OEKfan > 演奏会レビュー
OEKおしゃべりクラシック 夏休みスペシャル!
2016年8月14日(日) 14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ベリオ/作品番号獣番〜I.いなかのおどり,III.ねずみ,IV.ねことねこ
2) 青島広志構成・編曲「こんにちはモーツァルト」〜アイネ・クライネ・ナハトムジーク / メヌエットとトリオ / アレルヤ / おかあさん,きいてちょうだい / すみれ / おやすみ,かわいい子 / そり遊び / パ・パ・パ
3) 斎藤ネコ(作:佐野洋子)/100万回生きたねこ
4) 新実徳英(作詞:谷川雁)/ぼくは雲雀
5) 杉本竜一(作詞:杉本竜一)/ビリーブ

●演奏
川口晃(フルート*1),加納律子(オーボエ*1),松永彩子(クラリネット*1),渡邉聖子(ファゴット*1),金星眞(ホルン*1)
清水史津指揮OEKエンジェルコーラス*2,4-5 ,鈴木織衛(ピアノ*2)
鈴木織衛指揮石川県ジュニアオーケストラ*3-5
司会:森重有里彩(北陸朝日放送アナウンサー)


Review by 管理人hs  

毎年この時期,朝日新聞,北陸朝日放送と石川県音楽文化振興事業財団主催によるOEKエンジェルコーラスと石川県ジュニアオーケストラが登場する,親子向けの演奏会が行われています。連日,暑い日が続いていることもあり,半分ほどは避暑(いわゆるクールシェアリングですね)を兼ねて聞きに行ってきました。

今回の特徴は,「いわゆるクラシック音楽」が入っておらず,動物の登場する,ナレーションまたは合唱入りの曲ばかりが演奏されました。いきなり,ルチアーノ・ベリオの作品番号獣番の中から3曲演奏されるなど,親子向け演奏会としては,かなり型破りの部分もありましたが,特に後半に演奏された,鈴木織衛さん指揮石川ジュニアオーケストラ,太郎田真理さんの朗読による「100万回生きたねこ」が素晴らしく,聞きごたえがありました。

ベリオの作品番号獣番は,20世紀に作られた木管五重奏曲ということで,今回のプログラムの中でも特に型破りな作品でした。今回は,きつね,ねずみ,猫などが出てくる曲が抜粋で演奏されました。奏者は,,5人のメンバーが楽器を吹きながら,時々立ち上がったりしてセリフを言う(というか叫ぶ)という楽しいパフォーマンスでした。ただし,今回はコンサートホールで行われたこともあり,残念ながらセリフがはっきりと聞こえませんでした。この曲は編成的にも交流ホールか邦楽ホールで演奏する方が効果的だったかもしれません。

ちなみに,この曲の演奏前に曲目について説明したフルートの川口晃さんは,元石川県ジュニアオーケストラに在籍していた「卒業生」です。こういう「里帰り公演」というのも良いですね。

次に演奏された「こんにちはモーツァルト」は,おなじみ青島広志さんが,モーツアルトの色々な曲を編曲・再構成した合唱曲です。合唱はOEKエンジェルコンクールでしたが,この演奏では,歌うだけではなく曲のつなぎのセリフも担当していました。途中,ちょっとハラハラする部分もあったのですが,多彩な曲を生き生きと楽しませてくれました。

まず,清水史津さんと鈴木織衛さんのピアノ連弾によるアイネ・クライネ・ナハトムジークで始まりました。この曲が序曲となり,その後,エンジェル・コーラスのメンバーが入場し,清水さんの指揮,鈴木さんのピアノで演奏が進みました。いつもは指揮が本職の鈴木さんとピアノが本職の清水さんの役割が反対になっているのが面白いと思いました。

特に印象に残ったのは,デュエットで歌われた「すみれ」でした。澄んだ伸びやかな声が大きく広がる歌唱で,OEKエンジェルコーラスの個々のメンバーの歌唱力の素晴らしさを味わうことができました。

「おかあさん,きいてちょうだい」は,「キラキラ星変奏曲」として有名な曲ですが,「理屈と小言は嫌い...」といった歌詞が続き,何とも言えないユーモアを感じました。「そり遊び」は,モーツァルトの最晩年の曲で,鈴が入る楽しく美しい曲です。意外に実演で聞く機会のない作品ですが,改めて,子どもたちが演奏するのにぴったりの曲だと思いました。

最後は,歌劇「魔笛」の中の「パ・パ・パ」で締められました。この曲を含め,子どもが演奏すると効果があがる曲ばかりがうまく選ばれており,さすが青島さんという作品だと思いました。

後半は,石川県ジュニアオーケストラの演奏を中心に「100万回生きたねこ」が演奏されました。この作品は,佐野洋子さん作のお話に,斎藤ネコさんが曲を付けたものです。上述のとおり,まず,太郎田さんのナレーションが本当に素晴らしいものでした。明晰な発音で物語がしっかりと伝わってきただけではなく,全体的に落ち着きと凛とした品の良さがありました。太郎田さんは,過去何回か,OEKとナレーションで共演していますが,その実績どおりの見事な語りでした。

佐野洋子さんの原作については,タイトルは聞いたことはあったのですが,実は話を聞くのは今回が初めてでした。ネコが生死を100万回繰り返した後(輪廻?成仏していない...という感じ?),本来の自分は「野良猫」であることを見出し,さらに人生の伴侶のネコを見つけます。そして,最後,この伴侶との別れを経て,寿命をまっとうする...こういった内容が,童話ならではのワクワクさせるようなタッチ形で展開していきました。

斎藤ネコさんの音楽も素晴らしいものでした。センチメンタルになり過ぎることなく,ちょっとクールさと透明感を感じさせるような,佐野さんのテキストにぴったりの音楽でした。ドラマ後半の盛り上がり,悟りのムードも素晴らしく...正直なところ,しみじみと感動してしまいました。

前半部分は,同様のパターンが繰り返し出てきます。何回も「死にました」という言葉が出てくるのは,童話としては異例です。そういった部分では,音楽の方も同じようなモチーフが何回も繰り返されるような形になっていたのが面白いと思いました。ナレーションの間,ずっと繰り返し音型が続いていると,つい色々なことを考えてしまいます。テキストの中から自然にイメージを広げるような,「行間」のような音楽になっていると思いました。

そのうちにネコは「死ぬのは平気」という状態になり,一旦,明るくポップな雰囲気になります。その後,後半は愛する伴侶や子供を得ることで主人公自身が変わっていくのですが,その結果として,輪廻することはなく,寿命を全うします。この辺はかなり深い内容だと思いました。本来の自分の姿を知って大きな幸福感を得た後は,愛する人や自身の死が訪れるというのが宿命ということになるのでしょうか。喜びと悲しみが隣り合わせにあるのが人生と言えそうです。

最後の部分,愛する白ネコが亡くなる場面では,それまで無造作に「死にました」という言葉を使っていたのが,「動かなくなりました」という言葉を変わっていたのも印象的でした。「死を認めたくない」という,微妙な感覚が表現されているように思いました。

鈴木織衛さん指揮石川県ジュニアオーケストラの演奏も,合宿の成果がしっかり出た,雄弁な演奏で,佐野さんのテキストの持つ,深さを実感させてくれました。

最後,この日登場したメンバーが勢揃いし,新実徳英「ぼくは雲雀」,杉本竜一「ビリーブ」という愛唱歌的になっている合唱曲が歌われて締められました。

演奏会の最後では,OEKエンジェルコーラスのメンバーも再登場し,全員でお馴染みの合唱曲を2曲演奏しておしまいとなりました。新実徳英さんの『ぼくは雲雀』は,以前にも聞いたことがありますが,ちょっとやんちゃな感じが夏休みの気分にぴったりだと思いました。

今回は「動物」「おしゃべり」をテーマに,色々と工夫の凝らされたプログラムが取り上げられました。避暑のために出かけた演奏会でしたが,「100万回生きたねこ」を聞いて,「生きる」ということの喜びや悲しみについて,じっくりと考えることができました。これがいちばんの収穫でした。

(2016/08/20)




公演のポスター。午後の公演だと音楽堂のステンドグラスがきれいですね。

朝日新聞主催ということで,同社主催の2つのコンクールの写真が「夏の思い出」として展示されていました。




さらにリオ五輪開催中ということで,オリンピックの中継(パブリックビューイング?)もやっていました。



デジタル掛け軸(DKというんですね)のポスター


この日は本多の森周辺の施設は延長開館を行っていました。


石川県立美術館も営業中。