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「ビアズリーと日本」開催記念コンサート ビアズリーが聴いた世紀末の歌
2016年7月31日(日)14:00〜 石川県立美術館ホール

1) ドビュッシ/月の光
2) シュトラウス, R./万霊節,op.10-8
3) シュトラウス, R./献呈,op.10-1
4) プーランク/即興曲第15番「エディット・ピアフを讃えて」
5) 愛の讃歌
6) リリー・マルレーン
7) ショパン/練習曲 op.10-3 「別れの曲」
8) プッチーニ/歌劇「トスカ」〜「妙なる調和」「2人の愛の家へ」「歌に生き,愛に生き」「星は光りぬ」
9)(アンコール) レハール/喜歌劇「メリー・ウィドウ」〜メリー・ウィドウ・ワルツ

●演奏
石川公美(ソプラノ*5-6,8-9;司会),近藤洋平(テノール*2-3,8-9), 田島睦子(ピアノ)



Review by 管理人hs  

石川県立美術館で現在行われている展覧会「ビアズリーと日本」に合わせ,「ビアズリーが聴いた世紀末の歌」と題したコンサートが同美術館のホールで行われたので聞いてきました。出演したのは,ソプラノの石川公美さん,テノールの近藤洋平さん,ピアノの田島睦子さんという北陸を中心に活躍しているアーティストで,親しみやすい曲とオペラを中心に構成された演奏会を楽しんで来ました。

まず驚いたのは,お客さんの数です。このコンサートは無料だったこともあり,超満員でした。開演1時間前に用意していた整理券が全部なくなり,補助席も出されていました。魅力的なネーミングに惹かれた方も多かったと思いますが,やはり,石川公美さん,田島睦子さんといった,金沢ではお馴染みの実力のあるアーティストが登場するということが,「信頼の印」になっていたのではないかと思います。そういう点で,金沢の音楽文化の成熟のようなものを感じました。

ビアズリーは,ワイルド作の戯曲「サロメ」のモノクロで描かれた挿画の作者として有名です。今回登場した3人の演奏者は,それを意識して,黒と白の衣装でバッチリと揃えていました。特にピアノの田島さんの雰囲気は,ビアズリーにぴったりでした。

この日演奏された曲は,ビアズリーが活躍した「世紀末に演奏されていた曲」ばかりでした。ちなみにビアズリーは,1872年生まれで,1898年にわずか26歳でなくなっています。今回のプログラムには,マニアックな感じの曲はなく,石川さんの分かりやすい解説とともに,リラックスして楽しむことができました。

まず田島さんの独奏による,ドビュッシーの「月の光」で始まりました。この美術館のホールはコンパクトで,音が生々しく聞こえます。速目でサラリとした演奏でしたが,ピアノの音の細かいニュアンスや暖かみをしっかり味わうことができました。

続いてテノールの近藤洋平さんによって,リヒャルト・シュトラウスの歌曲が2曲歌われました。これはやはり,ビアズリー→サロメ→シュトラウスという連想によるものですが,どちらも大変美しい曲でした。近藤さんの声は大変軽やかで,ちょっと味が薄いかな,という印象もありましたが,ストレートに切り込む声は大変若々しく,新鮮に響いていました。

田島さんの独奏で,流れるように穏やかに演奏された,プーランクの「エディット・ピアフを讃えて」に続き(これは世紀末の曲ではありませんが),ソプラノの石川さんの独唱で「愛の讃歌」と「リリー・マルレーン」が演奏されました。

「愛の讃歌」の方は,ピアフの歌唱で有名なシャンソンです。曲の美しさがストレートに伝わってくる歌でしたが,その分,人生の苦味のようなものは,ちょっと薄かったかもしれません。「リリー・マルレーン」の方は,マレーネ・ディートリッヒの歌で有名な愛唱歌です。途中,戦争中に国境を越えて愛された曲である,といった解説風のナレーションも入り,平和への思いが伝わってきました。

ショパンの「別れの曲」は,ビアズリーのお母さんがショパンが好きだったということを意識した選曲でした。恐らく,ビアズリーが聞いていたのは確実という作品です。田島さんの演奏には,「母さんの歌う子守歌」的なぬくもりと優しい肌触りがありました。

演奏会の最後には,「世紀末」(1900年)に初演された,プッチーニのオペラ「トスカ」の中から名曲が4曲歌われました。小ホールで聞くオペラ・アリアには,非常に迫力がありました。近藤さんの若々しく,伸びやかな歌も良かったのですが,ここはやはり,石川さんの堂々とした歌声が見事でした。二重唱では,カヴァラドッシの方が尻に敷かれているような印象もありましたが,どの曲にも安定感と同時に深い情が感じられ,オペラの一場面をしっかり楽しませてくれました。

アンコールでは,「最後は明るい気分で」ということで,レハールの「メリー・ウィドウ」のワルツが歌われました。「みなさんご一緒に!」ということで,和やかな雰囲気の中お開きとなりました。

個人的には,時代としての「世紀末」だけではなく,「退廃的」という意味での「世紀末」的な曲も聞いてみたい気はしましたが,これはまた別の機会でしょうか。「展覧会に連動した,美術館の中での演奏会」の雰囲気が大好きなので,別の展覧会での同様の企画に期待したいと思います。

(2016/08/03)




展覧会の入場券の半券と入場整理券