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音楽堂室内楽シリーズ2015 Vol.3 IMAチェンバーコンサート
2015年8月23日(日)19:00 石川県立音楽堂邦楽ホール 

1)モーツァルト/フルート四重奏曲第1番ニ長調,K.285
2)モーツァルト/オーボエ四重奏曲へ長調,K.370
3)モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタ へ長調,K.376
4)モーツァルト/弦楽五重奏曲ト短調,K.516

松木さや(フルート)*1,加納律子(オーボエ)*2
ホァン・モンラ*1,ナムユン・キム*2,ロラン・ドガレイユ*3,レジス・パスキエ*4,神谷美千子*4(ヴァイオリン),古宮山由里*1-2,原田幸一郎*4,石黒靖典*4(ヴィオラ),ソンジュン・キム1-2,毛利伯郎(チェロ)
ソジュン・シン(ピアノ)*3



Review by 管理人hs  

毎年8月に行われている,いしかわミュージック・アカデミー(IMA)の講師とオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のメンバーとの共による室内楽コンサートくを聞いてきました。この室内楽公演は,ここ数年ずっと行われていますが,今回は全部モーツァルトでまとめたのがポイントで,前半が管楽器入りの室内楽,後半が弦楽五重奏と大変バランスの良いプログラムを楽しむことができました。

OEKファン的に特に嬉しかったのは,前半の2曲でした。フルートの松木さやさんが加わったフルート四重奏曲第1番,オーボエの加納律子さんが加わったオーボエ四重奏曲が演奏されましたが,どちらも目が覚めるような鮮やかな演奏でした。曲の雰囲気が両曲とも似ており,ギャラントな第1楽章に続いて,たっぷり聞かせる第2楽章。最後に軽やかに飛翔する第3楽章と,2曲続けて聞くと,本当に良い組み合わせだと思いました。

フルート四重奏曲第1番は,松木さんの柔らかなフルートの音を中心に穏やかな音の流れが続く第1楽章から始まります。穏やかだけれども,ダラっとしていないくて,シャキッとしているのが良いですね。ホァン・モンラさんとOEKメンバーによる弦楽パートが,背景に柔らかく霞んでいる感じも絶妙でした。

第2楽章はグルックの「精霊の踊り」を思わせるような「いい感じ」の曲です。弦のピツィカートの上でフルートがたっぷり歌うのを堪能しました。第3楽章も大変良いバランスの演奏で,何と過不足もありませんでした。おっとりと落ち着いているけでも自然な華やかさにも不足していませんでした。

演奏後は,松木さんの爽やかな笑顔で締めてくれました。

オーボエ四重奏曲の方では,加納律子さんの安定感抜群の音を堪能できました。繊細だけれどもくっきりしているというのがオーボエの魅力だと思いますが,そのとおりの演奏でした。楽章の最後ので高音の弱音で終わる辺りの,ゾクッとする感じも絶妙でした。

第2楽章の感じも,フルート四重奏曲としっかり呼応していました。ホール内に静かにしみいる蝉の声...ならぬオーボエの声(アリアのようでした)を楽しむことができました。

第3楽章は協奏曲風の楽章で,曲が進むにつれて音符が細かくなっていくスリリングな感じがあります。曲目解説の本を読むと「途中,オーボエと弦楽合奏で違う拍子になるポリリズムになる箇所がある」ということで,確かにちょっと違和感のある雰囲気が漂います。その辺も面白い曲ですね(ただし,「春の祭典」のようなポリリズムではなく,ちゃんと割り切れる(?)ような拍子なので一見(一聴)分からないですね)。

加納さんのオーボエの安定した華やかさを感じさせてくれる,素晴らしい演奏でした。演奏後の笑顔も,松木さん同様に晴れやかで,最初の2曲の組み合わせのバランスが本当に良いと感じました。

前半最後は,IMA講師のソジュン・シンさんのピアノとロラン・ドガレイユさんのヴァイオリンでヴァイオリンソナタK.376が演奏されました。これも楽しい演奏でした。ピアノのシンさんは,一見,「近所のピアノ教室の女の先生」といった親しみやすい雰囲気がありました(変な比喩ですみません)。演奏の雰囲気にも包容力のある暖かさを感じました。

ドガレイユさんの方は,ピシっと引き締まったナイス・ミドルといった雰囲気と演奏でした。が,どこかウィットを感じさせるところがあり,普通に弾いているのに微笑みが漂っていました。実に雰囲気の良いデュオでした。

第1楽章は,「チャン,チャン,チャン」という3つの音で始まりました。授業開始の時の「おじみ」のような感じで,ちょっと微笑ましく感じました。IMAでは優秀な若手演奏家たちによるバリバリ弾く演奏が続いているのだと思いますが,ドガレイユさんの大人の自信に溢れた力強さは,さすがだと思いました。

第2楽章の緩徐楽章では静かな暖かみのある音楽が続きました。モーツァルトの演奏ではノンヴィブラートの演奏が主体だと思いますが,ドガレイユさんの演奏には,品よくヴィブラートが付いていました。大人が童心を思い出しているような気分があり,素晴らしいと思いました。

第3楽章にはどこか茶目っ気を感じました。ソジュン・シンさんが「お母さん」のイメージ,ドガレイユさんには「男の子」のイメージ。お母さんの前で,いい子にしているけれども,実はハメを外してみたい...その尻尾がちょっと出てしまった,そんな感じのストーリーをかってにつけて聞いてしまいました。

後半は弦楽五重奏曲ト短調,K.516が演奏されました。小林秀雄が「モオツァルト」の中で取り上げて有名になった作品です。昨年のIMAで演奏されたハ長調K.515と対になる作品です。

今回のメンバーは,第1ヴァイオリンがレジス・パスキエさん,第1ヴィオラがIMAの音楽監督の原田幸一郎さん,ということで,老練な味わいを感じさせてくれました。パーフェクトな演奏ではなかったと思いますが,この曲の持つ,凛としていながら,悲しみに耐えている感じがよく出ていたと思います。

第1楽章の冒頭は「疾走する悲しみ」的な魅力的なメロディで始まります。パスキエさんのヴァイオリンには透徹したような厳しさがありました。その後は,ちょっと気まぐれで「もっと疾走したい」という感じのところもありましたが,毛利さんが全体を見て,引き締めているような感じでした。そのガチガチでないアンサンブルが,年に一度のイベントらしくて良いと思いました。

第2楽章のメヌエットはどこか頑固さを感じさせるもので,中間部の回顧する感じと好対照を成していました。弱音器付きで演奏されていた第3楽章には,悲しみの間のつかのまの安息といった平和なムードがありました。親密な雰囲気の中,苦しみとやすらぎが共存するようなベテランらしい演奏でした。

最終楽章は,ドラマをはらんだ序奏部に続いて,「涙は見せられない」「悲しみくれてばかりはいられない」と明るく疾走するような主部が続きました。IMA講師陣のの気概を伝えるような聞きごたと味わい深さのある演奏でした。

OEKメンバーが加わった室内楽公演では,意外にモーツァルトの室内楽作品だけによるプログラムは少ないので,今回の充実した演奏を聞いて,「一度,こういう演奏会を聞いてみたかった」と改めて思いました。

また,前半の管楽器奏者+弦楽合唱の演奏を発展させて,OEKのオーボエ奏者,フルート奏者による,モーツァルトのフルート協奏曲第2番とオーボエ協奏曲(実は,この2曲はほぼ同じ曲)を組み合わせたプログラムが実現しないかな,と期待をしてしまいました。クラリネット,ファゴット,ホルン...が加わった室内楽公演「MOZART!!2」というのもありだと思います。

OEKファン的にも,IMAを応援している者としても,「こういう演奏会が聞きたかった!」という充実の内容の公演でした。

(2015/08/30)



演奏会のポスター


演奏会の案内


交流ホールでは,レッスンの形に椅子が並んでいました。


話題の(?),もてなしドームのタペストリー