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ルドヴィートカンタ サロン・コンサート:チェロは唄う初夏の風にのせて
2016年7月18日(月祝)14:00〜 石川県立音楽堂交流ホール

1) バッハ,J.S./無伴奏チェロ組曲第6番〜アルマンド,クーラント
2) ポッパー/バラード, op.69
3) チャイコフスキー/ノクターン, op.19
4) チャイコフスキー/カプリッチョ風小品, op.62
5) ラフマニノフ/ヴォカリーズ, op.34
6) キュイ/オリエンタル, op.50-9
7) サン=サーンス/白鳥
8) フォーレ/夢のあとに
9) 滝廉太郎/荒城の月
10) 山田耕筰/赤とんぼ
11) 草川信/ゆりかごの唄
12) 久石譲/La Pioggia(雨)
13) ピアソラ/リベルタンゴ
14) ピアソラ/ル・グランタンゴ
15)(アンコール) モンティ/チャールダーシュ

●演奏
ルドヴィート・カンタ(チェロ),鶴見彩(ピアノ*2-15)



Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のメンバーの中でいちばん活発にソロ活動を行っているのは,首席チェロ奏者のルドヴィート・カンタさんでしょう。毎年1回以上はリサイタルや室外楽公演を行っています。今回は「サロン・コンサート」ということで,石川県立音楽堂交流ホールを使い,カンタさんのこだわりのプログラムからお客さんのリクエストに答えて選んだ定番曲まで,休憩なしで約1時間20分一気に楽しませてくれました。

最初に演奏された,バッハの無伴奏チェロ組曲第6番の中のアルマンドとクーラントは,今回演奏された曲の中でいちばん重い曲でした。最近,ヨーロッパを中心にテロ事件が頻発していることを意識して,「平和への祈り」を込めての演奏でした。特にアルマンドは,とつとつとした語り口で始まった後,次第に深い世界に入り込んでいくような演奏で,カンタさんの思いの深さを感じさせてくれるような演奏でした。クーラントの方は,対照的な気分を出すために選ばれた曲です。その平穏な日常的な世界が,実は大切なのだな,と実感しました。

その後,カンタさんのトークが入り,まずは,チャイコフスキー,ラフマニノフなどスラヴ系の小品が続きました。どの曲にも,さり気なくロマンの香りと味わいの深さがあるのがスラヴ系らしいところです。

スラヴ系といいつつ,最初にポッパーのバラードが演奏されました。深い音から始まった後,大変雄弁な演奏を聞かせてくれ,スケールの大きさを感じさせてくれました。

チャイコフスキーのノクターンは,ロシア民謡風の哀愁が漂っていました。中間部での甘くせつない音の動きは,「いかにもチャイコフスキー」でした。続いて演奏された,カプリッチョ風の小品は,タイトルどおり気まぐれな感じの作品で,曲想が変化に富んでいました。特に曲の後半での,急速なパッセージが印象的でした。「熊蜂の飛行」を思わせるような,見事な技巧を楽しませてくれました。

ちなみに,この曲はカンタさんにとっては,因縁の作品で,若い時,冬の極寒の中で演奏した「辛い思い出」があるそうです。実は,この日の公演でも,この曲を演奏する時に,別の曲を弾き始めてしまい「間違えた...すみません」とカンタさんが謝って,弾き直すというハプニングがありました。やはり,何かが憑りついている曲なのでしょうか。

お馴染みのラフマニノフのヴォカリーズは,カンタさんらしく,甘い雰囲気を廃した,気負ったところのない演奏を平然と聞かせてくれました。それでも,次第に音楽が熱く盛り上がって行くのがライブならでです。

キュイのオリエンタルは,タイトルどおりオリエンタルな曲でした。東洋風の音階で書かれた作品で,チャイコフスキーのスラヴ行進曲のテーマを思わせるような気分がありました。キュイという作曲家は,5人組の1人として名前だけが有名な方ですが,実際に曲が演奏されるのは,珍しいですね。静かな雰囲気が絶品でした。

後半は,事前に行っていたお客さんからのリクエストを参考にする形で選曲されました。定番の「白鳥」「夢のあとに」は,何よりも曲全体の”姿”が良いなぁと思いました。両曲とも,さらりとした雰囲気でストレートに始まった後,次第に味わいが増していくような熟練の演奏でした。

その後,「荒城の月」「赤とんぼ」「ゆりかごの唄」という「おなじみの日本の曲」が3曲演奏されました。どの曲も大変美しい演奏でした。これらの曲についても,さらりと演奏しているのに,歌詞の内容が伝わってくるような味わい深さがありました。低音をしっかり聞かせたり,チェロという楽器の魅力も伝わってきました。

久石譲のLa pioggia(雨)は,久石さんがカンタさんのためにアレンジした作品です。せつなくなるような美しい曲で,カンタさんの十八番と言っても良い曲だと思います。中間部で意志的な感じになり,大きく盛り上がった後,最後は静かな雰囲気に戻るのが大変ドラマティックです。この曲は,チェロの定番曲として残っていくのではないかと思います。

最後はすっかりチェロの定番曲となったピアソラのリベルタンゴとル・グランタンゴが貫禄十分に演奏されました。リベルタンゴは,大変音楽の流れの良い演奏でした。鶴見彩さんのピアノの華麗な弾きっぷりも見事でした。ル・グランタンゴは,よりスケールの大きさを持った曲で,楽器が唸りを上げるような力強さがありました。

最後にアンコールで,カンタさんが得意とするモンティのチャールダーシュが表現力豊かに演奏され,交流ホール独特のアットホームな雰囲気につつまれて演奏会は終了しました。

この日の公演を聞いて,カンタさんのレパートリーの広さと,次々と新たなレパートリーを増やしていることを実感できました。素晴らしいと思います。特に今回演奏された,「日本のメロディ」路線は,今後期待したいと思います。それと,久石さんのLa pioggiaのCD録音が欲しいですね。期待しています。

(2016/07/21)



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