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ダーヴィト・アフカム指揮シュターツカペレ・ベルリン金沢公演
2016年2月23日(火) 19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ウェーバー/歌劇「魔弾の射手」序曲
2) モーツァルト/オーボエ,クラリネット,ホルン,ファゴットと管弦楽のための協奏交響曲 変ホ長調,K.297b
3) ブラームス/交響曲第2番ニ長調,op.73
●演奏
ダーヴィト・アフカム指揮ベルリン国立歌劇場管弦楽団
グレゴール・ウィット(オーボエ*2),マティアス・グランダー(クラリネット*2),イグナシオ・ガルシア(ホルン*2),マティアス・バイアー(ファゴット*2)


Review by 管理人hs  

この時期恒例の東芝グランドコンサートも,今年で35回目となります。それを記念して,東京ではダニエル・バレンボイム指揮ベルリン国立歌劇場管弦楽団によるブルックナーの交響曲全集という凄い演奏会が行われました。「金沢でもバレンボイムのブルックナーを聞きたい」という思いがあったので,正直なところ,金沢公演がバレンボイム指揮ではなく,さらにブルックナーでなかったのは,かなり残念でした。

しかし,この東芝グランド・コンサートに登場した若手指揮者は,ほとんどすべて,その後,世界的に著名なオーケストラ等で活躍の場を広げています。今回もダーヴィト・アフカムさんを目当てに聞きに行ってきました。

今回のプログラムは,ウェーバー/歌劇「魔弾の射手」序曲,モーツァルト/オーボエ,クラリネット,ホルン,ファゴットと管弦楽のための協奏交響曲 変ホ長調,K.297b,ブラームス/交響曲第2番ニ長調,op.73というドイツ系の作品が3曲でした。やはりこういった作品を聞くと,ベルリン国立歌劇場管弦楽団はドイツのオーケストラだなぁということを実感しました。

「魔弾の射手」序曲の最初の音から弦楽器の音に重みがあり,伝統の力のようなものを感じました。これはアフカムさんの音楽性による部分も大きいと思います。どの曲も神経質な感じはなく,じっくりとした安定感のあるテンポで各曲をじっくりと聞かせてくれました。楽器の配置については,コントラバスが下手奥にずらっと並び,その前にチェロが配置していたのが独特でした。この配置も低弦の豊かさの理由だった気がします。

この序曲では,序奏部のテンポが大変ゆっくりとしており,フルトヴェングラーを思わせるような,暗く粘りのある響きが印象的でした。指揮棒を振った後,音が出るまでのタイミングが遅いのもドイツのオーケストラ的だなぁと思いました。有名なホルンの重奏や主部に入って出てくるクラリネットの美しいメロディなど,管楽器も活躍する曲ですが,そういった音全体がしっとりとまとまっていました。歌劇場のオーケストラということで,この曲は十八番なのかもしれません。曲の最後の部分では,たっぷりと間を取った後,スピードを上げていくのですが,暴走するところはなく,軽快さを感じさせつつも,安定感のある響きで1曲目を締めてくれました。

2曲目に演奏された,モーツァルトの管弦楽のための協奏交響曲 変ホ長調,K.297bでは,このオーケストラの管楽器の首席奏者が勢揃いし,オーケストラと一体となった,気持ちの良い音楽を聞かせてくれました。いつもの仲間との共演ということで,音がよく溶け合っていましたが,その中からオーボエやクラリネットの音を中心にくっきりとした爽やかな音色が時折浮かび上がっていました。

ちなみに,この曲についてはモーツァルトの真作かどうか疑わしいところがあり,わが家にあるCDでは,ロバート・レヴィンが「これが正しい」と改訂した版では,オーボエ,フルート,ホルン,ファゴットが独奏楽器になっています(マリナー指揮アカデミー室内管弦楽団,ホリガー他です)。フルートの代わりにクラリネットが入る今回の「通常版」を聞くと逆に,「いつもと違うなぁ」と思ってしました。

オーケストラの編成は,1曲目よりもかなり人数を減らし,オーケストラ・アンサンブル金沢ぐらいの室内オーケストラ程度の人数になっていました。特に古楽奏法的な部分はなく,たっぷりと,かつ誠実に愉悦的な音楽に浸らせてくれました。安定感のある室内楽的な音の世界が広がる第2楽章に続いて,第3楽章は親しみやすい曲想を持った変奏曲になります。次々と各楽器が妙技を聞かせていくのですが,技巧をひけらかす感じはなく,小気味よくまとまりの良い音楽を聞かせてくれました。

後半では,ブラームスの交響曲第2番が演奏されました。この曲でも曲全体を通じて,太い音楽の流れを感じさせてくれました。往年のカラヤンなどの演奏(生で聞いたわけではありませんが...。プログラムによるとカラヤンなどを尊敬しているといった記述がありました)を思い出させるところがあると思いました。

第1楽章の冒頭からじっくりとしたテンポで始まりました。コントラバスやチェロなどの低弦の音がしっかりと湧き上がってくる中,ホルンが派手すぎずに安定した音で牧歌的なメロディを聞かせてくれる辺り,実にいいなぁと思いました。第1楽章では呈示部の繰り返しをしていましたが,この曲では結構珍しいかもしれません。

展開部に入り,音楽がさらに大きく盛り上がり楽章全体のクライマックスを築いた後,最後はホルンをはじめとしたしみじみとした響きで閉じられました。第2楽章も第1楽章の終盤のしみじみとしたムードが続き,じっくりと聞かせてくれました。曲全体を通じてティンパニの音が素晴らしく,この楽章でも音の粒が揃った見事な演奏で曲を引き締めていました。このティンパニならば,ブルックナーの交響曲の演奏もさぞかし素晴らしかっただろうと勝手に想像してしまいました。

ここまではじっくりとした雰囲気が続いたのですが,第3楽章からは若手指揮者らしい,瑞々しい響きが印象的でした。3楽章では,まずオーボエの演奏が見事でした。神経質なところのない,大変まろやかでバランスの取れた演奏を聞かせてくれました。中間部でのキビキビとした音楽の運びも楽しいものでした。

第4楽章は堂々した進行の中,金管楽器がくっきりと,しかし派手すぎない音色でアクセントを加えいたのが印象的でした。楽章を通じてエネルギーをしっかりと蓄えたような充実感のある響きが持続しており,聞きごたえ十分でした。コーダでも音楽が崩れることなかったのですが,しっかりとエネルギーを解放し,爽快さを感じさせてくれました。最後の一音では,弦楽器がグィーンと力こぶを作るような感じで終わっていましたが,さすがドイツのオーケストラという感じの力感がありました。

例年,東芝グランドコンサートでは,アンコール曲が演奏されるのが恒例でしたが,今回はアンコールなしでした。恐らく,バレンボイムのブルックナー・シリーズでも同様だったと思うのですが,このインパクトのある一音がしっかりと後に残ったので,全く物足りないところはありませんでした。

バレンボイムのブルックナーを聞けなかったのは確かに残念だったのですが,王道を行くような「若き巨匠」的なブラームスの演奏を聞くことができ,大満足でした。恐らく,アフカムさんは,今後世界各地のオーケストラでの活躍を増やしていくことでしょう。今後の活躍に期待したいと思います。

PS.今回のプログラムですが...1月に行われた金沢大学フィルの定期演奏会とプログラムが非常によく似ていました(最初が「魔弾の射手」,最後がブラームスの2番)。ホルンが大活躍するプログラムでしたね。

(2016/02/27)



公演のポスター



公演プログラムは無料で配布されました。


アフカムさんの指揮は,金沢,広島,福岡公演のみです。


終演後,楽屋口でアフカムさんからサインを頂きました。