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エリック・サティ「スポーツと気晴らし」:金沢ナイトミュージアム2015 金沢マラソン編
2015年11月14日(土)19:00〜 金沢ふるさと偉人館

サティ/スポーツと気晴らし(1914)
クリケ=プレイエル/組曲(1922)
金澤攝/秋のモーメント(1990/2015)

●演奏
金澤攝(ピアノ,解説)



Review by 管理人hs  

この日の日中は,金沢歌劇座で行われた石川県合唱連盟の演奏会を聞いてきたのですが,夜は金沢マラソン便乗企画,金澤攝さんのピアノ独奏によるサティ作曲の「スポーツと気晴らし」他を金沢ふるさと偉人館で楽しんできました。ちなみに,金沢ふるさと偉人館は,金沢歌劇座の「すぐ後ろ」です。

金澤さんは,音楽史に埋もれてきた作曲家を集中的に取り上げ,発掘してきたピアニストですので,サティのようなメジャーな作曲家を取り上げるのは,大変珍しいことです。演奏前の司会の方のトークでも,「金澤さんがサティを演奏するのは今回が初めて」とのことでした。

ただし,プログラムに書かれていた金澤さんの経歴に「15歳で単身渡仏,パリに学ぶ」とあるとおり,フランスの作曲家,サティには強い関心があったようです。今回は「よい機会」ということで演奏されることになったようです。

会場の金沢ふるさと偉人館に入る機会はほとんどなかったのですが,丁度よい具合にピアノを置ける場所があり,なかなか面白い雰囲気の中,至近距離で金澤さんのピアノを楽しむことができました。

サティの「スポーツと気晴らし」という曲集は,21曲から成っているのですが,各曲は大変短かったので,20分程度で終わったのではないかと思います。曲の方も,ゴルフとか競馬とか,いろいろなスポーツや娯楽を描いているのですが,いかにも「お手軽」という感じで,サクサクと進んでいきました。

今回の演奏会のもう一つの目玉は,この曲の楽譜に付けられているシャルル・マルタンによる挿絵をスライドで投影しながら演奏された点です。ピアノのすぐ傍に投影できる壁面があるというのも好都合でした。

この挿絵は,写実的なものではなく,ちょっとレトロでおしゃれなマンガっぽい雰囲気がありました。サティの音楽自体は,ちょっと訳が分からない感じがあったので,この挿絵があったので飽きずに楽しめたようなところがあります(ただし,挿絵のスライドが途中で一部ずれてしまったのが残念でした)。

金澤さんのピアノの方は,本当に間近で聞いたこともあり,ピアノの弦の音がダイレクトに聞こえてくるような迫真感がありました。必ずしもスマートな演奏という感じではなかったのですが,冒頭のファンファーレ風の曲から,聞き手を引き付ける吸引力がありました。

とりとめのない曲が多かったので,各曲に付けられた「詩」(今回,これが配布されていたのが良かったと思います)を読みながら,「「いちゃつき」はスポーツ?気晴らし?」とか「「花火」というタイトルの曲は,ドビュッシーにもあったなぁ」とか,「テニス」というよりは,ピンポンのよう?などと一人で突っ込みを入れながら聞いていました。

演奏会の後半では,フランス6人組の陰に隠れていて,ほとんど聞かれることのない,アンリ・クリケ=プレイエルの組曲が演奏されました。サティと同時代の知られざる作曲家をカップリングするあたり,「さすが金澤さん」という選曲でした。

5曲からなる組曲で,それぞれが別の人に献呈されています。雰囲気は,曲ごとに変化に富んでおり,多彩でしたが,金澤さんの解説通り,どの曲にも「どこか妖気漂う雰囲気」がありました。個人的には,サティの曲よりもこちらの作品の方が音楽としては楽しめました。金澤さんのピアノの音にも強烈な音の輝きがあり,ちょっと狂気が混ざったような世界に浸らせてくれました。この作曲家の別の作品も聞いてみたいと思いました。

最後にアンコールのような感じで,金澤さんが1990年に作り,今年,改作した「秋のモーメント」という小品が演奏されました。繊細さと華麗さが,心地よい暖かい響きの中に包み込まれているような作品で,今の季節にぴったりと思いました。

金澤さんの演奏を聞くのは久しぶりだったのですが(現在は本の出版に向け,演奏活動はあまり行っていないとのことです),今回のような組み合わせのプログラムも面白いなと思いました。1時間ほどの長さだったこともあり,疲労感も少なく,リラックスして楽しめたのも良かったと思いました。

(2015/11/19)




金沢ふるさと偉人館の入口


公演のポスター


演奏は↑こんな場所で行われました。壁面にスライドが投影されていました。


金澤さんが持参した,楽譜やLPレコードが展示されていました。


この日の公演のプログラム