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2015ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭 混声合唱組曲「水の旅」初演コンサート
2015年11月14日(土) 金沢歌劇座 14:00〜

I Dreaming Chorus 金沢市中学校合同合唱団
1)林光(矢川澄子詞)/「はる なつ あき ふゆ」〜「はるよこい」「さくら」
2)グレゴリオ聖歌〜キリエ
3)バルトーク/子どもと女声のための合唱曲集〜「春」「男の子からかいうた」「島の歌」
4) 林光(矢川澄子詞)/「はる なつ あき ふゆ」〜「やなぎ」

II 金沢メンネルコール
5)バーバーショップの世界(1.Overture, 2.I've been workin' on the railroad, 3.Shenandoah, 4.Gospel Medley, 5.Smile)
6)(アンコール)

III 能登地区合同合唱団
7) 岩代浩一(森繁久彌詞)/能登の夢
8) 中村はじめ(中村はじめ詞)/その名は等伯
9) 澤野弘之(土屋太鳳詞)/希空〜まれぞら

IV 混声合唱組曲「水の旅」
10)池辺晋一郎(高塚かず子詞)/混声合唱組曲「水の旅」(石川県合唱連盟委嘱作品,初演)(1.白山の水,2.噴水, 3.女川男川, 4.水の子守歌, 5.海辺, 6. 水の旅)
11)(アンコール)池辺晋一郎(別役実作詞)/風の子守歌

●演奏
粕谷雪子指揮金沢市中学校合同合唱団Dreaming Chorus*1-4
中川達也指揮金沢メンネルコール*5-6
中村はじめ指揮能登地区合同合唱団,国分由紀子(ピアノ)*7-9
犀川裕紀指揮[石川県合唱連盟「水の旅」合唱団],田島睦子(ピアノ)*10
池辺晋一郎指揮[石川県合唱連盟「水の旅」合唱団],金沢市中学校合同合唱団*11



Review by 管理人hs  

2015ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭の一環で行われた,石川県合唱連盟委嘱作品,混声合唱組曲「水の旅」の初演コンサートを金沢歌劇座で聞いてきました。

この曲は,石川県合唱連盟が10年前に詩人の高塚かず子さんに石川県の自然をモチーフとした詞を委嘱し,それに,池辺晋一郎さんが曲を付けたものです。作曲の方は,紆余曲折があり,追いついていなかったのですが,今年になって池辺さんに依頼することになり,ラ・フォル・ジュルネ金沢の頃以降,「石川県立音楽堂の洋楽監督室で一気に曲を作った」(演奏会の途中で行われたセレモニートークの中で池辺さんが語っていました)ものです。

日本で作られた合唱組曲には「水」をモチーフにした定番曲がいくつもありますが,この「水の旅」もそういう曲の一つになるような,聞きごたえと親しみやすさのある素晴らしい作品だと思いました。全6曲で石川県各地を巡るのですが,それぞれの詞のモチーフが多彩で,変化に富んでいました。変化に富んだ石川県の自然にぴったりだと感じました。

 
この日は作詞者の高塚さんも来られて,後半前に池辺さんとのセレモニートークがありました。また,」高塚さんの直筆の詞がプログラムに掲載されていました。

第1曲「白山の水」は,水の動きを感じさせるようなピアノの前奏で始まりました。組曲の第1曲らしく全曲の要となるようなスケール感のある曲で,上流から下流へと水が流れ,巡っていくような「動き」と同時に「安定感」を感じさせてくれました。この日の演奏は,100人以上の大合唱でしたが,聞きごたえたっぷりの歌声を聞かせてくれました。

第2曲「噴水」は,対照的にぐっと風景がクローズアップされ,歌詞には,春爛漫の兼六園の噴水と手を振る赤ちゃんが出てきます。幸福感あふれるスナップ写真を見るような鮮やかさのある曲で,前曲との対比が見事でした。

第3曲「女川男川」は,浅野川(女川)と犀川(男川)のイメージをそれぞれ,少女と少年に重ね合わせたような歌詞で,「いつかめぐりあい」という辺りに,ほのかなロマンの香りを感じました。

第4曲「水の子守歌」は,「白鳥路の蛍」が出てくる短調の曲で,どこかレクイエムを思わせるようなムードがありました。ただし,その根底には強さがあり,次第に前向きな気持ちにさせてくれました。

歌詞の中に「めぐる水」というような言葉が出てきましたが,第2曲から第4曲に掛けては,次世代への前向きな期待を感じさせるような雰囲気がありました。

第5曲「海辺」は,静と動の対比が鮮やかな曲でした。歌詞の中に「老人」と「祭り」「かみなり」といった言葉が出てきましたが,池辺さんの音楽が大変雄弁で,老人の寂しさのようなものが鮮やかに伝わってきました。

第6曲「水の旅」は,「締めの曲」ということで,特に分かりやすい曲でした。「紅葉が散ると冬構え」という歌詞どおり,今の時節にぴったりの曲でした。命の永遠性を思わせる曲で,最後に向けて合唱が大きく盛り上がっていくのが,感動的でした。ただし,大げさになり過ぎず,深く考えさせるように終わっていたのも印象的でした。曲の最後は,「螺旋の旅は終わらない」という言葉で締めていましたが,DNAの二重らせんなどを連想してしまいました。

全曲は,最初と最後の曲に堂々とした風格があり,その間に,色々な世代の人間が登場する変化に富んだ曲が入るという構成でした。高塚さんの歌詞に出てくる「水」という言葉には,「命」を連想されるところがあり,全曲を聞き終えたときには,石川県内の具体的な地名を盛り込みつつも,「命の永遠性のすばらしさ」といった,より普遍的なメッセージが伝わってくるようでした。是非,これからも県内で歌い継いで行って欲しい曲だと思いました。

演奏会の前半は県内の合唱団体が,多彩な曲を聞かせてくれました。

最初に登場した金沢市内の中学生の合同合唱団は,文字通り,「みずみずしい」声で,「水の旅」の前半に聞くのにぴったりでした。林光の組曲は,言葉遊び的な歌詞をカノンなどで表現した曲で,繰り返しの多さが心地よさにつながっていました。

グレゴリオ聖歌の中のキリエに続き,バルトークの民謡風の曲が歌われました。2人のメンバーによる独唱に続いてユニゾンがパッと広がるグレゴリオ聖歌の新鮮さ。テンポの変化が面白いバルトーク,と大変多彩な内容の第1部でした。

この第1部のステージの最後,合唱団は歌いながら(多分,林光の曲だと思います)退場したのですが,音が揺れ動きながら,フェードアウトしていくというとても面白い効果を出していました。ホルストの組曲「惑星」もこんな感じなのかな,と思いながら聞いていました。

第2部は,第1部とは対照的に赤いベスト(指揮者の中川さんは「赤いチャンチャンコ」と呼んでいましたが)を着た粋なオジサマたちによる金沢メンネルコールのステージでした。金沢メンネルコールの歌を聞くのは久しぶりだったのですが,お得意のバーバーショップ・スタイルの曲を楽しく,時にしっとりと聞かせてくれました。

今回は5曲歌われました。最初のOvertureは,ワーナーブラザーズのテーマ曲で(ワーナー・マイカルのシネコンでも流れている?),「Ladies and Gentlemen...」といったMCによる英語の挨拶が入りました。何か煙に巻かれた感じでしたが,それらしかったです。

2曲目は「線路は続くよどこまでも」と同じメロディの曲で,ベースがしっかり主張する労働歌という感じでした。バーバーショップというのは,男声四部合唱で通常はセカンド・テナーが主旋律を歌うのですが,時々例外があるようで,次の「シェナンドー」では,トップ・テナーが主旋律を歌ってしっとりとした雰囲気に浸らせてくれました。

速いテンポの曲や転調のある曲が続くゴスペルメドレーの後,最後にチャプリンの映画「モダンタイムス」の中から「スマイル」が歌われました。最後のロングトーンがとても印象的でした。

アンコールでは,黒人霊歌の「スイング・ロー・スウィート・チャリオット」で始まるメドレーが楽し気に歌われました。バーバーショップ・スタイルというのは,自在に伸び縮みするテンポと生き生きとした振り付けが魅力です。その楽し気な気分がスーッと伝わってくるような魅力いっぱいのステージでした。

前半最後は,能登地区の合同合唱団が登場しました。比較的年齢が高め(?)の男女混声合唱でしたが,白を基調に青いスカーフを付けた爽やかな衣装だったこともあり,能登の海と空を引き連れてステージに登場したようでした。

歌われたのは,NHK連続ドラマ小説「まれ」のテーマ曲「希空(まれぞら)」など,新しいご当地ソングを3曲でした。ちょっと雰囲気が重い感じもしましたが,しっかりと”思い”が伝わってくるような歌でした。

「まれ」では途中,客席からも手拍子が入りましたが,「前打ち」と「後打ち」の人が同じぐらいの感じで(結構カオスな感じ),「どっちに参加しようか?」とついつい迷ってしまいました。

演奏会の最後,前半に登場した中学生も加わって,全員で池辺さんの作った「風の子守歌」がアンコールで歌われました。音楽が始まると「ああ,この曲か」という,聞いたことのある作品でした。愛唱歌という感じの親しみやすさのある曲で,指揮をされていた池辺さん自身も気持ちよさそうでした。

この日のメインは,何といっても「水の旅」の初演でした。この曲が立派に完成したのは,池辺さんが能登演劇堂と石川県立音楽堂の仕事で長年石川県とのつながりを維持していたからだと思います。石川県の「空気」を体感していたことが,音楽の中に反映していたのではないかと思いました。

この公演の翌日は,オペラ「滝の白糸」の再演を聞いてきたのですが,どんどん石川発の音楽文化が充実してきていることを喜びたいと思います。

(2015/11/19)




演奏会のポスター


入口に出ていた案内


終演後,金沢21世紀美術館方面へ。相変わらず,バス停に長い列ができていました。


21美の周辺の木々も紅葉


夕方の21美の上は,カラスの集合場所になっていることが分かりました。


広坂周辺には,翌日に行われる「金沢マラソン」の幟が沢山出ていました。


しいのき迎賓館前には,スタートのゲートの準備


さらにはスタート用の台も設置されていました。


街路樹の紅葉もかなり散っていました。


金沢市役所前のカウントダウンボードも「あと1日」