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オーケストラの日2016
2016年3月6日(日)11:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール

[第1部] いしかわ子ども邦楽アンサンブル
1) 久本玄智/箏曲「三段の調べ」
2) 九世杵屋六左衛門(篠田金次作詞)/長唄「越後獅子」
3) 松任谷由実(早川和良作詞)/ひゃくまんさん小唄

[第2部] オーケストラ・アンサンブル金沢
4) グリーグ/ホルベルク組曲〜前奏曲
5) ブルーベック/バス・トロンボーン協奏曲

[第3部] オーケストラ合同演奏
6) シベリウス/交響詩「フィンランディア」
7) エルガー/行進曲「威風堂々」第1番
8) シュトラウス,J.II/ポルカ「雷鳴と稲妻」
9) シュトラウス,J.I/ラデツキー行進曲
10) (アンコール)シュトラウス,J.I/ラデツキー行進曲(一部)

●演奏
和田一樹指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)*4-10;金沢大学フィルハーモニー管弦楽団メンバー*6-10;石川県ジュニアオーケストラメンバー*8-10
森川元気(バス・トロンボーン)*5, 黒瀬恵(オルガン)*7
いしかわ子ども邦楽アンサンブル*1-3
司会:山田彰子



Review by 管理人hs  

日本オーケストラ連盟は,「ミミにいちばん」ということで,毎年3月31日を「オーケストラの日」と定め,全国各地のプロ・オーケストラは,この日周辺で趣向を凝らした公演を行っています。ただし,今年のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)については,3月27日に韓国公演を行い,スケジュールが慌ただしいこともあり,例年よりも早く,3月6日に「オーケストラの日」公演が行われました。

ここ数年,この公演では石川県立音楽堂の特性を生かし,邦楽器の演奏や石川県内のアマチュアの音楽団体と交流するのが定番となっています。今年もその路線で,お客さんの中には子供さん連れの姿が目立ちました。OEK定期会員ご招待の「お客様感謝デー」になっていたのも例年どおりでした。

最初は,いしかわ子ども邦楽アンサンブルによる箏曲,長唄などのステージでした。

ステージが明るくなると晴れ着を着た子どもたちによる箏の合奏が始まりました。この演奏を聞きながら...NHK連続テレビ小説「あさが来た」の主役あさとその姉はつの子供時代に2人で箏を合奏していた場面などを思い出してしまいました。整然として単調だけれども,すっきりとした晴れやかさが感じられて,「いいなぁ」と思いました。

指導をされている藤舎呂英のトークによると,箏,長唄,お囃子などを一通り体験できるのが,いしかわ子ども邦楽アンサンブルの良さだそうです。それと,自然に礼儀が身に付きますとのことでした。ちなみに藤舎呂英さんですが...ちょっと「あさが来た」の新次郎さんに雰囲気が似ているような気もしました。

(参考)  藤舎呂英さんの写真 と 新次郎さんの写真 比較してみました。

このステージの最後は,お待ちかねの「ひゃくまんさん小唄」のコーナーでした。この曲のプロモーション動画はYouTubeに公開されており,見たことがありますが,その歌を歌っているのが,いしかわ邦楽アンサンブルの子どもたちなのだそうです。今回もそのメンバーが4人のリードボーカルとして「ひげ」を付けてステージ前方に登場し,その他のメンバーが後方でバックコーラスで参加しました(お囃子の方は大人が演奏していました)。そして,もちろん「ひゃくまんさん」もステージ上にお出ましになりました。

ひゃくまんさんは,流石に機敏な動作は難しいので,踊るというよりは,音楽に乗って揺れたり,回ったり,手足を伸ばしたり...という感じでしたが,外見が華やかなので,大変ステージ映えします。一気にお目出度い雰囲気になりました。

その後は,和田一樹さん指揮によるオーケストラのステージとなりました。和田さんは,2009年に行われた第1回井上道義指揮講習会で優秀賞を受賞された方で,OEKを指揮するのはその時以来,コンサートとしては今回が初めて,ということになります。

昨年公開された,映画「マエストロ」で,マエストロ役の西田敏行さんの指揮の指導をされたことがあると自己紹介をされていましたが,実際,西田さんを彷彿とさせるような雰囲気があり,得難いキャラクターの指揮者だと思いました。

曲間のトークの時,久しぶりに金沢駅に来た時,「いろいろ思い出して号泣しました」と語っていましたが,その点でも西田局長(探偵ナイトスクープ)的ですね。

まず,OEK単独のステージで,おなじみのグリーグのホルベルク組曲の前奏曲が演奏されました。和田さんの指揮は,意外に(?)に軽やかで,弾むような音楽が流れてきました。この日はいつもと違い,1階の前の方で聞いていたのですが,ヴィオラのダニール・グリシンさんの演奏は近くで見ると,迫力があるなぁと妙なところに感動してしまいました。

続いて,バス・トロンボーン奏者の森川元気さんをソリストに迎え,ブルーベックのバス・トロンボーン協奏曲が演奏されました。このブルーベックの作品は,数年前,森川さんが北陸新人登竜門コンサートに出演した時に演奏した曲で,その再演ということになります。ちなみに森川さんは,中学校から高校に掛けて,後半のステージに登場した,石川県ジュニアオーケストラに参加されていたそうです。多分,私も聞いたことがあるはずですが,色々と感慨深いものがあったのではないかと思います。

この曲の作曲家のブルーベックは,ジャズの世界では有名なデイヴ・ブルーベックの息子さんの作品ということで(てっきり,デイヴ・ブルーベックの曲なのだと思い込んでいました。代表作の「テイク・ファイブ」を含むアルバムは右の写真。CDを持っていました。)),ジャスのテイスト満載の曲で,ほとんどラプソディ・イン・ブルー辺りを聞くのと同じ感覚で楽しめる作品です。森川さんもバス・トロンボーンという楽器のイメージどおり,堂々たる体格ですが,その雰囲気どおりの屈託のない伸びやかな音を聞かせ,ステージを盛り上げてくれました。間近で聞く,バス・トロンボーンの音は威力満点で,気持ち良く音の素晴らしさに圧倒されました。

第1楽章の最初の部分をはじめ,カデンツァ(というかアドリブ?)的な部分も多く,ビッグバンドジャズを好きな人や吹奏楽の好きな人も大喜びするような曲だったと思います。第2楽章はゆっくりとしたブルーな雰囲気でしたが,両端楽章は動きのある楽章で,OEKの渡邉さんのドラムスがノリの良さを作っていました。

演奏後,森川さんと和田さんが抱き合っていましたが...何というか,がっぷり四つという感じで,実に良い感じでした。森川さんは,曲の間での受け答えもとても気持ちよく,是非また,演奏を聞いてみたいと思わせてくれました。この曲については,森川さんとOEKの十八番として,また楽しんでみたい作品です。

後半はOEKと金沢大学フィル,石川県ジュニアオーケストラの有志メンバーとの合同演奏でした。金大フィルとOEKは,例年この時期に「カレッジコンサート」で大曲を共演していたのですが,今年は行われなかったので,その代替的な意味もありそうです。

まず,その金大フィルとの合同で,シベリウスの「フィンランディア」,エルガーの「威風堂々」というお馴染みの2曲が演奏されました。編成的には,金大フィルのメンバーは管楽器中心に参加している感じでした。

和田さんの指揮ぶりは,ここでも大変分かりやすいもので,音楽自体が随所で弾んでいました。「のだめカンタービレ」の中で,片平という憎めないキャラクターの指揮者が出てきましたが,和田さんにはちょっとそういう雰囲気があるような気がしました。フィンランディアは,後半に向けて,音楽が段々と高揚していくのが聞きどころですが,その躍動感が素晴らしいと思いました。

「威風堂々」は,卒業式や入学式の,入場行進曲の定番なので,金大フィルもよく演奏していると思いますが,コンサートホールでたっぷりと楽しむのも良いものです。音楽に重量感と同時に流動性があり,ゴージャスな流れに浸らせてくれました。最後の部分,大見得を切るようにテンポをしっかりと溜めた後,黒瀬恵さんによるパイプオルガンも加わり,「大団円」という感じなりました。オルガンの音は「隠し味」程度に加わる感じだったのですが,低音がさらに補強されており,音の充実感が増していました。この「オルガン付き威風堂々」というのも貴重だったと思います。

# ちなみに黒瀬さんは,開演前のプレコンサートでもオルガンを演奏されていました。バッハの曲を2曲演奏していたと思います。

最後は,石川県ジュニアオーケストラのメンバーも加わり,シュトラウスのポルカ「雷鳴と稲妻」,ラデツキー行進曲が演奏されてました。

石川県ジュニアオーケストラは,3月末に定期演奏会を行うことになっており,そのPRを兼ねての登場でした。曲の間のトークでは,ジュニアオーケストラの2人のオーボエ奏者が登場しました。とてもしっかりとした明るい受け答えで,「ステージ経験を子どもの頃から積むことは,教育的にも大変よろしいのではなかろうか」などと思ってしまいました。

「雷鳴と稲妻」は大編成の合同演奏でしたが(ジュニアの弦楽器メンバーなどは立ったまま演奏していました),大変軽快で,気持ちよく自然現象(今年のラ・フォル・ジュルネ金沢のテーマですが)を楽しませてくれました。

ラデツキー行進曲では,お隣の邦楽ホールで行われた金澤演芸まつりのために来られていた桂米団治さんが,羽織姿で突然登場し,途中から指揮を乗っ取る形になりました。和田さんの方は,お客さんの方に向かって指揮をし,お客さんの方は,楽しく手拍子をすることができました。

ちなみに,米団治さんは,この日の金澤演芸まつりの大トリで落語の大作「地獄八景亡者戯」を語り,その中でOEKのメンバーが奏者として参加したとのことです(こちらの方は残念ながら行けませんでしたが...)。

このように,石川県立音楽堂ならではの,いろいろなコラボに溢れた演奏会となりました。

PS. 今回の公演は,休憩なしで約2時間行われましたが,舞台転換が多かったので,各コーナーの間のトークの間に一休みするような形になっていました。ただし,特に「休憩なし」というアナウンスがなかったので,個人的にはちょっと戸惑いました。

(2016/03/12)




公演の案内

ホールの入口付近では,邦楽器,洋楽器とも,ジュニアメンバーが先生役となった楽器体験コーナーが賑わっていました。




この日はステージ以外でも,ひゃくまんさんが大活躍でした。


終演後は玄関付近でお見送り。




大人気でした。