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金沢大学フィルハーモニー管弦楽団第41回サマーコンサート
2016年6月26日(日)14:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ニコライ/歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲
2) ボロディン/交響詩「中央アジアの草原にて」
3) グラズノフ/交響曲第5番変ロ長調

●演奏
岡崎宗汰*1-2;林若菜*3指揮金沢大学フィルハーモニー管弦楽団



Review by 管理人hs  

この時期恒例の金沢大学フィルのサマーコンサートを聞いてきました。金大フィルは,毎年1月頃にプロの指揮者による定期演奏会を行っており,どうしてもそちらの方が年間を通してのメインのイベントになるのですが,今年のサマーコンサートでは,メインプログラムとしてグラズノフの交響曲第5番という大胆な選曲がされました。この心意気に感銘(?)を受け,聞きに行くことにしました。そして,この演奏が本当に良い演奏でした。

前半では,ニコライの歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲とボロディンの「中央アジアの草原にて」が演奏されました,それぞれ,しっかりと真面目に演奏されていたのですが,どちらもやや味が薄いかなという印象でした。

「ウィンザー」の方は,数年前,井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢の演奏で聞いたことがあります。その時の井上道義さんの楽し気な指揮ぶりが目に残っているのですが,こういう軽妙な作品ほど,巧く聞かせるのは難しいところがあるのかもしれません。ただし今回の演奏も,曲の後半でのテンポの頻繁な変化とかグイッとえぐるよう聞かせてくれた力強い響きなどは生演奏ならではの楽しさが伝わってきました。

ボロディンの方は,さらに有名な作品ですが,ソロが次々と出てきて,実は難易度の高い曲だと思いました。冒頭,弦楽器の弱音の上にフルートが出てきた後,ホルン,クラリネット,イングリッシュホルン...と言う感じで次々ソロが出てきます。それぞれ,しっかりと演奏されていたのですが,全体的に見ると,もう少し山あり谷あり,という感じになってくれると面白いかな,と思いました。

後半に演奏された,グラズノフの方は,一転して,冒頭のユニゾンで演奏された部分から非常に深みのある音を聞かせてくれました。「おおっ,ロシアの響きだ」と思いました。

実は,私自身,グラズノフという作曲家の作品自体,ほとんど聞いたことがありませんでした。バラキレフと混同しており,ロシア5人組の一人かな...と勘違いしていたほどですが,年代的にはチャイコフスキーより若い世代で,ラフマニノフよりも年上です。

ロシアの作曲家といえば,ダイナミックで豪快という印象もあるのですが,グラズノフの場合,CDなどで聞いた感じ(少し予習をしました)では,チャイコフスキーの後継者的で,とてもまとまりの良い作品を作るロマン派の作曲家という印象を持ちました。ドイツの作曲家でいうとメンデルスゾーンのような位置づけでしょうか。

CDで聞くとちょっと印象の薄い感じのするグラズノフですが,今回の実演を聞いて,「この交響曲第5番は大変素晴らしい作品だ。グラズノフ,侮るべからず」と感じました。

第1楽章は3拍子系で書かれていることもあり,ベートーヴェンの「英雄」やシューマンの「ライン」の第1楽章などに通じる,堂々としたスケール感を持った流れの良さがありました。伸びやかさと自信に溢れており,ロマン派の交響曲らしいなぁと思いました。ちなみにこの楽章の最初の方のメロディですが,ワーグナーの「ラインの黄金」の最初の方の混沌とした感じと結構似ているなと思いました。

第2楽章はフルートを中心とした木管楽器が活躍し,メンデルスゾーンのスケルツォを思わせる粋な感じがありました。金大フィルの管楽器の音色もキラキラとしていました。

第3楽章はホルンの重奏から始まる,静かなロマンを感じさせる楽章でした。途中,トロンボーンなどに何かを警告するような感じの重いモチーフが出てくるのですが,その意味深な感じとの対比も魅力的でした。ラフマニノフの交響曲に通じるような切ない甘さもある見事な演奏でした。

第4楽章は,チャイコフスキーの初期の交響曲にありそうな,元気で素朴な曲想が印象的でした。途中,テンポが少しアップして,後半ではタン・タ・タン・タ・ター・ターといったメロディが何回も出てきます。これが結構耳に残ったのですが,これを中心として,段々盛り上がって行く感じが実に格好良いと思いました。

今回,実演を聞く前に,ロジェストヴェンスキー指揮ソヴィエト国立文化省管弦楽団のCDで予習をしてみたのですが,これよりは,もっとじっくりと聞かせてくれるような,大人の演奏だったと思いました。

というような感じで,「〜のような」という部分が多い曲だったのですが,曲全体が健全にがっちりとまとまっており,大変聞きごたえがありました。これまで,この曲を実演で聞いたことはなかったのですが,もっと演奏されて良い曲だと思いました。

私の記憶によると,この曲が金沢で演奏されるのは,ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルが金沢で演奏会を行った時(私は行っていませんが1970年代中頃だと思います)以来ではないかと思います。

大胆な選曲で,しっかりと楽しませてくれた金大フィルの皆さんに大きな拍手を送りたいと思います。アンコールなしで潔く(?)終わってくれたのも良かったと思います。

是非,これからもこの路線で(時々で良いと思いますが),知られざる名曲を発掘していって欲しいと思います。

PS. プログラムの裏に書かれていた「次回演奏会のお知らせ」によると,第77回定期演奏会は,2016年12月27日(火)に大山平一郎さん指揮で石川県立音楽堂で行われるとのことです。いわゆる仕事納めの日です。曲名までは書いてありませんでしたが,大山さんの指揮も含め楽しみです。

(2016/07/02)





演奏会の立看板


演奏会の案内


もてなしドームのタペストリ―は,新しいものに変わっていました。「五感にごちそう かなざわ」ということで,石川県立音楽堂でのクラシック音楽も金沢の「五感」の一つでしょうか?