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石川県ジュニアオーケストラ第22回定期演奏会
2016年3月27日(日) 14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ロペス,K.Aとロペス,R.(クログスタッド編曲)/映画「アナと雪の女王」メドレー
2) ベートーヴェン/交響曲第6番ヘ長調,op.68「田園」〜第1楽章
3) シュトラウス, J.II/ポルカ「雷鳴と稲妻」,op.324
4) シュトラウス,J.I/ラデツキー行進曲, op.228
5) プッチーニ/歌劇「蝶々夫人」(抜粋)

●演奏
鈴木織衛指揮い石川県ジュニアオーケストラ
石川公美,表まり子(ソプラノ)*5
合唱:特別女声アンサンブル ピランゴ(合唱指導:犀川裕紀)



Review by 管理人hs  

年度末恒例の石川県ジュニアオーケストラの定期演奏会を聞いてきました。回を重ねて,今回で22回目になります。この演奏会では,毎回ラ・フォル・ジュルネ金沢のテーマの作曲家の曲を取り上げることが近年の寒冷になっています。今年のテーマは「自然と音楽」という,作曲家のしばりのない緩いテーマということで,ベートーヴェンの「田園」交響曲の第1楽章が取り上げられました。それ以外については,「人間の人間の関係」ということで,「アナと雪の女王」の音楽(姉妹),シュトラウス父子の音楽,プッチーニの歌劇「蝶々夫人」(夫婦)の抜粋が演奏されました。

最初に演奏された「アナ雪」の音楽は,コンパクトに映画全体の雰囲気を伝えてくれるアレンジであり演奏でした。オリジナルの映画の最初の方では,北欧の雰囲気のある労働歌のような曲が使われていましたが,この日の演奏でも,しっかりメンバーの足踏み入りで再現されていました。途中,コンサートマスター(とても可愛らしい男子でした)によるソロが入ったり,「レット・イット・ゴー」の部分では,ピアノの音もしっかり効かせるなど,とても聞きごたえのある演奏を聞かせてくれました。

ベートーヴェンの「田園」は,実は,ラ・フォル・ジュルネ金沢ではOEKも演奏するということで,図らずも競演という形になりました。鈴木織衛さんは,いつも流れの良いしなやかな演奏を聞かせてくれます。今回の演奏もそのとおりで,「田園」のタイトルに相応しい穏やかでのどかな雰囲気がありました。

演奏の合間,鈴木さんのトークが入ったのですが,「実は,この曲の第1楽章の主題はクロアチア(?)民謡に起源がある」とのことです。これは「びっくりぽん」の情報でした。

シュトラウス・ファミリーの曲では,「金沢の名物といえば雷」ということで,「雷鳴と稲妻」が演奏されました。今年のラ・フォル・ジュルネ金沢の「隠れテーマ曲」は,この曲で決まりかもしれません(実際に雷雨になってもらったら困りますが)。

どの曲もそうだったのですが,演奏のメリハリがしっかり効いており,トレ―ニングされているなぁということが分かる,表現力の豊かな演奏演奏だったと思います。打楽器や金管楽器の華やかな活躍もあって,聞きごたえ十分でした。

前半最後は,おなじみのラデツキー行進曲が軽快に演奏されました。鈴木織衛さんがお客さんの拍手をしっかり仕切ってくれたので,リラックスして楽しむことができました。

後半は,プッチーニの「蝶々夫人」の抜粋が石川公美さんの蝶々さん,表まり子さんのスズキで演奏されました。オペラについては,「大人の世界」を描いた物語が多いので,ジュニア・オーケストラのプログラムとしては,異例だと思いますが,ドラマを盛り上げる音楽を演奏する,というのは子どもたちにとっても勉強になったのではないかと思います。女声合唱団も加わった,本格的な抜粋となっていたのも良かったと思います。

まず,オペラ全体の出だし同様,緊迫した雰囲気で始まりました。フーガを思わせるような緊迫感溢れる雰囲気が見事でした。パイプ・オルガンのステージに女声合唱が並び,続いて,蝶々さんが幸せだった頃の,オペラの前半の音楽が続きます。この甘くロマンティックな響きは,個人的にも大好きな部分です。どこか「春が来た」という気分のある,さすがプッチーニという音楽だと思います。

その後,石川さんの独唱で「ある晴れた日に」が歌われました。石川さんの声には,凛とした強さがあり,蝶々さんの一途な気持ちがしっかり伝わって来ました。このアリアが終わった後,音楽の流れを優先して,石川さんはすぐに引っ込んでしまったのですが,この部分はたっぷり拍手をしてあげたかった気がします。

間奏曲は,日本風というよりはどこか中国風の雰囲気のある曲だと思います。「花の二重唱」も陶酔感のある曲で,春に聞くにはぴったりです。石川さんと表さんのハモリもぴったりで,明るさと哀しさの混ざった美しさがしっかり伝わってきました。最後は舞台裏から聞こえる女声合唱によるハミングコーラスが聞こえてきて終わりました。

この曲での繊細な表現は見事でしたが,演奏会全体の「締め」としては,ちょっと中途半端だったたかもしれません。オペラ全体の雰囲気を伝えるならば,「蝶々さんの死」まで必要だったかな,と思いました。

というわけで,ちょっと終わり方が淋しい感じはしたのですが,前述のとおり,オペラの世界を丁寧に描いており,しっかりとプッチーニの音楽の魅力を味わうことができました。

3月上旬の「オーケストラの日」コンサート以降,ジュニア・オーケストラを聞くのは,この月2回目ですが,ステージ経験を重ね,どんどん演奏の充実感を増していると思いました。ラ・フォル・ジュルネ金沢での演奏にも大いに期待したいと思います。

(2016/04/02)





公演の立看板