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ムシカ・レソナンテ 室内楽のたのしみ
2016年6月30日(木) 19:00〜 金沢市アートホール

1) ベートーヴェン/ピアノ,クラリネット,チェロのための三重奏曲変ロ長調,op.11「街の歌」
2) ブラームス/クラリネット・ソナタ第2番変ホ長調 op.120-2
3) ベートーヴェン/ピアノ,クラリネット,チェロのための三重奏曲変ホ長調,op.38
4) (アンコール)ブラームス(編曲者不明)/子守唄

●演奏
木藤みき(クラリネット),ルドヴィート・カンタ(チェロ*1,3),鶴見彩(ピアノ)



Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のクラリネット奏者,木藤みきさんを中心としたグループ,ムシカ・レソナンテによる室内楽の演奏会を聞いてきました。今回演奏された曲は,ベートーヴェンとブラームスによる,クラリネットの入る室内楽作品ということで,大変オーソドックスな内容でした。どの曲も親しみやすく楽しめる曲想だったこともあり,サブタイトルにあるとおり,「室内楽のたのしみ」をしっかり味わうことができました。

今回の編成は木藤さんに,同じくOEKのチェロ奏者であるルドヴィート・カンタさんと金沢を中心に活躍しているピアニストの鶴見彩さんが加わった三重奏でした。クラリネット,チェロとピアノという組み合わせの曲となるとかなり限定されるのですが,その中で,最初に演奏されたベートーヴェンの三重奏曲「街の歌」は,いちばんよく知られた曲だと思います。

木藤さんのクラリネットの音色には,ピリッとした張りがあるので,急速な楽章はキビキビとした気持ちの良い音楽となっていました。第2楽章では,カンタさんの柔らかな甘い歌と木藤さんの凛としたクラリネットがしっかりと溶け合った,「夜の音楽」という感じでした。この編成自体,三重奏というよりは,二重ソナタ的な性格もあるなぁと感じました。

ニックネームの元になっている第3楽章も楽しい演奏でした。「街の歌」の由来となっている親しみやすいテーマは,鶴見さんのピアノでパリッと演奏された後,各楽器に見せ場を作るような感じで,多彩に変奏されていきました。特に木藤さんとカンタさんが競い合うように,強い音を出すような部分が,期せずしてユーモラスな気分を伝えていました。多彩な表情と表現を自在に楽しむことのできた,素晴らしい演奏だったと思います。

2曲目に演奏されたブラームスのクラリネットソナタ第2番は,ブラームスの「本当に最晩年の作品」です。安らかさと明るさの中にちょっとしみじみとした味わいが翳る,魅力的な作品でした。第2楽章には,どこか堂々とした風格のようなものがありました。しかし,暗くなり過ぎることなく,しっかりとした音楽の流れもありました。第3楽章にも明るさと暗さとがミックスした,晩年ならではの諦観のような味わいがありました。最後の部分では,力をふりしぼるように,ちょっと渋さのある音楽になっていたのもは,さすがブラームスという感じでした。

後半演奏されたベートーヴェンの三重奏の方は,おなじベートーヴェンの七重奏曲を編曲したものです。この曲自体,6楽章からなる40分ほどもかかる大曲です。それを3つの楽器用に圧縮したものなのですが,演奏時間の方は,ほぼ原曲と同じぐらいでした。

原曲は,室内楽にしては大きな編成で,小型オーケストラを聞くような豊かで多彩な音色が魅力的な作品です。それを二回りぐらい小ぶりにした今回の演奏は,音のボリューム感や色彩感の面では,少し地味になっていましたが,その分,演奏のキレの良さが浮き彫りになっており,速い楽章でのノリの良さが特に印象的でした。

第3楽章のメヌエットは,特に有名ですが,チェロのちょっとガクガクとした感じを聞きながら,ベートーヴェンの交響曲第8番の第3楽章のトリオの部分を思い出しました。第4楽章の「主題と変奏」,第5楽章のスケルツォもどちらも軽快で楽しいものでした。

7人を3人に減らして演奏ということで,その分,特にピアノの鶴見さんが大活躍していました。特に最終楽章では,古典的な清潔さのある,珠をころがすような音が素晴らしくOEKのベテラン奏者2人のペースメーカーになっているように感じました。

アンコールでは,ブラームスの有名な「子守唄」が3人編成で演奏されました(どなたが編曲したものだったのでしょうか?)。大変優しい演奏で,心拍数がだんだん落ち着いてきて,最後にスーッと眠りに落ちるに終わっていました。

というわけで,今回の演奏会は,特に出ずっぱり(吹きっぱなし)だった木藤さんには大変ハードな曲だったと思うのですが,滅多に聞くことのできない,クラリネットを中心とした室内楽をじっくりと楽しむことができました。ブラームスには,今回演奏されたソナタ意外にもいくつかクラリネット入りの室内楽曲がありますので,是非,続編を聞いてみたいものです。

(2016/07/02)




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