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田島睦子ピアノ・リサイタル
2016年8月5日(金)19:00〜 金沢市アートホール

バッハ=ブゾーニ/シャコンヌ
グルダ/プレイ・ピアノ・プレイ〜第5番変ロ長調,第2番ヘ長調,第6番ハ短調
クライスラー=ラフマニノフ/愛の悲しみ
ラフマニノフ/音の絵op.39
(アンコール)ウッド/マイ・ワン・アンド・オンリー・ラブ

●演奏
田島睦子(ピアノ)



Review by 管理人hs  

このところ暑い日が続いています。その中を金沢を中心に活躍しているピアニスト,田島睦子さんのリサイタルを聞いてきました。この日の午後からは,かなり体力を使う仕事をしていたので,行こうかどうか迷っていたのですが,週末の開放感に加え,「このプログラムは金沢ではなかなか聞けない」という斬新さに惹かれ,聞きに行くことにしました。

田島さんは,金沢で行われている色々な演奏会に多数出演されています。よくよく考えてみると,私がもっとも数多く演奏を聞いているピアニストが田島さんかもしれません。ただし,田島さんのリサイタルを聞くのは...2回目のことです。ただし,前回は15年以上前のことでした(昨年も田島さんはリサイタルを行っていますが,これには行けませんでした。)。

今回のプログラムは,バッハ=ブゾーニのシャコンヌ,グルダのプレイ・ピアノ・プレイ,クライスラー=ラフマニノフの愛の悲しみ,そして,ラフマニノフの音の絵op.39ということで,金沢で行うには,非常に冒険的なプログラムだったのですが,会場はほぼ満席でした。これは嬉しかったですね。金沢での田島さんの活躍が高く評価されていることの証だと思いました。この日の演奏を聴いて,その評価はさらにアップしたと思います。

前半のバッハ=ブゾーニのシャコンヌでは,さらりと始まった後,どんどん音楽が大きくなっていくのが見事でした。田島さんのピアノには重苦しさはなく,後半で,一瞬,光が差してくるように明るくなるのが印象的でした。

続く,グルダのプレイ・ピアノ・プレイは,全部で10曲からなる曲集で,その中から今回は,3曲が演奏されました。曲の雰囲気としては,クラシック音楽というよりは,ちょっとレトロな雰囲気のあるジャズです。最初の曲は,ブギウギのような感じでしたが,1台のピアノなのに,複数のパートでセッションを行っているような楽しさがあるのがとても面白いと思いました。3曲目は,トッカータを思わせる急速な音の動きが鮮やかで,田島さんの技巧を堪能できました。

前半最後では,クライスラー作曲,ラフマニノフ編曲による「愛の悲しみ」が演奏されました。ヴァイオリン曲としてお馴染みの曲ですが,ラフマニノフの手にかかると,装飾的なきらびやかさだけではなく,ちょっと崩したような雰囲気もあり,ヴィルトーゾ時代のアンコールピースといった気分たっぷりでした。後半に演奏されたラフマニノフの「音の絵」との「つなぎ」となる巧い選曲だと思いました。

後半は,「練習曲」というにはハード過ぎるラフマニノフの「音の絵」(ショパンの練習曲集同様2種類あるのですが,op.39の方です)が演奏されました。曲名だけは聞いたことがありましたが,実演で聞くのは,今回が初めてのことです。

曲は全部で9曲から成っているのですが,第1曲から硬質で重みのある音を聞かせてくれました。前半よりは,さらに1ランク上の響きで,「これでもか,これでもか」と迫ってくるような演奏(ただし,全く暑苦しくない)に圧倒されました。

ラフマニノフの曲といえば,ダイナミックさと同時に甘いメロディが特徴的ですが,この曲集の場合,甘さを抑えた重苦しさのある曲想が中心で,捉えどころのないような気分の曲もあります。田島さんの演奏は,特に速いパッセージでの流れの良さとエネルギーが素晴らしいと思いました。

最後の曲が「行進曲」というのは,いかにもラフマニノフ的です。この曲では,音量的にも全開となり,大変キレの良いのびのびとした演奏を聞かせてくれました。渾身の迫力を持ったコーダも見事でした。

今回の演奏会で,さらに(?)凄かったのが...後半での田島さんのドレスです。前半は黒のシンプルな飾りのないドレスでしたが,後半のドレスは黒地に鮮やかな模様が浮き上がり,さらに...背中の部分がほとんどない...という大胆なものでした。演奏の迫力にファッショナブルな雰囲気も加わり,パフォーーマンス全体としての魅力をさらに高めているようでした。

田島さんの唯一のウィークポイント(?)は,結構ハラハラさせるトークなのですが,これもまた逆に,愛嬌となって伝わって来ます。さらには,天性のすごさのようなものを強調しているようです。

アンコールでは,ウッドのマイ・ワン・アンド・オンリー・ラブという曲が演奏されました。ガーシュインの曲を思わせる,ゆったりとした気分のあるジャズ風の作品で,演奏会全体をリラックスした暖かみのあるムードで締めてくれました。

配布されたプログラムでは,選曲のキーワードとしてインスピレーションという言葉を使っていました。通常のピアノ・リサイタルでは(特に金沢では)取り上げられることの少ない「こだわりの曲」ばかりを並べながら,全体のバランスがとても良いと思いました。

久しぶりに聞いた田島さんのソロ・リサイタルは,本当に聞きごたえがありました。何よりも素晴らしいと思ったのは,レパートリーの広さとそれぞれの演奏の完成度の高さです。どんどん新しいレパートリーを広げていく,ファッショナブルでタフでオールマイティの金沢のヴィルトゥオーサとして,今後の活躍に期待したいと思います。
(2016/08/11)




演奏会のチラシ


アートホールの入口付近の掲示板。地元のクラシック系のリサイタルが目白押しですね。