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金沢大学フィルハーモニー管弦楽団第76回定期演奏会
2016年1月16日(土)18:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール

ウェーバー/歌劇「魔弾の射手」序曲
ボロディン/歌劇「イーゴリ公」〜ダッタン人の踊り
ブラームス/交響曲第2番ニ長調,op.73

●演奏
山下一史指揮金沢大学フィルハーモニー管弦楽団



Review by 管理人hs  

大体毎年,センター試験の日に金沢大学フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会が行われています。今年もこの日に行われたので聞いてきました。今年の指揮者はおなじみの山下一史さんでした。

山下さんと金沢大学フィルは,過去何回か共演しており,マーラーの交響曲第5番であるとか,ブラームスの交響曲第4番などを聞いたことがあります。ただし,結構前のことなので,もしかしたら現在のメンバーが生まれる前の時代のことかもしれませんね。我ながら,結構長い間,金沢大学フィルを聞いてきたものだなぁ,と感慨にふけっています。

今回メインで演奏されたのはブラームスの交響曲第2番でした。この曲は,ブラームスの4つの交響曲の中で唯一テューバが加わる曲ですので,大学オーケストラのレパートリーには加えやすい曲と言えます。昨年,井上道義さん指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)で聞いたばかりですが,今回の演奏も立派な演奏でした。

前半はまず,ウェーバーの歌劇「魔弾の射手」序曲が演奏されました。立ち上がりはどことなく不安定な感じがしましたが,山下さんがためらいのないテンポでグイっと引っ張って,段々調子が出て来たように感じました。序奏部に出てくる有名なホルンの合奏もスムーズでした。弦楽器はやや音が薄い感じはしましたが,しっかり引き締まっており,意志の強さを感じさせてくれました。途中,クラリネットで演奏される主題には,楚々とした雰囲気もありました。

この曲の最後の部分では,全休符が入った後,弦楽器がうなりを上げるように盛り上がっていく感じが大好きです。今回の演奏にもそういう感じが出ており,しっかり楽しむことができました。最後は,爽やかにテンポアップし,爽快に締めてくれました。

続いて,ボロディンの「だったん人の踊り」が演奏されました。この曲は有名な曲の割に,金沢で実演で演奏される機会はほとんどありません。意外ですが,私自身,生で聞くのは今回が初めてです。

最初,オーボエが有名なメロディを奏でて始まるのですが...やや音程が不安定な感じでした。続いて出てくるクラリネットの演奏も妥協のない速いテンポだったこともあり,前半は,かなり粗い感じでした。その分,野趣がたっぷりという感じでした。

そのうちに打楽器パートが大活躍する部分になります。ティンパニ,大太鼓,小太鼓,シンバル...と打楽器各種が多彩に活躍し,演奏全体に色彩感を加えると同時に全体をピシッと引き締めていました。この辺ではヴィオラ・パートが合いの手のようなフレーズをとても強い音でしっかり強調して演奏したのが印象的でした。存在感をしっかりとアピールしているようでした。

# ちなみに...プログラムのヴィオラのパート紹介のページに載っていたのが,.「安心してください...弾いてますよ!」というメッセージ。いわゆる「ヴィオラ・ジョーク」ですね。

終盤は,「魔弾の射手」同様,爽快なテンポで演奏されました。各部分ごとのテンポの切り替えがとても鮮やかな演奏で,聞いていてワクワクしました。

前半の2曲は,どちらも曲の立ち上がりの部分はちょっと不安定な気がしましたが,曲が進むにつれてエンジンがかかってくるような感じで響きが充実してきました。特に「だったん人の踊り」の方は,聞き映えがしました。

後半は,ブラームスの交響曲第2番が演奏されました。

第1楽章冒頭は,コントラバスの意味深な響きに続き,ホルンが暖かくハモり,フルートが爽やかに歌い...という具合に,しっかりと音楽が流れていきました。特に弦楽器の軽く透明な響きが印象的でした。第2主題ではチェロが気持ち良い歌を聞かせてくれました。全体として重苦しくなり過ぎることなく,ロマン派の交響曲らしく力強くうねっていたのが良かったと思いました。

第2楽章も遅くなり過ぎないテンポで味のある音楽を聞かせてくれました。この作品は全楽章を通じて,ホルン・パートが活躍しますが,特にこの楽章の終盤で長いソロをしっかりと聞かせてくれたのが印象的でした。

第3楽章では,まずオーボエ・ソロが鄙びた感じの可愛らしさのある主題をしっかりと楽しませてくれました。中間部での弦楽器のキビキビとした演奏も見事でした。反対に楽章の最後の部分では,大変美しい音を楽しませてくれました。

その後,ほとんどインターバルを取ることなく,そのまま第4楽章に続いていきました。主要主題は,弦楽器を中心に大変キビキビと演奏されました。管楽器についてはやや仕上がりが悪いかな,という印象を持ちましたが,楽章のコーダでは,力強い響きを楽しませてくれました。この部分での,エネルギーが凝縮されたような力強い演奏も大変聞きごたえがありました。ただし,この最後の部分では,ホルンをはじめとして,もっと金管楽器を華やかに聞かせてくれても良かったかも...と個人的に思いながら聞いていました。

この曲については,熱狂的に終わる場合も多いのですが,山下さん指揮金沢大学フィルは,暴走することはなく,しっかりとした強い意志の力に溢れた演奏で全曲を結んでいました。

今回の定期演奏会ですが,珍しくアンコールなしで終わっていました。プロのオーケストラで,「アンコールなし」というのは,増えてきていますが,アマチュア・オーケストラの定期演奏会としては,かなり冒険的な試みだったかもしれません。この「潔さ」は良かったと思います。

今回の演奏会での演奏は,全体として粗の目立つところもあったのですが,ホルン・パートを中心に,若いメンバーのエネルギーを感じさせてくれました。終演後,山下さんが花束を受け取った後,1番ホルン奏者に「よく頑張った」という感じでその花束を丸ごと渡していましたが,誰もが「その通り」と思うような立派な演奏だったと思います。その他では,弦楽器,特にヴァイオリン・パートの積極的な演奏も素晴らしいと思いました。。

部分的に,もう少し安定していて欲しいかなという部分もありましたが,今年もまたOEKでは聞けない,大編成の曲を,若いエネルギーの溢れたを力強い演奏で楽しむことができました。



演奏会の前,JR金沢駅周辺をウロウロしていたのですが,ライトアップが綺麗だったので,いろいろと撮影してみました。




(2016/01/22)





公演立看板