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クリスマス・メサイア公演
2015年12月13日(日)15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) 榊原栄編曲/クリスマス・ソング・メドレー(諸人こぞりて,もみの木,赤鼻のトナカイ,ホワイト・クリスマス,サンタが街にやってくる,天には栄え,ジングルベル)
2) ヘンデル/オラトリオ「メサイア」(抜粋 7-11,19,20,21-22,27-28,31-32,34-37,39,41-46,49-52曲省略)
3) (アンコール)きよしこの夜
4) (アンコール)讃美歌

●演奏

藤岡幸夫指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)*1-3
合唱:北陸聖歌合唱団*2-4,OEKエンジェルコーラス*1,3
独唱:平井香織(ソプラノ)*2,手嶋眞佐子(メゾ・ソプラノ)*2,鈴木准(テノール)*2,久保和範(バスバリトン)*2
春日朋子(オルガン)*2-4



Review by 管理人hs  

12月恒例の北陸聖歌合唱団とOEKによるクリスマス・メサイア公演。今年の指揮は藤岡幸夫さんで,ソリストは,昨年同様,二期会所属の4人の歌手でした。抜粋版で演奏されましたが,「毎年外せない曲」がしっかり入っており,第1部の後半を中心に,一足先にクリスマス気分を味わうことができました。

藤岡さんがOEKの「メサイア」公演に登場したのは今回が初めてでしたが,指揮ぶりは,堂々とした楷書という感じで,「ハレルヤ・コーラス」をはじめとして,正攻法のパシッとした音楽を聞かせてくれました。

第1部の序曲にもすっきりとした明快な音楽の流れが伝わってくる清々しさがありました。

続いて,鈴木准さんが立ち上がりテノールのアリアが始まります。この曲は毎年必ず入っていますが,この曲を聞くと「12月だなぁ」という気分になります。鈴木さんの声は大変軽やかで美しく,宗教曲らしい清潔さがありました。過去のOEKの「メサイア」公演に登場したテノールの中でも特に若々しく瑞々しい歌だったと思います。

鈴木さんは,プロフィールによると松本隆現代語訳によるシューベルトの「冬の旅」のCDブックを録音されているそうですが,同じシューベルトの「美しい水車屋の娘」なども是非聞いてみたいものです。ぴったりだと思います。

バリトンは,当初,青山貢(来月,IL DEVUの一員で石川県立音楽堂に登場予定ですね)さんのはずったのですが,急遽,昨年に引き続いて久保和範さんに交替になりました。久保さんは,バリトンではなく,「バスバリトン」ということで,大変威厳のある声を聞かせてくれました。続いてメゾ・ソプラノの手嶋眞佐子さんの歌になります。手嶋さんの方は,この「メサイア」公演に登場するのは今回が初めてです。しっとりとした落ち着きのある声を聞かせてくれました。

毎年お馴染みの「For unto us a Child is born」(ワンダフル!カウンセラー!の歌詞が出てくる曲ですね。すっかりこの部分は覚えてしまいました)は,穏やかなテンポでたっぷりと歌われました。弦楽合奏によるパストラールが静かに終わると,ソプラノを中心としたクリスマスの場面になります。

今回のソプラノの平井香織さんも,OEKの「メサイア」公演に登場するのは初めてですが,富山県出身の方ということもあり,過去,OEKとはよく共演されています。平井さんの声は,3年前まで,この「メサイア」公演の常連だった朝倉あづささんの声に比べると,より濃厚さがあると思いました。クリスマスの物語をしっかりと聞かせてくれました。

第17番の「Glory to God...」も欠かせない曲です。今回もオルガンステージにトランペットが登場し,キラキラとした光沢感のある響きの中,合唱がビシッと聞かせてくれました。

第1部の最後はソプラノによる「Rejoice greatly...」に続いて,メゾ・ソプラノとソプラノが重唱ではなく,連続して歌う「He shall feed His flock like a sheep」で締められました。2人の声と藤岡さん指揮OEKの作るムードがしっかり融合し,歌詞どおりの安らぎに満ちた世界を伝えてくれました。

今回はここで20分の休憩が入りました。

第2部と第3部は続けて演奏されました。が,例年よりもカットが多かったようで,心なしか,後半は例年よりも短く感じました。

第2部は,これもまた欠かすことのできない,メゾ・ソプラノの大アリア「He was despised」で始まりました。手嶋さんは,じっくりとしたテンポで,情感を抑え気味にして,深い世界を聞かせてくれました。対照的に中間部での弦楽器のキビキビとしたリズムも印象的でした。

その後,合唱曲が3つ続きます。合唱団の皆さんにとっては,難所の連続だったと思いますが,じっくりとしたテンポで歌われたこともあり,しっかり内容の詰まったボリューム感を聞かせてくれました。特に3曲目の「All we like sheep」が良かったと思います。柔らかな感じで始まった後,最後の部分で深〜い余韻を聞かせてくれました。

第2部では,第40番のバリトンのアリアも聞きどころです。久保さんの声は,力と品格を兼ね備えており,惚れ惚れするような格好良い歌を聞かせてくれました。

そして,お待ちかねの「ハレルヤ・コーラス」になります。毎年,イントロのような感じでテノールの短い曲が入っていたのですが,今年はカットされていました。毎回,必ず入っていたので,40番の後にすぐに「ハレルヤ」が始まると,個人的にはちょっと違和感を感じてしまいました。

ただし,演奏は大変立派でした。小細工なく,ストレートにバシッと聞かせてくれる感じでした。藤岡さんの指揮は全曲を通じて,王道を行くような立派さががありましたが,その頂点の一つを築いていました。

ここで盛大に拍手が入った後,第3部へと入っていきました。

といっても今回の第3部は3曲(実質2曲)だけでした。これもまた絶対に外せない「The trumpet shall sound」では,藤井さんが,見事なトランペットを聞かせてくれました。優しくマイルドでありながら,しっかりと曲に華やかさを加えており,久保さんの威厳のある声をしっかりと盛り上げていました。

最後のアーメン・コーラスになると,「いよいよ年末だな」というしみじみとした気分になります。この日の演奏も,最後,力いっぱい盛り上がるというよりは,しみじみとした情感を感じさせてくれました。大げさになり過ぎず,感動を心の中に込めて終わるという感じでした。

全部記憶しているわけではないのですが,指揮者によって曲の盛り上げ方が違うのが面白いですね。毎年のように「メサイア」を聞いているのですが,指揮者による違いを味わえるのが,恒例の公演を聞く楽しみの一つだと思います。

さて,今回の「メサイア」は抜粋版だったので,それに先立って,OEKエンジェルコーラスの児童合唱が加わって,クリスマス・メドレーが演奏されました。この榊原栄さん編曲によるメドレーも,すっかり金沢の冬の定番だと思います。10回以上聞いていると思うのですが,この季節の気分にぴったりですね。榊原さんの編曲にはゴージャスな気分があり,藤岡さんの楽し気な指揮ぶりにぴったりでした。「ジングルベル」では,「オー!」の部分で,子どもたちの手の動作が入りましたが,大変動作が元気よく,演奏会を大きく盛り上げてくれました。

アンコールでは,OEKエンジェルコーラスが1階席の通路に再度登場し,全員で「きよしこの夜」が歌われました(歌詞カードが欲しかったかな?)。そして,客席の照明が明るくなった後,オルガンのみの伴奏で讃美歌が歌われました。このパターンもすっかり定番です。

今年の金沢の12月は,今のところとても穏やかです。「メサイア」が終わると,いよいよ歳の暮です。世界的には,テロや災害など,緊迫した情勢が続いていますが,演奏会の間は別です。平和に過ごせていることに感謝したくなるような演奏会でした。

(2015/12/23)





公演の立看板。12月18日の新妻聖子さんの看板と並んでいました。


玄関にはクリスマス・ツリー

歌手の交替の案内