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オーケストラ・アンサンブル金沢 第376回定期公演マイスター・シリーズ
2016年5月21日(土) 14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) サティ(ドビュッシー編曲)/2つのジムノペディ
2) シューマン/ピアノ協奏曲イ短調,op.54
3)(アンコール) リスト/「愛の夢」第3番
4) メンデルスゾーン/劇付随音楽「夏の夜の夢」op.21, 61(抜粋)
5)(アンコール) ドヴォルザーク/スラヴ舞曲 op.72-2

●演奏
ジャン・レイサム=ケイニック指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング)*1-2,4-5,若林顕(ピアノ)*2-3



Review by 管理人hs  

今シーズンのオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演マイスターシリーズは,毎回,ショパンの管弦楽伴奏付きピアノ作品を核としたプログラムが組まれています。今回の第376回公演でも,ショパンの「ポーランドの歌による幻想曲」が演奏される予定だったのですが...出演予定だったピアニストの菊地裕介さんが,体調不良のため出演がキャンセルになり,「ショパン抜き」になってしまいました。

このこと自体は大変残念だったのですが,それを補うかのように,ジャン・レイサム=ケーニックさん指揮OEKと急遽代役で登場した若林顕さんが熱のこもった演奏を聞かせてくれました(プログラムの冊子の印刷の変更も間に合っていなかったので,本当に急遽だったようです)。

前半は,ドビュッシー編曲によるサティのジムノペディ(2曲)が演奏された後,シューマンのピアノ協奏曲が演奏されました。

最初のジムノペディは,オリジナルのピアノ版では「3つ」ありますが,そのうちの2つをドビュッシーは編曲しています。最初にオリジナル版でいうところの第3番が演奏されました。オーボエ,フルート,ホルンの音がくっきりと聞こえてくる気持ちの良い演奏でした。続いて,有名な第1番が演奏が演奏されました。こちらの方はハープなどによる単純なリズムの上でヴァイオリンが非常に美しいカンタービレを聞かせてくれました。レイサム=ケーニックさんのテンポ設定は速目で,さらりと演奏されましたが,どこかまどろむような雰囲気があり(実は,この日ちょっと寝不足だったですが...),「牧神の午後」を思わせる後味が残りました。

ただし,この日,他に演奏された曲と比べると,サティだけがちょっと中途半端,というか,やや違和感を感じました。サティ自体,「普通の作曲家」とは違った存在ですので,サティからすれば,「してやったり」といったところかもしれませんが...。当初のプログラムの「ポーランドの歌による幻想曲」との取り合わせを考えての選曲だったのかもしれません。

シューマンのピアノ協奏曲は,大変オーソドックスな演奏だったと思います。若林さんは,本当に急遽出演することになったようで,曲を仕上げるのがまず大変だったと思いますが,さすがという安定感のある演奏を聞かせてくれました。冒頭のびしっと引き締まった一音の後,節度のある音楽を聞かせてくれました。ただし,個人的にはこの曲については,もう少し屈折したような濃い味を期待していたので,少々物足りなさを感じました。この辺は仕方のないところかもしれません。

第2楽章には,けだるい午後のムードがありました。中盤でチェロ・パートが素晴らしく美しいメロディを演奏しますが,この部分での陶酔的な気分が特に素晴らしいと思いました。第3楽章も大暴れするような感じはなかったのですが,最後のコーダではぐっと盛り上がり,がっちりと締めてくれました。

演奏後,急遽登場し,見事な演奏を行った若林さんに対する拍手が続き,アンコールでは,リストの「愛の夢」第3番が演奏されました。この曲での音の美しさとまどろむような気分が最高でした。しっとりと密やかに広がるロマンの世界が絶品でした。こうやって聞くと,サティのジムノペディと巧い具合に対応しているかなぁ...と思いました。

後半は,夏至を前にした「日の長い」季節にぴったりのメンデルスゾーンの「夏の夜の夢」の抜粋が演奏されました。レイサム=ケーニックさんの意図としては,いちばん規模の大きな「序曲」=第1楽章,いちばん華やかに盛り上がる「結婚行進曲」=最終楽章。その間に,スケルツォ,間奏曲,ノクターンを挟むことで,交響曲的なまとまりをつくろうとしていたのではないかと思いました。

ちなみに我が家にあったCDを調べてみると,シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団の抜粋版も全く同じ曲を同じ順に配列していましたので,一種「演奏会用組曲」的な抜粋といえそうです。

これらの曲は,OEKも何回か演奏していますが,聞くたびに「よくできた曲だなぁ」「メンデルスゾーンは素晴らしい」と思います。特に序曲は本当美しい曲であり,演奏でした。冒頭は,松木さんのフルートに続き,繊細な弦楽器の響きがキビキビと続きます。その透明な音のブレンドが絶品でした。クラリネットも活躍しますが,この日はエキストラで,東京都交響楽団の糸井裕美子さんが参加していました。こちらも素晴らしい音でした。

この曲では軽快な透明感と同時に低音がしっかり効いているのも好きなところです。この日は関西フィルの吉野竜城さんがエキストラで参加していました。展開部的な部分では,じっくりと音が点描的に絡み合うのがとても面白いと思いました。最後は,再度,澄み切った世界で締めてくれました。

続く,「スケルツォ」は,「イタリア」交響曲で演奏会を締めた時のアンコールとしてよく演奏される曲です。ここでもフルートを中心とした木管楽器の演奏が印象的でした。慌て過ぎず,くっきり,ワクワクと演奏されました。

「間奏曲」は,単独ではあまり演奏されない曲ですが,前半の美しくも不安げな雰囲気から,後半のどこか可愛らしい雰囲気への推移が大変魅力的でした。「夜想曲」は,ホルンの音にまどろみの気分と同時に雄々しいスケール感がありました。どこか情熱を秘めたような演奏でした。

そして,最後は「結婚行進曲」で締められました。この曲については,実用音楽としてあまりにも親しまれ過ぎていることもあり,演奏会の最後で聞くには,ちょっと軽い気はしましたが,びしっと揃った3本のトランペットを中心とした,新鮮味のある音楽は見事でした。レイサム=ケーニックさんのテンポはここでも爽快で,大変流れの良い「結婚式」という感じでした。

抜粋版全体として,とてもキビキビとした演奏で,上述のとおり,木管パートが生き生きとした精彩のある音楽を聞かせてくれました。アビゲイル・ヤングさんを中心とした弦楽パートの引き締まった音も素晴らしく,初夏の雰囲気たっぷりの音楽になっていました。

今回,当初のプログラムから1曲カットしたので,「多分,アンコールはあるだろう」と予想していましたが,やはりありました。アンコールでは,ドヴォルザークのスラヴ舞曲op.72-2が演奏されました。演奏前に,「Ladies and Gentlemen...」とレイサム=ケーニックさんはお客さんに呼びかけていたのが,何かとても貴族的な雰囲気がありました(レイサム=ケーニックさんは,プログラムによると「デンマーク,ポーランド,フランス人貴族の血を引く家系のもとイギリスに生まれる」ということで,「なるほど」と思いました。

演奏の方は,熱い雰囲気でテンポを揺らす流れの良い演奏でした。レイサム=ケーニックさんの指揮は動作はかなり細かく,強烈な個性やスケール感よりは,水彩画的な味わいがあるような気がしました。その点でも,特にメンデルスゾーンとの相性がとても良いと感じました。

この日の公演については,ソリストの急な交替というアクシデントはありましたが,「美しい5月」の休日の午後に聞くのにぴったりの演奏会となりました。

(2016/05/21)










公演の立看板


ソリスト交替の案内

終演後サイン会がありました。


レイサム=ケイニックさんのサイン


若林顕さんのサイン

金沢駅もてなしドームのタペストリ―は「金沢百万石まつり」に。何か黒いものが下に...


石川テレビのキャラクターの「石川さん」でした。こうやって見ると,なかなか強烈ですね。


本人も来ていました。