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オーケストラ・アンサンブル金沢第369回定期公演フィルハーモニー・シリーズ
2015年11月21日(土) 14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) メンデルスゾーン/序曲「フィンガルの洞窟」op. 26
2) ファリャ/バレエ組曲「恋は魔術師」
3) ストラヴィンスキー/弦楽のための協奏曲 ニ調
4) ベートーヴェン/交響曲第8番ヘ長調, op.93
5) (アンコール)シューベルト/劇音楽「ロザムンデ」間奏曲第3番

●演奏
シャオチャ・リュウ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)
谷口睦美(メゾソプラノ)*2


Review by 管理人hs  

11月のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)定期公演フィルハーモニー・シリーズの指揮者は,OEK初登場となる台湾出身の指揮者シャオチャ・リュウ(呂紹嘉)さんでした。リュウさんは,1988年のブザンソン国際指揮者コンクールの優勝者で,現在,ヨーロッパの歌劇場などを中心に活躍されている方です。この日は,OEKが繰り返し演奏してきたベートーヴェンの交響曲第8番をメインに,メンデルスゾーン,ファリャ,ストラヴィンスキーと多彩な曲目が取り上げられました。

リュウさんについては,どういう音楽を作る方か全く予備知識がなかったのですが,室内オーケストラとしてのOEKとの相性は抜群で,どの曲についても,丁寧で,無理なく自然に流れる美しい音楽を聞かせてくれました。自然な流れといっても,リュウさんはOEKをしっかりとコントロールしており,「フィンガルの洞窟」の途中に出てくる美しい主題(後半,クラリネットがたっぷり聞かせるあの主題です。この日は遠藤さんが担当していました)などは,ぐっとテンポを落とし,沈潜していくような凄いムードを出していました。そういった音楽の流れに作為的なところがないのです。

続いて,ファリャのバレエ組曲「恋は魔術師」が谷口睦美さんの独唱を交えて演奏されました。ファリャといえば,原色的な音色と強烈なリズム感を期待していたのですが,リュウさんの作る音楽には,他の曲同様,力んだところがなく,カッチリとまとまったクリアな音楽を聞かせてくれました。その分,荒々しさや野性味はあまり感じなかったのですが,ファリャの音楽そのものの持つ,鮮やかなオーケストレーションを明快に再現してくれ,物足りなさは全くありませんでした。

対照的に黒いドレスの谷口さんからは,ステージに登場しただけで,スペイン・オーラがたっぷりと発散されていました。歌唱にもたくましさや豊かさがあり,リュウさんとOEKの作る音楽の上にスペイン風味をたっぷりと加えていました。谷口さんの歌唱ですが,地声で歌うような部分もあり,スペインの曲ならではの野性味を感じさせてくれました。曲全体を通じて,強く自立した「頼りになるアネゴ」といったキャラクターをしっかり感じさせてくれました。

この作品ですが,編成的にはそれほど大きくないのですが,ピアノが低音をしっかり支えていることもあり(この日のピアノは田島睦子さんでした),独特の硬質感があり,20世紀の音楽らしいモダンな感じもします。リュウさんとの指揮には,熱くなりすぎるところはなく,管楽器いを中心とした各楽器の音が混ざらずにリアルに原色的に音が前に出てくるような面白さがありました。

有名な「火祭りの踊り」は,一定のリズムの繰り返しの上で水谷さんのオーボエが怪しく登場します。この伴奏音型のくっきりした感じ,さらにそのリズムが軽くなったり重くなったりする変化がとても面白いと思いました。オーボエ以外の管楽器の音が順に浮かび上がってくるような「出し入れ」の感じにも緻密さがあり,冷静に燃える「青白い焔」といった不気味さがありました。

その他,カンタさんのチェロ,ヤングさんのヴァイオリンなどが,谷口さんに負けないぐらい,たっぷりと歌を聞かせる部分があったり,変化に富んだ構成になっていました。最後は「あさが来た」という感じで鐘が鳴り響きます。最後も熱くなりすぎず,クリアに音楽を盛り上げ,鮮やかに締めてくれました。

後半最初のストラヴィンスキーの弦楽のための協奏曲ニ調でも,リュウさんは,精緻かつ瑞々しい音楽をOEKから引き出していました。この曲は第2次世界大戦後,スイスのバーゼルの室内オーケストラのために書かれた作品ですが,戦後の開放感,どこか清々しさのある空気が伝わってきました。3つの楽章とも,かっちりと整理されて,澄んだ響きを聞かせてくれましたが,特に第2楽章の静謐な爽やかさが素晴らしいと思いました。

後半最後に演奏されたベートーヴェンの交響曲第8番では,無理のないテンポから力みのない,柔らかさを持った音楽を引き出していました。OEKメンバーも演奏していて気持ち良かったのではないかと思います。

第1楽章は爽快だけれども性急すぎないテンポで始まりました。他の曲同様,力みなく軽やかに流れた後,第2主題ではテンポをスーッと落とし,表情が自然に変化していました。オーケストラに無理をさせず,自然な美しい音を引き出されていました。展開部で徐々にテンションを高めた後,最後はしなやかに終わりました。

第2楽章はもともと軽快な楽章ですが,特に軽やかな演奏でした。時々テンポをルバートさせるなど,音全体がリラックスしていながら,緻密さがあり,良い意味で「スケールの小ささ」のある演奏でした。

第3楽章もリラックスした力みのない演奏でした。この楽章では,トリオでの,ホルン,クラリネット,チェロの動きが楽しみなのです。ちょっとヒヤリとするような部分もありましたが,テンポをじっくりと落とした室内楽的な気分満載の自由自在の演奏でした。

第4楽章も速すぎることのない自然なテンポで演奏されました。この楽章の場合,速いテンポで演奏すると鋭角的な感じになるのですが,そういった部分はなく,キビキビとしていながら,ヒステリックにならない流線形の演奏という感じでした。やり過ぎにはならないけれども,やるところはやる,といった演奏で,最後の部分はしっかりと高揚感を作って演奏会全体を締めていました。

どの曲も心地よく楽しめた演奏会でしたが,アンコールで演奏されたシューベルトの「ロザムンデ」の間奏曲第3番もまた見事でした。この曲もOEKが何回もアンコールで演奏してきたお得意の曲ですが,この日の演奏は,特に美しい演奏でした。息の長い静謐な歌が素晴らしく,天国的な気分を感じさせてくれました。中間部でのクラリネット,フルート,オーボエのソロも瑞々しい演奏でした。再現部での懐かしさも素晴らしく,「終わって欲しくない」という名残惜しさを感じさせながら,静かに音楽が消えていきました。

リュウさんは,どちらかというと地味な雰囲気の方でしたが(ロシア文学者の亀山郁夫さんにとても似ていると思います),オーケストラをコントロールしつつ,無理なく美しい響きを引き出すような音楽作りをする点で,職人的な実力のある方だと思いました。ヨーロッパではオペラの指揮もされているということですので,機会があれば,もっと大規模な作品なども聞いてみたいものです。

(2015/11/28)




石川県立音楽堂正面の看板

終演後,サイン会がありました。

シャオチャ・リュウさんのサイン


谷口睦美さんのサイン



北陸新幹線が見えると,ついつい撮影したくなります。


翌日の「パイプオルガンの日」公演の案内です。


金沢フォーラス前に,クリスマス・ツリーが出ていました。