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ラ・フォル・ジュルネ金沢2015 パシオン・バロック:バッハ,ヘンデル,ヴィヴァルディ
2015年4月29日〜5月5日 石川県立音楽堂,金沢市アートホール,JR金沢駅周辺,金沢市内各地

Review by 管理人hs  

5月5日(火・祝) 本公演3日目

ラ・フォル・ジュルネ金沢2015最終日。快晴の中,私は朝10:00から夜20:30頃まで,ほぼ30分感覚でフルにハシゴをしました。

植木等も歌っているように「いつの間にやらハシゴ酒...わかっちゃいるけど,やめられない」という域になりつあります。これも「ラ・フォル・ジュルネ」の精神の一種かもしれませんが,家族からは呆れられています(既に放置されています)。

 
この日は快晴でした。

■【K311】10:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)バッハ,J.S./2つのヴァイオリンのための協奏曲ハ短調,BWV.1060
2)バッハ,J.S./ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調,BWV.1041
3)バッハ,J.S./2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調,BWV.1043
●演奏
アンドラーシュ・ケラー指揮コンチェルト・ブダペスト
アンドラーシュ・ケラー,セルゲ・ツィンマーマン*1,3(ヴァイオリン)

「朝一」のコンサートホール公演には,アンドラーシュ・ケラー指揮コンチェルト・ブダペストが登場しました。この3日を通じて思ったのは,「朝バッハ(造語です)は健康に良いかも」ということです。体調が良かったですね。

この公演については,セルゲ・ツィンマーマンさんを中心とした公演かと予想していたのですが,実際はケラーさんとそのアンサンブルが主役でした。アンサンブル全体に落ち着きと清廉なクールさがあり,「朝バッハ」のムードにぴったりでした。

最初に演奏された2つのヴァイオリンのための協奏曲は,有名な曲の方ではなく,元々はオーボエとヴァイオリンのために書かれた曲を2つのヴァイオリン用に編曲してものが演奏されました。ケラーさんを中心としたアンサンブルは,ヴィブラートをしっかり掛けて演奏していましが,全体にとても率直で,スーッと音を伸ばしていましたので,清潔感がありました。

次に演奏されたヴァイオリン協奏曲第1番はケラーさんの弾き振りでした。オーケストラと独奏ヴァイオリンとが一体になった演奏で,スリムで緻密な中に落ち着きと躍動感が過不足なく散りばめられたバランスの良さがありました。

最後に有名な「2つのヴァイオリンのための協奏曲」が演奏されました。この曲では何といっても第2楽章の美しさが印象的でした。甘くなり過ぎない演奏で,ケラーさんとツィンマーマンさんとが見事なバランスでしっとりとした演奏を聞かせてくれました。ここでも均衡と躍動のバランスの予算を感じました。

セルゲ・ツィンマーマンさんの父上も有名なヴァイオリニストのフランク・ペーター・ツィンマーマンということで,今後,どういうヴァイオリニストに育っていくのか注目したいと思います。次回は,独奏を聞いてみたいものです。

 毎年恒例の「写真ボード」も少しづつ写真が増えていました。

■【K321】11:00〜 石川県立音楽堂邦楽ホール
スカルラッティ,D./ソナタ ハ長調, K.159
スカルラッティ,D./ソナタ ニ短調, K.9
スカルラッティ,D./ソナタ ニ短調, K.1
ラモー/鳥のさえずり
ラモー/ロンド風のミュゼット
ラモー/タンブリン
バッハ,J.S./アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳〜メヌエットニ長調,ポロネーズト短調,メヌエットト長調,メヌエットト長調,メヌエットト短調,マーチニ長調
ピアソラ/S.V.P.
ピアソラ/最後の嘆き
ピアソラ/バチンの少年
ピアソラ/白い自転車
S.V.P.
●演奏
御喜美江(アコーディオン)


邦楽ホールで行われたアコーディオンの御喜美江さんの公演は,御喜さんの長年の経験を感じさせる素晴らしいトークを交えての素晴らしい内容でした。御喜さんは,母方の親戚が金沢にいらっしゃるそうです。また,10代でデビューしたときに指揮者の岩城宏之さんが御喜さんを引き立ててくれたそうで,恩人とのことです。その岩城さんへの「PASSION」を込めて演奏する,と語っていました。



アコーディオンの機能についての説明も大変興味深い内容で,クラシックアコーディオンの場合,左側のボタンでも音階を出すことができるので,ピアノと同じようにポリフォニーの音楽も演奏可能となり,レパートリーが広まったとおっしゃられていいました。さらに,蛇腹の部分を動かすと音量の強弱も自在にできるので,音が減衰するだけのピアノよりも,ある面では高機能なのではないか(持ち運びもできるし),と思いました。

今回の演奏は「すべてオリジナルの譜面で演奏します」というのも驚きでした。スカルラッティのソナタで始まりましたが,その自由自在の演奏を聞いて,痒いところに手が届くような心地よさ(?)を感じました。音色も素晴らしく,「ハンディパイプオルガン」のようなものかもと感じました。

ラモーの曲のコーナーでは鳥の声,バグパイプ,タンブリンを模した曲が演奏されました。特にバグパイプなどは,「お得意」のレパートリーなのではと思いました。

バッハの曲では,アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳の中から6曲が演奏されました。御喜さんは,「プロの奏者として楽器を演奏することは大変辛く苦しいことである。何かきっかけがないと続かないものである」と語っていましたが,御喜さんにとってのきっかけとなったのが,「バッハのメヌエット」として有名な曲を含むこのバッハの曲集だったそうです。その「原点」を味わいたっぷりに楽しませてくれました。

最後はピアソラの曲が4曲演奏されました。ピアソラの曲といっても,激しく斬新なタンゴではなく,ヨーロッパ映画などに出てきそうな,ちょっと哀愁のある親しみやすい小品ばかりでした。アコーディオンにぴったりの作品ばかりでしたが,最後に演奏された「白い自転車」という曲には,特に「人生の縮図」といった感じの趣きがあり,ノスタルジックな気分になりました。

アコーディオンは人間の体調がそのまま反映する楽器だと御喜さんはトークで語っていましたが,まさに御喜さんの人生そのものが表現されたような演奏の数々でした。

終演後,サイン会が行われるということで,売店でCDを購入し,御喜さんからサインを頂きました。このCDを音楽祭の後にも聞いているのですが,すっかりお気に入りの1枚になりました。



■【K312】12:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)モーツァルト/きらきら星変奏曲,K265
2)モーツァルト/ピアノ協奏曲第23番イ長調,K.488
3)(アンコール)ショパン/練習曲 op.25-7
●演奏
チョン・ミョンフン(ピアノ),チョン・ミョンフン指揮東京フィルハーモニー交響楽団(コンサートマスター:荒井英治)*2

続いて,今回の音楽祭全体の「目玉」となったチョン・ミョンフン指揮&ピアノの公演に行きました。この公演は大入り満員でしたが...「バッハ,ヘンデル,ヴィヴァルディ」から完全に逸脱した公演だったので,個人的には音楽祭全体から見ると「なぜここに入る?」と違和感を感じました。



というわけで,やや釈然としない部分はあったのですが,「チョン・ミョンフンが弾き振りをする」機会も大変貴重なので,「聞き逃せない」と思い予定に含めました。

プログラムには,「モーツァルトのピアノ協奏曲第23番 他」と書かれていましたので,何かが演奏されるのは分かっていたのですが,この曲については「サプライズ」にしていたようです。

オーケストラ用の座席は並んでいるけれども,メンバーが全くいないステージにチョン・ミョンフンさんが登場し,ゆったりと弾きだしたのが「きらきら星変奏曲」でした。会場には,ちょっと緊張した雰囲気があったのですが,誰でも知っているシンプルなメロディが流れてきて,「ほっ」というような空気が会場に静かに広がりました。

その後の変奏については,「きまぐれ?」と思わせるほど独特の緩急を付けていました。「ちょっとやり過ぎかな?」という部分もありましたが,やはり,こういう演奏ができる(許される)のは,彼だけかもしれません。

続いてオーケストラのメンバーが入ってきて,モーツァルトの協奏曲が演奏されました。まず,楽器の配置が独特でした。ピアノは舞台中央の下手側の手前から上手側の奥へ斜めにセットされていました。オーケストラの方も,下手側に弦楽器,上手側に管楽器を並べるという独特の配置でした。

第1楽章から,ゆったりたっぷりとしたテンポで演奏していました。特に「きらきら星」同様にピアノはややもたれ気味になるような感じで,味の濃さがありました。展開部からカデンツァに掛けてのちょっと不吉な感じなどチョン・ミョンフンさんならではだと思いました。第2楽章にもその不吉な気分が続いた後,第3楽章で解決されるというような流れになっていました。

第3楽章では,躍動感のあるロンド主題に強いアクセントを付けるなど,独特の癖がありました。この曲では,ピアノと木管楽器のやり取りと特に面白いのですが,今回の配置だとピアノと木管楽器の距離がとても近いので,特に生き生きとしていました。

というわけで,チョン・ミョンフンさんらしさを随所に感じさせる演奏となっていました...が,やはりその演奏に説得力があればあるほど,「バロック音楽」から外れていきます。さらに,アンコールでショパンの練習曲がじっくりと演奏されたので,「どうしたものだろうか?」とやや複雑な思いで聞いていました。

 

■【K322】13:45〜 石川県立音楽堂邦楽ホール
ヘンデル/パッサカリア ト短調, HWV.432
バッハ,J.S.(ブゾーニ編曲)/コラール前奏曲「いざ来たれ,異教徒の救い主よ」BWV.659
マルチェッロ(バッハ,J.S.編曲)/オーボエ協奏曲ニ短調,BWV.974〜アダージョ
スカルラッティ,D./ソナタ ト長調, K.144
スカルラッティ,D./ソナタ ト長調, K.103
スカルラッティ,D./ソナタ ロ短調, K.27
バッハ,J.S.(ブゾーニ編曲)/コラール前奏曲「主イエス・キリスト,われ汝を呼ぶ」BWV.639
バッハ,J.S.(ヘス編曲)/カンタータ BWV.147〜「主よ,人の望みの喜びよ」
ヘンデル/シャコンヌ ト長調,HWV.435
(アンコール)バッハ,J.S. コラール風の曲
●演奏
アンヌ・ケフェレック(ピアノ)

続いて,邦楽ホールに移動し,アンヌ・ケフェレックさんのピアノ独奏の公演を聞いてきました。ケフェレックさんは,毎回毎回,小品をつなげて一つのムードを作り出すレベルの高い演奏を聞かせてくれることが素晴らしいのですが,今回は,バロック音楽の小品を沢山ならべて,45分の音のドラマを伝えてくれました。やはり,ラ・フォル・ジュルネで聞くならば,ケフェレックさんのような構成がお手本だと感じました。

最初にケフェレックさんが「途中で拍手はいれないでください」と日本語で語った後,プログラムは始まりました。ヘンデルのパッサカリアから始まり,バッハのコラールなど抒情的な曲中心に進み,最後はヘンデルのシャコンヌで締めるという,とてもよく考えられた選曲でした。

ケフェレックさんの演奏は,キレ良く明快で,全体が流麗です。叙情的な曲でも暗くなり過ぎず,どこかエレガントさがあります。特に印象に残ったのが,最後に演奏されたシャコンヌでした。シャコンヌといえばバッハの曲が有名ですが,それとは別の魅力を持った起伏の大きな作品でした。

この曲を聞きながら,人生の起伏がそのまま曲になったような曲だと思いました。最初に演奏されたパッサカリアと対になっており,公演全体をしっかりとまとめてくれました。この曲の最後の部分では,明るく前向きな曲想に変わって力強く締めてくれました。何かのきっかけがあれば,一気に人気が出そうな曲かも,と思いながら聞いていまた。

「バロック音楽もいろいろ,人生もいろいろ」と島倉千代子のような歌のようなことを思いながら,45分のケフェレックさんのピアノに集中しました。バッハのコラール(多分)のアンコールを弾き終えた後,ケフェレックさんは,ピアノの蓋を閉じていました。これもまた洒落ていました。というわけで,何から何まで「さすが」というステージでした。

■【K313】15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)シューマン/アラベスク
2)ベートーヴェン交響曲第7番イ長調,op.92
●演奏
チョン・ミョンフン(ピアノ)*1,チョン・ミョンフン指揮東京フィルハーモニー交響楽団(コンサートマスター:荒井英治)*2


再度,コンサートホールに戻り,今度はチョン・ミョンフンさん指揮による交響曲の公演を聞きました。バロック時代に交響曲はなかったので,この公演についても,テーマからは逸脱していたのですが...会場は超満員でした。「コンサートホールを満員にできるのは,やはり交響曲だけか?」とちょっと寂しく感じました。しかし,「チョン・ミョンフンがベートーヴェンを指揮する。聞き逃せない」ということで,複雑な思いを抱きつつ,聞いてきました。

この公演も1曲だけだ,公演時間がやや短いせいか,ベートーヴェンの前にチョン・ミョンフンさんのピアノ独奏で1曲演奏されました。弾かれたのはシューマンのアラベスクでした。自然なロマンの漂うリラックスした演奏だったのですが...やはり,「なぜこの曲?」というのが気になってしまいました。



ベートーヴェンの交響曲第7番はOEKの得意のレパートリーですが,弦楽器の編成がかなり大きかったこともあり,OEKで聞くのとは違った迫力を感じました。ただし,OEKの演奏に耳が慣れているので,やはりやや大味かなと感じるところがありました。

それと,これまで聞いてきた「何が出てくるかわからない」バロック音楽の数々と比べると,古典的なレパートリーを改めて聞くこと自体,妙に予定調和的に感じてしまいました。例えば,第1楽章の場合,序奏が終わって,フルートが第1主題を軽快に演奏し,その後,オーケストラが一斉に演奏するという流れですが,「スムーズすぎる」「音に余裕がありすぎる」などと感じました(今回の場合,「テーマと関係ない」ことがどうしても気になったので,ちょっと意地悪く聞いてやろうと思ってしまったせいもありますが...)

OEKの場合,レパートリーの幅が狭い分,常に予定調和的なものを打破しようと,あれこれ手を変え,品を変えチャレンジしているようなところがある気がします。そう感じたのは,本日の夕方に邦楽ホールで行われた,アビゲイル・ヤングさんとOEKの弦楽セクションによるヴィヴァルディの「四季」を聞いたからかもしれません。これについては後述します。

アタッカで続けていた第1楽章と第2楽章,第3楽章の躍動感やスケール感,第4楽章のクライマックスでの手綱をビシッと引き締めるような盛り上げ方...普通の「フルサイズの公演」として,例えば軽井沢で聞けば,とても楽しめた公演だったと思います。


■【K323】16:45〜 石川県立音楽堂邦楽ホール
ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲集「四季」
●演奏
アビゲイル・ヤング(ヴァイオリン),オーケストラ・アンサンブル金沢

この演奏は,「OEKの歴史の一つの到達点」を示す演奏だったと思います。ヤングさんと各パートのトップ奏者がコンタクトを取りつつ,全員がソリストのように演奏していました。指揮者なしにも関わらず,メンバーはヤングさんの動きにしっかり反応することで,「夏」の第3楽章のような急速な部分でも全く乱れることなく,迫力と気迫たっぷりの演奏を聞かせてくれました。

「春」では,独奏ヴァイオリンに第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが絡む部分があります。ヤングさんと松井さんと江原さんがコンタクトを取りながら生き生きと演奏している様子は,OEKファンとしては,視覚的にも楽しめました。春の第1楽章では,途中,「雷鳴と稲妻」のような部分が出てきます。この部分での第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが両端に分かれてのダイナミックな掛け合いになる部分もOEKのお得意の見せ場ですね。第2楽章のヴィオラによる「犬の鳴き声」が妙に強調されていたり,大変スリリングでした。

その他の楽章も同様な感じで,ヤングさんの熱演がメンバー全体に刺激を与えて,熱く燃えているような演奏を聞かせてくれました。「毎回毎回,こういう演奏はできないかも」と思わせるような,スピード感たっぷり,気合い十分の演奏でした。



■【K314】17:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ドゥカイ/上弦の月のライオンの井戸:赤(日本初演)
2)バッハ,J.S./2台のピアノのための協奏曲第1番ハ短調,BVW.1060
3)ドゥカイ/儚さと永遠:笑顔の裏の涙(日本初演)
4)バッハ,J.S./3台のピアノのための協奏曲第1番ニ短調,BVW.1063
5)バッハ,J.S.(ドゥカイ編曲)/コラール前奏曲「最愛のイエスは,私たちは」,BVW.714
6)バッハ,J.S./3台のピアノのための協奏曲第2番ハ長調,BVW.1064
●演奏
アンドラーシュ・ケラー指揮コンチェルト・ブダペスト*2,4,6
デジュー・ラーンキ,エディット・クルコン,フュロップ・ラーンキ*3-6(ピアノ)

コンサートホールでの最終公演は,「朝一」に続き,アンドラーシュ・ケラー指揮コンチェルト・ブダペストによる演奏でした。今度は,デジュー・ラーンキ一家(3人ともピアニスト)との共演による,独特の世界観を感じさせるような公演でした。

バッハのクラヴィア協奏曲をピアノで演奏すると,どうしても重い感じになり,「ちょっと違うかな」と思ってしまうのですが,それが3台となると,もうすっかりバッハを超越した感じになります。それが良かったと思います。

今回はさらに,ドゥカイというハンガリーの現代作曲家の叙情性を持ったピアノ作品(実は,会場にご本人がいらっしゃってました)を組み合わせることで,さらに不思議な陶酔感を醸し出していました。ドゥカイの作品とバッハの作品を組み合わせて1つのユニットにまとめるような意図があり,ドゥカイの曲の後に拍手が入りそうになると,ラーンキさんは手で制していました。

バッハの作品をピアノで聞いているうちに,どこか,ビートルズの「レット・イット・ビー」あたりを聞いているような気分になってくるのも面白いと思いました。

ちなみにこの公演でのピアノの配置ですが,お客さんに背を向けるように下手から「父・子・母」という形で,まさに「川の字」に並んでいました。



父親のデジュー・ラーンキさんは,実は1980年代の中頃に一度,金沢でリサイタルを行っています。その公演を聞きに行ったことがあるので,その当時の自分のことなどを思い出しながら,色々と懐かしくなりました。

■【クロージング・コンサート】みんなでハレルヤ・コーラス 19:15〜 石川県立音楽堂交流ホール
1)ロワイエ/スキタイ人の行進
2)ラティス/チャコーナ
3)ラディス/天使の対話
4)アラニェス/素敵な人生
5)バッハ,J.S./2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調 BVW.1043
6)バッハ,J.S./世俗カンタータ「成り交わす弦の相和せる競いよ」BWV.207〜二重唱
7)バッハ,J.S./主よ,人の望みの喜びよ
8)ヴィヴァルディ/グロリア〜第1曲,第12曲
9)ヘンデル/オラトリオ「メサイア」〜「ハレルヤ・コーラス」
●演奏
曽根麻矢子(チェンバロ)*1
ヌオーヴォ・アスペット・ブレーメン*2-4
井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)*5-9
岡本誠司,内藤淳子(ヴァイオリン)*5-6,小林沙羅(ソプラノ)*6,森雅史(バス)*7,金沢フィガロ・クワイヤー*7-9

さて,クロージングコンサートです。ラーンキ一家の公演が終わった後,地下の交流ホールに向かうと既に長蛇の列ができていました。今年もこの公演は大人気でした。

 

最初,曽根麻矢子さんの独奏で「スキタイ人の行進」が演奏された後,ヌオーヴォ・アスペット・ブレーメンが登場し,ヴォーカル付きの古楽が演奏されました。

「スキタイ人の行進」は,チェンバロにしては野性的な曲で,楽しい演奏でした。が,このホールは,天井が低く,音の通りがよくないので,チェンバロのような音量の小さい楽器の場合は,限定的にPAを使っても良いのではないかな,と感じました。

ヌオーヴォ・アスペット・ブレーメンの演奏は,このクロージング・コンサートで初めて聞いたのですが,タンブリンを含む楽しげな演奏で会場を盛り上げてくれました。

続いて,内藤淳子さんと岡本誠司さんのヴァイオリンでバッハの2台のヴァイオリンのための協奏曲が演奏されました。このお2人の演奏についても,コンサートホールか邦楽ホールで聞いてみたいと思いました。

さらにソプラノの小林沙羅さん,バスの森雅史さんの歌を交えて,バッハのカンタータの中の1曲が歌われました。今回,大相撲で言うところの「砂かぶり」のような所で聞いていたのですが,特に小林沙羅さん,森雅史さんのお2人の声が頭の上から降って来るのが嬉しかったですね。何かお祓いを受けているような気分になりました。



このお2人は,5月以降全国各地で行われる,井上道義指揮,野田秀樹演出による「フィガロの結婚」公演にも登場しますので(アナウンスがあると思ったのですが,特になかったですね),近いうちにまた再会できそうです。

その後,バッハの「主よ人の望みの喜びよ」とヴィヴァルディのグローリアの一部が「金沢フィガロ・クワイヤ」の合唱を加えて歌われました。ヴィヴァルディのグローリアは,シンプルで明るい曲想が魅力的で,是非全曲を聞いてみたい曲だと思いました。

そして,最後の「みんなでハレルヤ・コーラス」のコーナーになりました。「きっと,青島広志さんあたりが簡単に指導してくれるのだろう」と思っていたのですが,やはり,そんな短時間で簡単に指導できるはずもなく,そのまま「歌える人は歌ってください」という感じで音楽が始まりました。その青島さんの方は...「ヘンデルさんはもう300歳ですね」ということで,お得意のコスプレで登場しました。

演奏の方ですが,回りの人たちが立ち上がったので,「適当に歌ってみるか」と私も立ち上がってみました。

立ち上がると世界が変わることが分かりました。まず,オーケストラの音がよく聞こえ,奏者との距離がさらに近くなった感じがしました。気持ちが良いですね。ただし...「ハーレルヤ」と歌い始めたものの...後が続きません。しかも私のすぐそばにいた人が,どう見ても(どう聞いても)経験者で,しっかりとテノールのパートを歌っていました。これだと適当に歌うわけにもいきません。ということで,「まぁ,ハレルヤ・コーラスは起立して聞くという習慣だから」ということで,立ったまま聞いていました。

唯一歌えたのが男声のユニゾンになる,最後の方に出てくる「King of Kings」の部分です。ここだけはしっかり参加できました。いずれにしても,「少しでも参加できると気持ち良い」と実感できました。

それにしても近くに居た人は,きっちりと歌っていました。通常の歌詞の裏で,男声パートだけ「ハレルヤ,ハレルヤ...」と歌っていたり,結構,忙しげな曲だと分かりました。
この演奏の時,OEKのメンバーの一部が会場の通路でも演奏していたのですが,これも良かったと思います。

というわけで,「歌いたいけど歌えない」という歯がゆさはあったものの,クロージングコンサートならではの,年に一度の一体感を味わいながらお開きとなりました。

毎回このコンサートが終わると,OEKをはじめとした演奏者の皆さんに加え,音楽祭の運営にあたったすべての方に感謝をしたくなります。その感謝の気持ちを表現するためにも,「お客さん参加型」クロージングコンサートを今後も定例化していってほしいと思いました。ただし,もっと簡単な曲が良いかもしれませんね。

最後に,来年のテーマが井上道義さんから発表されました。「自然」とのことです。「作曲家しばり」でないとすれば,どういう曲が入ってくるのだろうか?「アート」は「自然」の対義語でもあるので,難しそうだけれども面白そう...などと思いを巡らせながら帰途につきました。

自分自身も含め,参加された皆様,お疲れ様でした。