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オーケストラ・アンサンブル金沢第368回定期公演マイスターシリーズ
2015年10月24日(土) 14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) メンデルスゾーン/序曲「美しいメルジーネの物語」作品32
2) ショパン/ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 作品11
3) (アンコール)ショパン/コントルダンス変ト長調
4) ストラヴィンスキー/バレエ組曲「プルチネルラ」

●演奏

アレクサンダー・リープライヒ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)*1-2,4
萩原麻未(ピアノ*2-3)


Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の2015/2016シーズン第1回目の定期公演マイスターシリーズを聞いてきました。今シーズンはシリーズ全体に「ショパンと友人たち」というテーマが設定されており,毎回プログラムには,ショパンのピアノとオーケストラのための作品が組み込まれることになっています。数年前のラ・フォル・ジュルネ金沢と似たテーマですが,それを年間通じて楽しませてくれるという趣向です。

その第1弾は,ショパンのピアノ協奏曲第1番を含むプログラムでした。やはり,シリーズ第1回はこの曲で始まるのが良いですね。ピアノ独奏は,数年前のジュネーヴ国際コンクールで優勝した萩原麻未さんでした。萩原さんは,過去数回,金沢市で演奏会を行ったことはありますが,OEKとの共演は今回が初めてだと思います。

萩原さんの演奏ですが,まず,よく音が通るのが素晴らしいと思いました。軽やかで明るい音色がスッとホールに広がりました。萩原さんらしさが曲の至るところに表れた素晴らしい演奏でした。

今回の指揮はアレクサンダー・リープライヒさんでした。第1楽章,たっぷりとしていながらもクッキリとした響きで序奏が始まった後,丁寧でデリケートな第2主題へとつながりました。萩原さんの演奏も同様で,オーケストラとのバランスが良いと思いました。

萩原さんの音色には心地よいふくらみがあり,表情の変化がしっかりと伝わってくるような演奏でした。第2主題での染み入るような響きも魅力的でした。楽章全体を通じて安定した雰囲気があり,その中から吟味された美音が立ち上がってくる感じでした。

第2楽章は,かなり遅いテンポで演奏され,ファンタジー溢れる別世界に導いてくれました。しっとりとした質感のある萩原さんのピアノの音の美しさが際立っており,たっぷりとショパンの音楽の魅力を楽しませてくれました。

この楽章に限らず,この曲では,ファゴット,ホルン,チェロといった楽器が対旋律を演奏してピアノと美しく絡み合う部分があるのですが,そういった部分でのOEKのオジサマ(失礼しました)たちの味わい深いバックアップも絶品でした。弦楽合奏の透明感のある響きも素晴らしく,「平和だなぁ」と思いました。

この楽章での萩原さんのピアノのタッチは特に美しく,楽章後半でのキラキラと問いかけるようなフレーズを聞いて,マジックを掛けられたような気分になりました。

そのまま,インターバルを置かずに第3楽章へとつながりました。パッと気分が変わり,一気に気分が開放されたように,軽やかに走り抜けるような大変速いテンポで演奏されました。弾むようなキレ味の良さとマイルドな気分が両立しており,上品なノリの良さがありました。

第3楽章を聞いていると,時節柄,「ショパン・コンクールのファイナル」といった気分になります(丁度,5年に一度のショパン・コンクールが終盤に差し掛かっていましたね。最終的に韓国のチョ・ソンジンさんが優勝)。もともと,次々と聞きどころのメロディが出てくる魅力的な楽章ですが,ノリの良い萩原さんの演奏を聞いて,その魅力がさらに増していました。

途中,弦楽器のピツィカートの伴奏の上にピアノの両手ユニゾンで出てきます。このちょっと民族的なパッセージが大好きなのですが,萩原さんはとてもデリケートに演奏しており,軽快な楽章中,ちょっと立ち止まって思いを巡らせるような感じになっていたのが印象的でした。

最後の方に大きく跳躍するような印象的なパッセージがありますが(コンクールなどで実演を聞いていると,結構ミスタッチが目立つ難しい箇所ですね),萩原さんの弾き振りは本当に華やかで,ファンタジーが広がる感じでした。かなり手を高く上げて演奏しており,「のだめ」を彷彿させるような,「楽しい音楽の時間」が広がっていました。最後の方は,ピアノの方が走り過ぎみたいな感じもしましたが,それもまた,実演ならではの興奮をかきたててくれ,演奏の魅力を高めていました。

この曲を実演で聞くのは...実は久しぶりだったのですが,どの部分を取っても,しっかりと「現在の萩原さんらしさ」が伝わってくるような魅力的な演奏だったと思います。それと,やはり,この協奏曲は良いと再認識しました。

お客さんも大喜びで,アンコールとしてショパンのコントルダンスが演奏されました。かなり珍しい作品でしたが,歌心たっぷりの,とろけるような絶品という感じの演奏でした。

演奏会の最初,まず,メンデルスゾーンの序曲「美しいメルジーネの物語」が演奏されました。この曲がOEKの定期演奏会で演奏されるのは,尾高忠明さんが登場した時以来だと思います。プログラムには「1834年版」と書かれており,バルブのないホルンを使って演奏していたのがまず印象的でした。その他,ティンパニも通常より小型のバロック・ティンパニを使っていました。

曲の冒頭からクラリネットなどの木管楽器を中心とする暖かい響きが大変心地よく,ファンタジーの世界に引き込んでくれるようでした。この辺の繊細な音の動きはメンデルスゾーンならではで,OEKにもぴったりです。中間部は弦楽器の演奏を中心としたキリッとした感じになり,曲にドラマティックな陰影が出てきます。こういったところも「メンデルスゾーンらしく,良くできてるなぁ」と思います。いかにも意味深な終わり方も「物語」のエンディングらしいものでした。拍手が出てくるまで結構インターバルがありました。

ちなみにバルブのないホルンの音ですが...あまり違いがはっきり分かりませんでした。ただし,ゲシュトップ奏法になっている部分もあり,一部の音が急に変化するのが面白い味付けになっていると思いました。

演奏会の最後では,ストラビンスキーの「プルチネルラ」組曲が演奏されました。ペルゴレージの曲をベースにストラヴィンスキーが再構成した曲ということで,イタリアのバロック音楽らしい明快な明るさの中にストラヴィンスキーらしい「ひねり」とがしっかり効いていました。

楽器編成は,通常のOEKの編成よりも一回り小さくしていましたが(ただし,トロンボーン1人が加わっています),弦五部のトップ奏者がソリストとして活躍する部分もあり,合奏協奏曲のような重層的な面白さがありました。こういう部分は,実演で聞く方がずっと楽しめます。OEKは,過去数回演奏していますが,石川県立音楽堂で演奏されるのは,今回が初めてかもしれません。

リーフライヒさんは,室内楽のように緻密に音楽をまとめていくと同時に,熱さを感じさせる指揮ぶりで,クールな現代性とシンプルな明るさとのブレンドを見事に聞かせてくれました。

途中,ラヴェルの「クープランの墓」を思わせるような,オーボエのソロが活躍する曲が出てきますが(2曲ほどありますね),水谷さんのオーボエは,ちょっと不思議な優雅さを感じさせてくれました。

それ以外の曲は,軽快な曲が中心なのですが,ストラヴィンスキーの音楽には,ちょっと一ひねりしたような「小細工」があります。楽想が次々と湧いて出てくる楽しさがあるのですが,その中にちょっと冷めた目があり,「クールな熱狂」という感じがありました。合奏協奏曲のように,各奏者がソリスティックに活躍する部分と合奏する部分とが交錯し,曲の作りの面でも,一筋縄ではいかない二層構造になっていました。

OEKはいつもよりも編成を小さくしていたこともあり,精度の高いアンサンブルを聞かせてくれました。急速な部分でも安定感がありました。

最後から2番目の曲では,コントラバスが刻むリズムの上でトロンボーンがユーモラスなメロディを演奏します。もとはバロック音楽のはずですが,どこか「兵士の物語」のようなブラックユーモア的気分になっているのがストラヴィンスキーらしいと思います。

最後の曲では,トランペットの甲高い音が加わり,明るい喧噪といった響きが続きましたが,最後は堂々とした中にすっきりとモダンな感じを漂わせて,ビシっと締めてくれました。

演奏後,リープライヒさんがお客さんに向かって頭を下げる際,OEKのメンバー全員と一緒に頭を下げていました。こういうシーンは,これまであまり見たことはない気がします。オルフェウス室内管弦楽団のカーテンコールはこんな感じだった気がしますが,ソリスト集団としてのOEKの力量と指揮者自身がオーケストラメンバーと一体となって演奏したことをしっかりとアピールしているようでした。小澤征爾さんのカーテン・コールもこんな感じだったかもしれませんね。

終演後の雰囲気では,リープライヒさんはOEKのメンバーからの信頼の厚い指揮者だとお見受けしました。リープライヒさんは,昨年6月のOEK定期での「ベートーヴェン・チクルス」に登場するはずだったのですが,急病でアンドレアス・デルフスさんに交替になりました。現代的な作品への関心も高い指揮者ということで,「OEKの常連指揮者」として今後の共演にも大いに期待したいと思います。

(2015/10/31)




公演の立看板

音楽堂の玄関には,11月15日に上演されるオペラ「滝の白糸」の看板も出ていました。


こちらは公演翌日に行われる,子供向けコンサート用の道具のようです。ハロウィンに合わせてカボチャでしょうか。シンデレラにも使えそうです。


本日は終演後,リープライヒさんのサイン会を行っていました。会場で,リープライヒさんがポーランド放送交響楽団を指揮したルトスワフスキの管弦楽のための協奏曲のCDを販売していたので,購入し,サインを頂きました。「この曲はおすすめだよ」ということを語っていました。



このとこり,すっかり秋らしくなっていました。ホテル日航の近くを歩いていると,落ち葉がクルクルと竜巻のように回転していたので,思わず撮影。