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2015ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭 石川フィルハーモニー交響楽団特別演奏会
2015年10月4日(日)14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

グリンカ/歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲
チャイコフスキー/幻想序曲「ロメオとジュリエット」
ラフマニノフ/交響曲第2番ホ短調,op.27
(アンコール)ラフマニノフ/ヴォカリーズ

●演奏
花本康二指揮石川フィルハーモニー交響楽団


Review by 管理人hs  

石川県では,その名のとおり,2年に一度「ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭」というイベントが行われたいます。大規模な文化祭のようなもので,県内の色々な文化・芸術関連の団体が集中的にイベントを行っています。その一環として,石川フィルハーモニー交響楽団の特別演奏会が石川県立音楽堂コンサートホールで行われたので聞いてきました。指揮は常任指揮者の花本康二さんでした。

石川フィルの演奏会では,近年,一般的な名曲だけに偏らず,ちょっとマニアックな曲を入れることがあります。今回,メインで演奏されたのは,ラフマニノフの交響曲第2番でした。20世紀の交響曲の中では親しまれている作品ですが,マーラーやショスタコーヴィチのいくつかの交響曲ほどには演奏される機会のない作品です。金沢で演奏されるのは,金沢大学フィルの定期演奏会以来かもしれません。今回はこの曲を核として,ロシアの名曲を並べたプログラムでした。

前半最初のグリンカの「ルスランとリュドミラ」序曲は,個人的には,ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルによる猛スピードの演奏が刷り込まれているのですが,この日の演奏は,無理のないテンポで,しっかりオーケストラサウンドを鳴らす,まとまりの良い演奏でした。パリッと引き締まった第1主題,流麗に流れる第2主題と,全体に爽やかな印象を残してくれました。

チャイコフスキーの「ロメオとジュリエット」も久しぶりに実演で聞きました。まず,序奏部の木管楽器によるアンサンブルがとても良いと思いました。その後,モンタギューとキャピレットの両家の対立を示す第1主題,ロメオとジュリエットののテーマ(第2主題)と続きますが,どちらも端正な印象でした。しっかりとコントロールされており,第2主題は,甘さたっぷりというよりは,微糖ぐらいの感じで,上品な味わいが残りました。もっと野性味があっても良いかなという気もしましたが,その分,主題と主題の絡み合いなどの面白さを楽しむことができ,交響曲の一つの楽章を聞くような感じの構成感を感じました。

曲の最後の部分では,ここでも木管の合奏が良いなぁと思いました。冒頭としっかり対応しており,「物語が完結した」という充実感を感じました。

後半のラフマニノフは,しっかりと「ラフマニノフらしく」盛り上げており,充実感たっぷりでした。4楽章ともそれぞれにボリューム感があるのですが,4つの章からなる長編小説を楽しむような感じで聞かせてくれました。

第1楽章の序奏では,ここでも木管楽器が良いと思いました。しっかりとパッと鳴る鮮やかさが印象的でした。その後続く,主要モチーフ(この日のプログラムの解説は,とても分かりやすいもので,このモチーフの重要性が一目瞭然で分かりました)の陰影のある表情が素晴らしいと思いました。

その後も音と音,フレーズとフレーズとがしっかりと重なり合い,美しい綾を成し,それが大きなうねりのある流れになっているのが見事でした。楽章の途中に出てくる,ヴァイオリンやクラリネットなどのソロやメロディの受け渡しもこなれたものでした。それが発展し,楽章最後では,重量感のある壮大なクライマックスを築いていました。

第2楽章も充実のサウンドを聞かせてくれました。弦楽器のキビキビとした動き,ホルンの強い音などが流れよく続いていました。A−B−A−C−A−B−Aのサンドイッチ構成中の,「具」(配布されたプログラム中の表現です)に当たる部分がBやCなのですが,各「具」のメリハリがしっかり付いており,野菜がパリッとした感じのサンドイッチを味わうことができました。Cの前に,「バンッ」とパーカッションが一撃を加えるのですが,こういった部分の充実感を味わえるのも実演ならではです。

第3楽章では暖かみのある弦楽器の音が聞きものでした。それほど遅いテンポではなかったのですが,大変心地良い音楽を聞かせてくれました。低音パートがロマンティックなムード(語源どおり「長編小説的」という意味)をしっかりと作る上にクラリネットや弦楽器が歌う,ピラミッド的な音のバランスが良いなぁと思いました。楽章後半でのソロ楽器の受け渡しも味わい深いものでした。

第4楽章は,「タランテラ風(プレトークでの,指揮の花本さんの表現)」の楽章で,ここでも充実のサウンドを聞かせてくれました。楽章終盤に向けて,じわじわダイナミックに盛り上がり,最後は打楽器が加わって,ラフマニノフのトレード・マークの(=ワンパターンの)のジャンジャカジャンの音型で締めてくれました。

緩やかな楽章では,ねっと〜りと盛り上がったり,急速なテンポの楽章では,パーカッションを交えて,華やかに盛り上がったり,ラフマニノフらしい語り口をしっかり味わわせてくれるような演奏だったと思います。うねるような情感を自然に感じさせてくれた,ヴァイオリンを中心として弦楽合奏。クラリネットをはじめとした,管楽器のソリスティックな活躍など,特に印象的で,長大な作品ですが,全く退屈することなく楽しむことができました。音楽に浸るのが心地良い。そういった演奏だったと思います。

アンコールでは,同じラフマニノフのヴォカリーズが演奏されました。この曲については,アンナ・モッフォというソプラノ歌手が歌った録音が私にとっての定番ですが,それに比べるとかなりサラリとした演奏で,アンコール曲らしい後味の良さがありました。途中のコンサートミストレスによるソロもお見事でした。

花本さんは,8月に金沢で行われた全国アマオケフェスティバルで,ラフマニノフの交響曲第3番を指揮されましたが,それに続いての第2番の指揮ということで,すっかり「ラフマニノフの権威」ですね。この際,滅多に演奏されな第1番(酷評され,ラフマニノフがスランプに落ち込むきっかけになった作品)も聞いてみたいものです。

ビエンナーレの方は,その他の音楽団体も色々な公演を行うようなので,いくつか出かけてみようと思います。

PS1.石川フィルさんの演奏会では,毎回,花本さんによるプレトークが行われます。この日は,コンサートマスターの出口さんと花本さんにより,各曲の主要主題を紹介してくれました。こういう解説は,とても良い取り組みだと思います。特に長い曲を聞く場合には,「道しるべ」になるので,ありがたいと思います。

PS2.休憩時間中,「祝電をいただいています」という定番のアナウンスが入ったのですが...アナウンスの方が,うっかり「シュクダイをいただいています」と読み間違い。後からじわじわと効いてくるような,「秀逸」の読み間違いで,ホール内は妙に和やかな雰囲気になっていました。

(2015/10/10)





演奏会のチラシ


ロビーでは変わった椅子をいろいろ展示していました。