OEKfan > 演奏会レビュー
ラ・フォル・ジュルネ金沢2016 ピアノコンサート野々市
2016年4月9日(土) 14:00〜 野々市市文化会館フォルテ大ホール

[第1部]オーディション合格者による演奏
1)モーツァルト/ドイツ舞曲,K.605 第3曲
2)モーツァルト/ソナチネ ヘ長調,K.213〜第3楽章,第4楽章
3)モーツァルト/6つのウィーンソナチネ第2番イ長調,K.439b〜第1楽章,第3楽章,第4楽章
4)クレメンティ/ソナチネヘ長調,op.36-4
5)モーツァルト/ピアノ・ソナタ第16番変ロ長調,K.570〜第3楽章
6)モーツァルト/ピアノ・ソナタ第8番イ短調,K.310〜第1楽章
7)モーツァルト/ピアノ・ソナタ第9番ニ長調,K.311〜第1楽章
8)モーツァルト/ピアノ・ソナタ第11番イ長調,K.331〜第3楽章
9)モーツァルト/ピアノ・ソナタ第10番ハ長調,K.330〜第1楽章
10)スカルラッティ/ソナタト長調, K.427, L.286
11)スカルラッティ/ソナタロ短調, K.27, L.449
12)スカルラッティ/ソナタヘ短調, K.466, L.118
13)スカルラッティ/ソナタニ長調, K.492, L.14
14)モーツァルト/4手のためのピアノ・ソナタハ長調,K.521〜第3楽章
●演奏
藤田怜那, 東野若葉*1, 前田陽斗, 前田侑也*2, 中野有珠*3, 豊田真子*4, 川岸亜悠子*5, 平野未紗*6, 藤本あんじ*7, 藤田京花*8, 尾田萌々香*9, 吉藤佐恵*10-13, 清水史津, 伊勢拓之*14 (ピアノ)

[第2部]ゲスト演奏
バルトーク/オスティナート
モーツァルト/キラキラ星変奏曲,K.265
ドビュッシー/ベルガマスク組曲〜第3曲「月の光」
ショパン/幻想即興曲嬰ハ短調,op.66
リスト/ハンガリー狂詩曲第2番
(アンコール)リスト/ラ・カンパネラ
●演奏
金子三勇士(ピアノ)



Review by 管理人hs  

少しずつ散り始めているけれども,まだ十分に花見日和の好天の中,ラ・フォル・ジュルネ金沢2016のプレイベントの一つ,ピアノコンサート野々市を聞いてきました。

このプレイベントは,毎年この時期,石川県内各地で行われており,オーディションで選ばれた県内のピアニスト(小学生から一般まで)が前半に演奏し,後半はプロが登場するという構成になっています。今回は,注目の若手ピアニスト,金子三勇士さんが登場するということで,金子さんを目当てに,野々市まで聞きに行ってきました。車だと30分もかからないので,ほぼ金沢市内です。

金子さんのお名前ですが,「三勇士」と書いて「みゅーじ」と読みます。時節柄,思わず真田十勇士を思い浮かべてしまい,「さんゆうし」と呼んでしまいそうですが,ピアニストにぴったりのお名前です。一度見たら忘れられません。

金子さんはお父さんが日本人,お母さんがハンガリー人ということで,ハンガリー系のレパートリーを得意としており,今回もまず名刺替わりの一撃(?)という感じで,バルトークのオスティナートという,強烈な打鍵が続く曲で演奏が始まりました。大変格好の良い曲で,生き生きとしたリズムが躍動していました。

その後は,ラ・フォル・ジュルネ金沢の今年のテーマを意識して,「星」(キラキラ星変奏曲),「月」(ドビュッシーの「月の光」)が演奏されました。

モーツァルトのキラキラ星変奏曲は,流麗に流れるというよりは,ちょっと独特の味をもった演奏でした。ゆっくり目のテンポで始まった後,後半に向かって大きな起伏をつけ,スケール感豊かに聞かせてくれました。

ドビュッシーの「月の光」は,磨き抜かれた音の美しさが際立っていました。モーツァルトの時とは全く違う,柔らかさを持った音が印象的でした。ちょっと霞がかかっているけれども,しっかりとクリアに音が広がり,ステージ一面が月に照らされているようでした。

次のショパンの幻想即興曲は,「自然」のテーマからはずれますが,「ピアノ学習者が一度は通る曲」ということで演奏されました。金子さんから演奏前に,「幻想というのは非日常,即興というのはその場で作る」といった説明がありましたが,その言葉どおり,「今現在このステージ上で,じっくりと非日常的な世界がしっかりと作り上げられている」といった感じの演奏になっていました。金子さんは,演奏前に「この曲の最初の部分については,「スピードを競う」感じで演奏されることがあるが,今回はそれとは違った感じの演奏になります」とも語っていましたが,なるほどと思わせるような「大人の演奏」を聞かせてくれました。

最後は,お得意のリストのハンガリー狂詩曲第2番が演奏されました。最初のバルトーク同様,金子さんの十八番の曲だと思います。大げさになり過ぎることなく軽やかに始まったのですが,後半に向かうにつれて華やかさと迫力が増し,ほとんど足踏みを交えるような感じで,天衣無縫な演奏を聞かせてくれました。「リストの演奏は,こうでなくては」と思わせるような鮮やかな演奏でした。

アンコールでは,同じリストの「ラ・カンパネラ」が演奏されました。金子さんは,最近,ユニヴァーサル・ミュージックからこの曲を中心としたCDをリリースしましたが,そのプロモーションを兼ねるような,宣伝効果(?)抜群の演奏でした。さらに磨きがかかった演奏で,まさに鐘を思わせる高音の硬質感じと,豪快に鳴り響くスケール感とを堪能しました。

金子さんは演奏の間にトークをはさみながら演奏されましたが,このトークも大変こなれており,スター性十分のアーティストだと思いました。演奏会後はサイン会が行われ,大盛況でしたが,これからさらに知名度を高めていくことでしょう。ちなみに金子さんは1989年生まれ。オーケストラ・アンサンブル金沢とほぼ同じ年齢です。その点でも親しみを持ってしまいました。王道を行くようなピアニストになることを期待しています。

前半の地元ピアニストによる演奏では,連弾曲を交え,モーツァルトのソナタを中心に演奏されました。ピアノの発表会のような雰囲気で,さすがにちょっと緊張気味の表情が見られましたが,プログラムが進むにつれて,年長者が登場し,だんだんと演奏も大人っぽい感じになってくるのがとても面白いと思いました。が,それぞれの世代ごとに良さがあります。特に今回演奏されたモーツァルトの曲については,衒いのない純粋さがあり,プロの演奏とは違った魅力があると感じました。

最後から2番目に演奏された,吉藤佐恵さんは,以前,オーケストラ・アンサンブル金沢と競演するのを聞いたことがありますが,スカルラッティの4曲をセットにして全体で1曲のソナタを聞かせるような,変化に富んだ聞きごたえのある演奏を聞かせてくれました。

前半最後は清水志津さんと伊勢拓之さんによる,連弾で締めてくれました。大人の集うサロンでの演奏といった感じで,安心して楽しむことがでいいました。

このラ・フォル・ジュルネ金沢のプレイベントもすっかり恒例になっています。アマチュアとプロの世界をつなげ,日常と音楽祭とをつなげる,とても良い企画だと思います。今年はあと一回,4月17日に七尾で行われ,沼沢淑音さんがゲストで登場します。こちらも若手ピアニストということで,今回同様に生きの良い演奏を楽しませてくれそうです。

PS. 金子三勇士さんですが,今回はハードスケジュールで,金沢での滞在時間は非常に短く,金沢駅周辺の「人気の味噌ラーメン」しか食べる時間がなかったとのことです。これからも,ラ・フォル・ジュルネ金沢を中心として,「常連」として,金沢に来ていただきたいアーティストだと思いました。

(2016/04/16)





公演のポスター


おなじみのラ・フォル・ジュルネ金沢のスクリーン


野々市フォルテで聞くのは久しぶり。外観です。


フォルテのステージです。お客さんの方は,出演者の家族や知人が多い感じでした。


出演者への花束コーナー


終演後の光景

終演後,金子さんのサイン会がありました。

このCDですが,特典ブルーレイの映像も付いています。素晴らしい音質のCDでピアノの音の豊かさを堪能できます。お気に入りのCDになりました。