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いしかわ音楽紀行 パイプオルガンの日
2015年11月22日(日)第1回13:00〜 第2回15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

第1回 13:00〜
1) バッハ,J.S./オルガン協奏曲ニ短調,BWV.596〜第4,5楽章
2) ヴァヴィロフ/カッチーニのアヴェ・マリア
3) フォーレ/レクイエム〜第4曲「ピエ・イエス」
4) クライスラー/プニャーニの様式によるテンポ・ディ・メヌエット
5) ヴィヴァルディ/協奏曲集「四季」〜「冬」第2楽章
6) ヴィターリ(シャルリエ編曲)/シャコンヌ ト短調
7) ブクステフーデ/前奏曲ホ長調,BuxWV.141
8) バッハ,J.S./オルガン小曲集〜「甘き喜びのうちに」BWV.608,「汝こそ我が喜びあり」BWV.615
9) バッハ,J.S./幻想曲ト長調(ピエス・ドルグ),BWV.572
10) バッハ,J.S./トッカータとフーガ ニ短調, BWV.565

●演奏
春日朋子*1-6,ジョン・ウォルトハウゼン*7-10(オルガン)
熊田祥子(ソプラノ)*2,3,坂口昌優(ヴァイオリン)*4,5

第2回 15:00〜
1) クラーク/トランペット・ヴォランタリー
2) ワーグナー(リスト編曲)/歌劇「タンホイザー」〜「巡礼の合唱」
3) 讃美歌/天には栄え
4) 澤野弘之/希空〜まれぞら〜
5) パッヘルベル/カノン ニ長調
6) ゼレンカ/ミゼレーレ ハ短調(抜粋)
7) ラモー(ウォルトハウゼン編曲)/歌劇「レ・ポレアド」序曲
8) マルシャン/オルガン曲集第1巻〜第6曲「ティエルスをテノールで」,第4曲「トランペットのバス」
9) ブルーナ/聖母マリアの連祷による第2旋法のティエント
10) メルニエ/インヴェンション第1番
11) バッハ,J.S./トッカータとフーガ ニ短調, BWV.565
12)(アンコール) バッハ,J.S./曲名不明

●演奏
黒瀬惠*1-6,ジョン・ウォルトハウゼン*7-12(オルガン)
合唱:OEKエンジェルコーラス*3,4, ラ・ムジカ*5,6



Review by 管理人hs  

11月になって,土日ごとにコンサートを聞いていますが,この日もまた午後から石川県立音楽堂に出かけ,「パイプオルガンの日」の公演を2回聞いてきました。音楽堂では,1年前の10月に「ピアノの日」という企画が行われましたが,それの続編のような形になります。

昨年は45分〜1時間程度のピアノ公演が3回でしたが,今年は1時間強のオルガンを中心とした公演が2回行われましたので,やや長めの演奏会の1回分ぐらいの長さでした。

プログラムは,札幌コンサートホールの専属オルガニスト,ジョン・ウォルトハウゼンさん,金沢で活躍している春日朋子さん,黒瀬惠さんのオルガンを中心に,ソプラノ,ヴァイオリン,児童合唱,混声合唱とオルガンとの共演を交えた内容でした。

パイプオルガンは,多彩な音色と広い音域を持つ楽器ですが,どうしても単独コンサートとなるとちょっと行きづらいところがあります。一つの楽器で何でも出来てしまうオールマイティな楽器なのですが,半面,どの曲も同じように聞こえるようなところがあります。この日の公演は,そういった単調さを解決するために,いろいろな楽器との共演を交えていました。

ステージ照明も工夫しており,前半は秋を思わせる色合い,後半は青系統の色合いになっていました。


1回目は春日朋子さん独奏で,バッハのオルガン協奏曲の中の2つの楽章が演奏されました。ただし,協奏曲といっても,通常のオルガン独奏曲です。他の作曲家の協奏曲をオルガン用に編曲したため,こう呼ばれているようです。シチリアーノを思わせるゆったりとした気分で始まった後,活発だけれどもほの暗さをもった気分で終わりました。食後に楽しむにはぴったりの曲だったと思います。

続いてソプラノの熊田祥子さんとの共演で2曲演奏されました。熊田さんの方は,通常のステージで歌っていたので,結構距離がありましたが,その距離感もまた崇高さのある雰囲気に感じられました。

最初に歌われた「カッチーニのアヴェ・マリア」は大変有名な曲ですが,実はカッチーニ作でないようで,ヴァヴィロフ作曲となっていました。清らかで甘い気分がたっぷりと広がりました。続く,フォーレのレクイエムの「ピエ・イエス」の方は,もともと原曲の方もあまり厚い編成ではないので,パイプ・オルガン版もオリジナル版と同様の印象でした。他の曲は,オーケストラ版とかなり違うと思いますが,この際,オルガン伴奏で全曲演奏というのも面白そうだと思いました。どの曲もしっかりとしたベース音と熊田さんの軽やかな声の対比が絶妙でした。

次のステージは,ヴァイオリンの坂口昌優さんとの共演でした。クライスラーの「プニャーニの様式による...」は初めて聞く曲でした。似たタイトルの「プニャーニの様式による前奏曲とアレグロ」の方は何回か聞いたことがありますが(ミシミシと始まる曲です),「テンポ・ディ・メヌエット」の方は,オルガン伴奏で聞いたこともあり,より荘重な感じでした。お馴染み,ヴィヴァルディの「冬」の2楽章はオルガンによる包み込むような温かさとすっきりとしたヴァイオリンとがしっかりと絡み合っていました。

最後のヴィターリのシャコンヌは,このステージのハイライトでした。オルガンがシャコンヌの主題を堂々と演奏した後,坂口さんの凛としたヴァイオリンを中心に次々と変奏が展開されていきました。オルガンが加わることで,ドラマティックが気分が増強され,荘重な歩みがホール全体に広がりました。

この曲についてですが,春日さんのお話によると,坂口さんと相談してオルガンのメモリーに色々な音色を記録したそうです。変奏曲というのは一種,オルガンの機能の見せ場満載かもしれませんね。

最後のステージは,ウォルトハウゼンさんの独奏のステージでした。ウォルトハウゼンさんは,まだお若い方で,最初の英語での挨拶などは,どこか初々しい感じもしましたが,演奏の方は堂々たるものでした。

ブクステフーデは,バッハの師匠筋に当たる作曲家ですが,大変重厚で骨太の音楽でした。西洋の石造りの建物の中にある,彫の深い彫刻を見るような趣きがありました。

続くバッハの小品2曲は,対照的に可愛らしい音を中心に晴れやかな気分がありました。幻想曲では,壮大に音楽が広がり,その音に陶酔させてくれるようでした。

そして,第1回のステージのトリは,「パイプオルガンといえばこの曲」と誰もが思う,トッカータとフーガが演奏されました。最初のトリルの音は,一般的には「チャララー」なのですが,もう少し細かい音が加わっていました。この作品は,バッハがかなり若い頃の作品なのですが,そのことを彷彿とさせるような勢いと若々しさがあり,スケール感たっぷりに名曲を楽しませてくれました。

その後,一旦会場から出て,JR金沢駅方面を一回りした後,第2回目のステージに向かいました。
 
この日は,休憩時間中,「オルガンつながり」で,カフェコンチェルトでハモンドオルガンを中心としたジャズカルテットが演奏をしていました。正直なところ,パイプオルガンを聞いたばかりの余韻に浸りたいかな...という気分だったので,参加しませんでした。ちょっと距離的に近すぎたかもしれません。音楽堂前なら良かったかも。

第1回目の方は,オルガン独奏曲については,バッハの作品を中心に構成されていまたが,第2回目の方は,より新しい時代の作品が核になっていました。進行は,黒瀬惠さんでした。

 2回目はこの辺で聞いていました。

まず,黒瀬さんの独奏でトランペット・ヴォランタリーがお目出度い感じで演奏されました。2回目の方は,オルガンステージに近い席で聞いていたのですが,トランペット型に突き出したパイプから音が聞こえているように思えました。もともと協奏曲的な曲ですが,黒瀬さんの演奏もそんな感じの演奏でした。

次のリスト編曲の「タンホイザー」は,もともとはピアノ編曲版なのでしょうか?今回の演奏はそれをまたオーケストラ版に戻したようなスケール感がありました。それと音色も「合唱」の雰囲気にぴったりでした。

その後は合唱団とオルガンの共演のステージが2つ続きました。

OEKエンジェルコーラスは,まず讃美歌の「天には栄え」を歌いました。この曲の原題は「Hark! the herald angels sing」ということで,エンジェルが歌うのにぴったりのテーマ曲のようでした。続く「希空」の方は,石川県ではすっかりご当地ソングの定番曲になっていますね。オルガンで伴奏してもPOPな感じになるのはさすがです。間近で見ていると子どもたちの表情もよく分かったのですが,その表情も良かったですね。純粋な声を聞きながら音楽の原点のようだなどと思いました。

続いては,「大人」のコーラス,ラ・ムジカの皆さんが登場しました。全員で15名程度の編成で,エンジェルたちとは一味違った,透明な音の世界を楽しませてくれました。

パッヘルベルのカノンは,もともとは3声部の弦楽器のための曲ですが,今回はオルガンがベース音を繰り返す上で,3声部(?)に分かれて,ダバダバ,ダバダバと歌われました。器楽的な音の絡み合いを楽しませてくれる演奏でした。

次のゼレンカのミゼレーレは,ほの暗い雰囲気がとても格好よく(ちょっとモーツァルトの交響曲第40番あたりを思わせる雰囲気),こんな良い曲があったんだ,という発見する喜びがありました。暗から明に変化していく気分の変化をバランス良く聞かせてくれました。

第2回の方も最後に,ウォルトハウゼンさんが登場しました。こちらの方は,バッハ以外の曲を中心に演奏されました。

最初のラモーの曲は,オーケストラの音の雰囲気を再現したようなところがあり,無骨さと華麗さが同居しているようでした。オリジナルティ溢れる音色とスケールの大きな演奏が素晴らしいと思いました。

続く,マルシャンの曲は静かな夕暮れの情緒を感じさせてくれるような不思議な気分がありました。プルーナの曲は,古い曲だと思うのですが,聞いているうちにどこかモダンな雰囲気に思えてきました。この辺がオルガンという楽器の持つ面白さかもしれません。ここでも音の選択がお面白く,大勢の人で演奏しているような面白さを感じました。

次のメルニエの作品は,現代曲でした。難解な雰囲気はあったのですが,例えば,ピアノで現代曲を聞くような硬質で鋭い感じがなく,どこか懐の広さのようなものを感じました。現代曲でも音楽的に聞かせてしまうのが,オルガンという楽器の面白さだと思います。

第2回の最後でも,第1回同様,バッハのトッカータとフーガが演奏されました。解釈の方は同様で,爽快かつ重厚な演奏を楽しませてくれました。

全曲が終わった後,ウォルトハウゼンさんのトークに続いて,アンコールでバッハの小品(多分)演奏されました。曲名などは,はっきり聞き取れなかったのですが,恐らく,先日パリで起こった同時テロ事件の犠牲者のために,ということで演奏されたようです。短い時間でしたが,静かに祈る音楽となっていました。

オルガンについては,このところ音楽堂での公演回数が少ないのですが,今回のようなトーク入りの親しみやすい雰囲気の企画は年に2回ぐらい定期的に行って欲しいなと思いました。パイプオルガンというのは,体全体に音を浴びるようにして楽しむことができます。休日の午後にリフレッシュするにはぴったりの演奏会でした。

(2015/11/28)



公演のポスター


公演の案内


この日のチケットとリーフレット。チケットの方は,入場時に回収されたので,第2回目の分を記念撮影


開演前,交流ホールでは社交ダンスの協議会を行っていました。


終演後,もう一度行っみると...終わっていました。「ダンスがすんだ」状態です。