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第15回北陸新人登竜門コンサート 管・打楽器 声楽部門
2016年5月15日(日)15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ヴェルディ/歌劇「椿姫」第1幕への前奏曲
2) ヴェルディ/歌劇「エルナーニ」〜「エルナーニ,私を奪って逃げて」
3) ヴェルディ/歌劇「ドン・カルロ」〜「世のむなしさを知る神よ」
4) イベール/アル・サクソフォン室内協奏曲
5) メンデルスゾーン/序曲「フィンガルの洞窟」op.26
6) ラパンサー/ティンパニ協奏曲「OBI」

●演奏
中宮永莉香(ソプラノ*2-3),小川卓朗(サクソフォン*4),伊藤拓也(ティンパニ*6)
井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)



Review by 管理人hs  

ラ・フォル・ジュルネ金沢が終わって間もない5月中旬の日曜日,この時期恒例の北陸新人登竜門コンサートが行われたので聞いてきました。今回は,管・打楽器 声楽部門で,通算15回目となります。

この部門については,どういう新人が登場するのか?という楽しみ以外に,「どういう楽器が登場?」「どういう曲?」という楽しみがあります。今回もソプラノ,サクソフォン,ティンパニと大変多彩なプログラムを楽しむことができました。

最初に登場したソプラノの中宮永莉香さんが歌ったのは,ヴェルディのオペラのアリアでした。まず,その声を聞いただけでドラマを感じさせてくれました。声に力があり,ヴェルディのオペラの世界に強く引き込んでくれました。これからさらに声を磨いていけば,さらに大きく飛躍されるのではないかと思いました。

サクソフォンの小川卓朗さんは,イベールの室内小協奏曲を演奏しました。アルトサクソフォーンはもともと表現力の豊かな楽器ですが,小川さんの演奏からは,どこか「男気」のようなものが伝わってきました。最初ステージに登場した時は,ちょっと緊張しているかな?という雰囲気でしたが,演奏が始まると精彩が増し,集中力に溢れた演奏を楽しませてくれました。

第2楽章での甘い音色,アルトとは思えない超高音域のスリリングさなど,集中力十分でした。第2楽章は後半はテンポが速くなり,大変ノリの良い演奏を聞かせてくれました。曲全体を通じて,甘くなり過ぎることろがなく,強さを伝えるような演奏だったと思います。

この曲の編成は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の基本サイズよりも一回り小さく,タイトルどおり室内楽的な協奏曲でした。音の動きがとても細かく,急速なので,演奏後の井上さんは「OEKも演奏するのがとても大変」と語っていましたが,室内協奏曲に相応しい鮮やかな演奏を聞かせてくれました。

最後に登場した,ティンパニの伊藤拓也さんは,中部フィルハーモニー交響楽団のティンパニ奏者として活躍されている方です。今回演奏されたラバンサーのティンパニ協奏曲「OBI」は,今回のプログラムの中でも,特に演奏されるのが珍しい作品です。作曲者のラバンサーは,イタリア生まれの打楽器奏者で,この曲は,ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団のソロ・ティンパニ奏者のミヒャエル・オベライグナーのために書かれた作品です。このオベライグナーの愛称が「OBI」ということで,この曲の副題も「OBI」となっています。

3年前にバス・トロンボーン奏者の森川元気さんが登場した時も,大変珍しい作品が演奏されましたが,こういった作品を聞けるのも,この登竜門コンサートならではです。

曲の方は,大変分かりやすい曲で,この楽器らしい豪快さに加え,表現の幅の広さをしっかり楽しませてくれました。伊藤さんのティンパニには,心地よい響きと同時に開放的な気分があり,聞いていて健康的な気分にさせてくれました。全曲を通じて,金管楽器も大活躍しており,ビッグバンドジャズを聞くような爽快さもありました。

今回は演奏時間が短かったこともあり,井上道義さん指揮OEKのみで,ヴェルディの「椿姫」前奏曲とメンデルスゾーン「フィンガルの洞窟」が演奏されました。どちらも大変雄弁な演奏でした。

最初に演奏された,「椿姫」前奏曲は,しっかり,くっきりと演奏され,新人歌手を迎えるための導入になるような期待感に満ちた演奏となっていました。

「フィンガルの洞窟」の方は,先般のラ・フォル・ジュルネ金沢のテーマ「ナチュール」にもぴったりの,「音による風景画」です。OEKは頻繁に演奏している曲ですが,この日の演奏は,特に詩的でじっくりと聞かせる演奏だったと思います。前半,ゆったりとしたテンポが続く一方,後半は大きく盛り上がり,スケールの大きさを感じさせてくれました。この曲では,後半のクラリネットのソロが大きな聞きものです。今回は,遠藤さんが大変表情豊かな演奏を聞かせてくれました。

OEKもラ・フォル・ジュルネ金沢明けに色々な公演が続きハードスケジュールですが,地元のアーティストを発掘し,活動を後押しするこの公演は,大変意義のあるものだと思います。今後も大切にしていって欲しい公演です。

(2016/05/19)





公演のポスター