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いしかわミュージックアカデミー ライジングスターコンサート2016
2016年8月20日(土)18:00〜 石川県立音楽堂交流ホール |
1) バッハ, J.S./無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番ホ長調, BWV.1006
2) サン=サーンス/6つの練習曲, op.52〜第6番ワルツ形式の練習曲
3) リスト/「巡礼の年」第2年「イタリア, S161/R10b 〜第7曲ソナタ風幻想曲「ダンテを読んで」
4) タルティーニ/ヴァイオリン・ソナタ ト短調「悪魔のトリル」
5) イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ ホ長調,op.27-6
6) ドビュッシー/チェロ・ソナタ ニ短調
7) ベリオ/バレエの情景, op.100
8) エルンスト/シューベルトの「魔王」による大奇想曲, op.26
9) ベートーヴェン/ピアノ三重奏曲第7番変ロ長調,op.97「大公」〜第1楽章
●演奏
森山まひる*1,ユジン・イ*2,スビン・イ*4,ジェウォン・ウィ*5,辻彩奈*7-8(ヴァイオリン),金子遥亮(チェロ*6),チェウォン・キム(ピアノ*3),ピアノ三重奏(内尾文香(ヴァイオリン*9),ユリ・ノ(ピアノ*9),矢部優典(チェロ*9)
8月後半の恒例イベント,いしかわミュージックアカデミー(IMA)のライジングスターコンサートを聞いてきました。このコンサートは,前年度のIMA音楽賞受賞者を中心とした若手奏者が続々と登場するコンサートです。IMA音楽賞受賞者からは,毎年必ず,国際的な音楽コンクールでの上位入賞者を輩出していますので,このライジング・スターコンサートを聞いておけば,後から「あの時のあの人か」と振り返ることができます。
今回は次の皆さんが出演しました。
- ヴァイオリン:森山まひる,ユジン・イ,ジェウォン・ウィ,辻彩奈,スビン・イ
- チェロ:金子遥亮
- ピアノ:チェウォン・キム
- ピアノ三重奏(内尾文香(ヴァイオリン),ユリ・ノ(ピアノ),矢部優典(チェロ)
今回も水準の高い演奏の連続でしたが,特に今年の6月にモントリオール国際音楽コンクールで優勝したばかりのヴァイオリンの辻彩奈さんの演奏が大変インパクトの強いものでした。以下は,演奏後にメモした印象です。それぞれ,15分程度の演奏でした。
1.森山まひる(ヴァイオリン)
バッハの無伴奏パルティータ第3番の全曲が演奏されました。森山さんは,とても若い方でした。曲の冒頭から,ハッとさせるようなキレの良さが素晴らしく,その雰囲気どおりの軽やかに舞うようなな音楽を一気に聞かせてくれました。丁寧だけれども,音楽的で,生き生きとした「春風のバッハ(何か,ポールモーリアとかの曲のタイトルのようですが...)」といった,印象のある演奏でした。他の奏者が,かなりバーンと強く押し出してくる演奏が多かったので,反対にその軽やかさが大変爽やかに感じました。
2.ユジン・イ(ヴァイオリン)
森山さんとは対照的に,一気に大人のムードになりました。韓国の奏者は,全般に弓を弦にしっかりと押し当て,強い音をしっかりと出す方が多かった印象があります。この方の演奏も大変ゴージャスで押し出しの強い演奏でした。「優雅なワルツ」という印象とは少し違った感じもありましたが,「どうだ」という感じの安定感に感服しました。サン=サーンスの「ワルツ形式の練習曲」は,考えてみると,毎年のようにこのコンサートで聞いている気がします。課題曲の定番なのかもしれません。
3.チェウォン・キム(ピアノ)
リストの「ダンテを読んで」は,実演でよく演奏される曲で,大変演奏効果の上がる曲だと思います。チェウォン・キムさんの演奏は,コントロールされた音の美しさが素晴らしく,強く演奏する部分でも,全くうるさく感じませんでした。後半,啓示を受けたように高音が出てくる部分が好きなのですが,その部分での抒情的な気分がとても美しい詩的な演奏だったと思いました。
4.スビン・イ(ヴァイオリン)
ユジン・イさん同様に,力んでいないのに音の押し出しが良く,ずっと聞いていたくなるような心地よさを感じました。この曲はとても有名な曲ですが,実演で聞くのは今回が初めてかもしれません。古楽的な奏法とは全く別の次元の演奏で,往年の巨匠を聞いているような充実感があると思いました。
5.ジェウォン・ウィ(ヴァイオリン)
後半の最初は,前半同様に無伴奏ヴァイオリンの作品始まりました。この方の音色には,独特のクリーミーな感じがあると思いました。それでいて輝きも感じました。曲について,調べてみると,スペインのマヌエル・キロガという人に捧げられただけあって,途中,ハバネラのリズムも出てきていましたが,全体としては,ちょっと落ち着き過ぎかなという気もしました。
6.金子遥亮(チェロ)
曲自体とても渋い感じで,内向的でややとっつきにくい所がありました。金子さんの演奏は,渋さの中から,次第に情熱が湧き出てくるようで,秘めた強さのようなものを感じました。第2楽章などは,ピツィカート中心で,捉えどころがないところがありましたが,どこか和風な感じもして,個性的な作品だなと感じました。
7.辻彩奈(ヴァイオリン)
ベリオ(現代音楽のルチアーノ・ベリオとは違う人で,シャルル=オーギュスト・ド・ベリオというベルギーの作曲家です)の「バレエの情景」とエルンストの「シューベルトの「魔王」による大奇想曲」(こちらは無伴奏)という,滅多に演奏されない曲が2曲演奏されましたが,両曲とも音の緊迫感と表現の幅の広さが凄く,強く演奏に引き込まれました。鮮やかな赤の衣装で登場した辻さんは,どの曲も体を大きく使って演奏し,表現意欲が前面に表れていました。
エルンストの方は,「大奇想曲」という名前に相応しい,とんでもなく難しそうな曲でした。お馴染みの「魔王」の原曲でも歌手は3人ぐらいの声色を使い分けますが,それに加え,最初から最後まで続くピアノの「3連音符」もヴァイオリン1本で演奏していました。3連音符を弾きながら,どうやってメロディを弾くのだろうという気もしましたが,この辺は「耳の錯覚」も利用しているのかもしれませんね。
途中,魔王がこどもを誘う部分で,フラジオレットを使って,金沢弁で言うところの「こそがしい(くすぐったい)」感じの音を出していたのが印象に残りました。このエルンストは,一度,生で聴いてみたいと思っていたのですが,辻さんの集中力満点の演奏で聞くことができ,大満足でした。
8.ピアノ三重奏(内尾文香(ヴァイオリン),ユリ・ノ(ピアノ),矢部優典(チェロ)
最後は,ピアノ三重奏で,ベートーヴェンの「大公」の第1楽章が演奏されました。落ち着いたテンポで,スケール感たっぷりに演奏されましたが,やや緩い感じに思えました(辻彩奈さんの,緊迫感溢れる演奏の後だったからかもしれません)。やはり室内楽については,技術的な面とは別の難しさがあるのかも,と感じました。その中で,穏やかな気品に溢れた,ユリ・ノさんのピアノの美しさや,展開部の後半での緻密な音の絡み合いが印象に残りました。
これから秋にかけては,各種コンクールのシーズンになります。今年も,IMA受講生の「成果」に期待したいと思います。
(2016/08/23)
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公演のチラシや案内類です。




会場の交流ホールものぞき込めるようになっていました。
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