれました。演奏の動作もかなり大きく,竹澤恭子さんに通じるような,線の太さと秘めた激しさがあると感じました。

6.スビン・イ
後半は韓国の奏者が中心でした。フバイのカルメンによる華麗な幻想曲は,音に安定感がありました。演奏の方もどっしりと構えた感じで,速く技巧的な部分でも全くブレることのない余裕を感じました。情感も豊かで,若さに似合わぬ完成度の高い演奏だったと思います。

7.増山頌子
冒頭の低音の響きから深みがあり,恰幅の良さを感じさせてくれました。小柄の方でしたので,そのちょっとミスマッチな感じが新鮮でした。

8.ドンヒョン・キム
滴るような艶と力感のある演奏でした。サン=サーンス(イザイ編曲)の「ワルツ形式の練習曲」による奇想曲は,吉田南さんも演奏していましたが,余裕たっぷりに聞かせる完成度の点では,キムさんの方が一枚上だったかもしれません。

9.ミンギョン・キム
後半では,昨年に引き続いて登場したミンギョン・キムさんによるドビュッシーのソナタが聞きごたえ十分でした。音の鳴らし方のグレードが1ランク上という感じの堂々たる演奏を今年も聞かせてくれました。その分,ちょっと立派過ぎるかなと,贅沢なことを感じてしまいました。

10.ピアノ三重奏(岡本誠司,金子遥亮,森千紘)
最後はメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番からの2つの楽章で締められました。気合い十分の器楽曲がずっと続くとさすがに疲れてきます。最後にメンデルスゾーンの曲が出てきて,「ようやく普通のクラシック音楽のコンサートになったな」,という感じでちょっとホッとしました。

もちろん,岡本誠司さん,金子遥亮さん,森千紘さんによる演奏も気合い十分だったのですが,メンデルスゾーンの室内楽曲の場合,技巧的な器楽曲に比べると,もう少し遊びの要素がある気がします。森さんのピアノの上で,岡本さんと金子さんのツートップが輝かしい音を聞かせ,演奏全体にロマン派らしい香りが漂っていました。やはり室内楽は良いと感じました。

演奏会全体を通じてみると,日本人奏者の方が全体に表情が硬く,韓国人奏者の方が自信たっぷりの強さを感じました。それぞれの個性が伝わってくるとともに,国民性が感じられるのも面白いところです。

今回出演した若手演奏家たちの今後の活躍に期待したいと思います。

(2015/08/30)




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