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Co.山田うん 春の祭典ツァー 金沢公演:現代舞台プロジェクト
2015年12月19日(土)18:00〜 金沢市民芸術村パフォーミングスクエア

1) ストラヴィンスキー/日本の三つの抒情詩
2) ストラヴィンスキー/結婚
3) ストラヴィンスキー/春の祭典

●スタッフ・出演等
振付・演出:山田うん

使用音源:ロバート・クラフト指揮スーザン・ナルッキ(ソプラノ)*1,ボクロフスキー・アンサンブル*2,ワレリー・ゲルギエフ指揮キーロフ歌劇場管弦楽団*3

出演:伊藤知奈美*1,3,川合ロン*2,3,山田うん*2
荒悠平,飯森沙百合,木原浩太,小山まさし,酒井直之,城俊彦,西山友貴,長谷川暢,広末知沙,三田瑶子,山下彩子*3



Review by 管理人hs  

金沢市民芸術村パフォーミングスクエアで,現代舞台プロジェクトと題して,ダンスカンパニー Co.山田うんによる,バレエ「春の祭典」を中心とした公演が行われたので,観てきました。12月19日と20日の2日連続で行われたのですが,私は,その初日の方を観てきました。

ストラヴィンスキーの「春の祭典」は,今年の7月に井上道義さん指揮のオーケストラ・アンサンブル金沢と日本センチュリー交響楽団の演奏で聞いたばかりですが,実際にバレエとして上演されるのを観たことがありません。今年は金沢市文化ホールで,別アーティスト(カンパニー マリー・シュイナール)によって上演されたのですが,そちらの方は観損なってしまったので,今回を逃すと金沢では,しばらく観られないと思い,出かけてきました。

ただし,今回の演出・振付の山田うんとそのダンスカンパニーについては,全く予備知識がなく,一体どういうパフォーマンスが観られるのだろう?と期待と不安が入り混じった気持ちで臨みました。その結果ですが...衝撃的なすばらしさでした。パフォーミングスクエアという,舞台までの距離が非常に近い会場で観たこともあり,すっかり舞台に入り込んでしまいました。この会場は簡素な作りですが,結構ステージ(というか踊るための場所)を広く取れるので,特にコンテンポラリーなダンスにはぴったりの場所かもしれません。

ストラヴィンスキーの音楽自体は,何回も聞いたことはありますが,何よりも,音楽とダンスとの一体感が素晴らしいと思いました。今回の「春の祭典」は13人による上演でしたが,音楽の展開とぴったりのダンスの連続でした。コンテンポラリー・ダンスを観たことがほとんどないので,比較はできないのですが,間近で見るプロのダンスのキレの良さに感動しました。

前半と後半の間に10分の休憩があったのですが,その休憩時間が終わる頃,まだ会場が明るいのに,「春の祭典」の冒頭の例の「超高音ファゴット」の音が聞こえてきました。これが開演のベル代わりになっていました。

その後,照明が落とされ,序奏の間は暗いままで神秘的な音楽が続きました。2曲目の「春のきざし」(弦楽器がザッザッザッザッ...と変拍子のリズムを刻む「春の祭典」といえばまず思い浮かぶ曲ですね)になると,照明が少し明るくなり,ダンサーたちが「四つ足の動物」みたいな感じで待機していました。皆さん同じ衣装だったので,この時点では,人間なのか動物なのか男なのか女なのかよくわからない状況でした。

その後,躍動感あふれるストラヴィンスキーの音楽に合わせて,さまざまに配置を替え,組体操のような感じになったり,痙攣したような感じになったり,単純に見ていて飽きませんでした。

対立する2つの部族が出てくる部分は,ストラヴィンスキーの音楽もポリリズムになるのですが,13人が3つぐらいのグループに分かれて,不思議な緊迫感を感じさせてくれました。第1部の最後の「大地の踊り」は,音楽自体スピード感があって,ものすごくカッコよいのですが,ここでは,全員がトランス状態になってしまったような振付で,音楽に酔っているような雰囲気が出ていました。

ここで暗転し,第2部になります。第2部の最初の序奏部は夜を暗示するような感じで,ソロのダンサーが,ゆっくりとした踊りをねっとりと見せてくれました。クレジットされていませんでしたが,このダンスは山田うんさんだったと思います。

後半のダンサーたちの衣装は少し違っており,「乙女」をイメージさせるものでしたが,ここでも男女混成だったのが面白いところです。後半の音楽も,打楽器が11拍子になる部分があったり,とてもダイナミックなのですが,ダンスの方もこれにぴったりで,野性的かつ緻密だなぁと思いました。

終盤の「祖先の儀式」の辺りでは,音楽の方は,怪しく静かでエキゾティックな感じになります。ダンスの方のこれまでと違って,きちんと隊列を組んで意味深な動きを見せたり,これから何が始まるのだろうという気分になります。

そして,最後の「生贄の踊り」で音楽の激しさに合わせて躍動感たっぷりのダンスが展開します。この静から動への,ドラマティックでスピーディーな繋がりとコントラストが特に面白いと思いました。

最後の曲での躍動的な動きを見ながら,バーンスタインのミュージカル「ウェストサイド物語」の最初の方出てくる,2つのダンスチームが,足を「Yの字」に上げて絡み合う感じとちょっと似ているかなと変なことを思いながら見ていました。

音楽の最後の最後の部分では,「生贄」役の女性ダンサーがソリストのようになり,音楽のタイミングに合わせて,「力尽きた」という感じで一人だけドサっと倒れるのですが,その雰囲気が非常にリアルで,「大丈夫?」と思わせるぐらいでした(実際だったら,柔道の「受け身」をしないと結構危険かもしれません。ただし,この曲の最後で床を手で叩いたら,結構,和風かも。)。そのドサっと言う音とストラヴィンスキーの音楽とのシンクロが衝撃的でした。

この日の音源は,ゲルギエフ指揮キーロフ劇場のCD(?)の演奏を使っていました。低音をしっかりと響かせた音響も素晴らしく,迫力満点でした(自宅だとこんな大音量では聞けないですね)。最後のドサっと倒れる部分は,非常に大きな間を取っていましたが,今回の振付にぴったりだと思いました。

今回の「春の祭典」のパフォーマンスを観て,新体操やシンクロナイズドスイミングなどの団体スポーツと通じる世界があると思いました。野性的な部分だけでなく,しっかりと統率されている点で,安定感を感じました。「春の祭典」は,20世紀音楽の古典になっていますが,バレエとしても古典なのだということを再認識しました。

前半もストラヴィンスキーの音楽に合わせたパフォーマンスでした。最初の「日本の三つの抒情詩」は伊藤知奈美さんの独舞,二曲目の「結婚」は,山田うんさんと河合ロンさんによるダンスでしたが,これらも大変楽しめました。ストラヴィンスキーの音楽は,音だけ聞くと難解ですが,ダンス付きで見ると全く退屈しないことが分かりました。

「日本の三つの抒情詩」は4分程度でしたが,その短さが,叙事詩=和歌の雰囲気にぴったりでした。真っ暗な状態から,白い衣装を着た女性が浮かび上がり,少し沈黙が続いた後,そのしなやかな動きにぴったり合ったタイミングで音楽が始まるのが凄いと思いました。その後も流れの良いダンスが続きました。

白いドレスは「雪」を思わせるところがり,和歌のモチーフを暗示していたのかもしれません。各曲は,いきなりポッと終わるのですが,これがどこか短歌的な感じもありました。

「結婚」の方は,打楽器とピアノと声楽を中心とした曲で,ロシア的な感じと現代的な感じとが混ざった,ちょっとカール・オルフの曲を思わせるような曲です(オルフの方が影響を受けてるのだと思います)。

「結婚」といっても,ハッピーな感じの曲ではないのですが,この曲でもまた,音楽の流れに乗ったキレの良いパフォーマンスが見事でした。よく考えると,普通のバレエで言うところの,「パ・ド・ドゥ」なのですが,最後の部分で「寝技(?)」に持ち込む辺りがコンテンポラリーなところです。

曲の最初は,いきなり女性が男性に蹴り掛かるように始まり,空手の組手のような感じで留まるのが意表をついていて,「おおっ」と思いました。その後は音楽に合わせて,縦横無尽に2人が動き回っていました。

音源はポクロフスキー・アンサンブルという団体のものを使っていましたが,この演奏が非常に生々しい感じで(ノン・ヴィブラート的な発声で,古いのか新しいのか分からないような雰囲気がありました),迫力のあるダンスにぴったりでした。

我が家にあったCDに比べると,声が色々なところから飛び交う感じがあり,どこかユーモアのような感覚もあると思いました。解説に書かれていたとおり「喜遊曲」的なムードがあると同時に,「春の祭典」の世界に通じるようなエネルギッシュな部分もあり,見ごたえ,聞きごたえがありました。

音楽の方は,一応「4つの場」に分かれていたのですが,特にインターバルは置かず,一気に演じられました。最後の部分は,祝祭的だけれどもちょっと意味深な鐘の音が連続する中で,2人のダンサーが寝ながら絡み合う感じで終わります。

今回,ストラビンスキーの3作品のパフォーマンスを観て,音楽だけで聞くよりもイメージが広がるなぁ,と当たり前のことを感じました。それと,ダンサーたちのキレの良い体の動きを見ながら,アートとしてのダンスというのは,人間の身体の動きの連続で,空間をキリッと支配することなんだな,と思いました。この辺は,生で観ないとなかなか実感できない点なのかもしれません。

今回の夜の部の公演ですが,狭い会場だったこともあり,ほぼ満席だったようです。比較的若い人が多く,クラシック音楽の演奏会とは客層が違っているのも新鮮でした(配布されるチラシがちがうのが新鮮でした)。個人的には,もう一度観てみたいぐらいの迫力と魅力のあるステージでした。これまで,金沢市民芸術村のパフォーミングスクエアに来る機会は少なかったのですが,今回のような公演があれば,是非また来てみたいと思います。それと,山田うんさんとそのカンパニーの今後の活動にも注目ですね。

(2015/12/27)




公演のチラシと公演時間の案内


金沢市民芸術村の夜景


こちらはパフォーミングスクエアの外観


公演のリーフレット


パフォーミング・スクエアの内部


ダンス関係のチラシが沢山入っていました。