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IMA&OEKチェンバー・コンサート:音楽堂室内楽シリーズVol.2
2016年8月21日(日) 18:00〜 石川県立音楽堂邦楽ホール

1) ドヴォルザーク/三重奏曲 ハ長調 Op.74, B.14
2) ヤナーチェク/ヴァイオリン・ソナタ
3) ドヴォルザーク/ピアノ五重奏曲 イ長調 Op.81, B.155

●演奏
ホァン・モンラ*1, ロラン・ドガレイユ*2, 神谷美千子*3,レジス・パスキエ*3(ヴァイオリン), 原田幸一郎(ヴィオラ*3), 毛利伯郎(チェロ*3),鈴木慎崇*2,ハエスン・パイク*3(ピアノ)
OEKメンバー(ヴァイオリン:若松みなみ,ヴィオラ:石黒泰典)*1



Review by 管理人hs  

毎年8月下旬に行われている,いしかわミュージック・アカデミー(IMA)の講師たちと,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)メンバーによる室内楽コンサートが行われたので聞いてきました。今年はドヴォルザークとヤナーチェクの室内楽ということで,チェコの音楽特集でした。数年前までは,特にテーマを決めていませんでしたが,こういう形で統一テーマがある方が演奏会全体としての充実感は増す気がしました。前半は小編成,後半は大編成の曲というのは,例年通りの構成でした。

最初にホァン・モンラさんと,OEKの若松みなみさん,ヴィオラの石黒泰典さんで,ドヴォルザークの三重奏曲が演奏されました。初めて聞く曲でしたが,弦楽四重奏からチェロを引いた編成ということで,同一系統の楽器3台による陶酔的な響きを楽しむことができました。特にホァン・モンラさんの滴るような音が印象的でした。地味だけれども,弦の魅力をしっかり味わえる作品だと思いました。

2曲目のヤナーチェクのヴァイオリン・ソナタは,ロラン・ドガレイユさんのヴァイオリンと鈴木慎崇さんのピアノで演奏されました。この曲は,以前から,ちょっと東洋風の独特の怪しい雰囲気が好きだったのですが,この日の演奏を聞いてさらに好きになりました。

第1楽章冒頭から,野性味と和風と言っても良いムードの漂う演奏で,ドガレイユさんの,鬼気迫るような表情を持ったヴァイオリンがグイグイと迫ってきました。鈴木慎崇さんのクールなピアノの響きとのバランスも絶妙で,日常とは,全く別の世界に誘ってくれました。

第2楽章は,やさしくリラックスした気分で始まりました。渋さを感じさせながらも,次第に夢のような世界へと入って行くようでした。第3楽章は再度,野性味のある楽章となりました。切れ味の良い刀をスパっと抜くような凄味を感じました。

最終楽章は,最初,ヴァイオリンは弱音器を付けて演奏していました。そのくすんだ音が非常にミステリアスで印象的でした。この雰囲気にまずドキッとしました。その後は弱音器なしで演奏されたので,演奏自体に立体感があったのも凄いと思いました。

続いて急に甘いメロディが出てきます。この辺の切り替えは,ちょっとアストル・ピアソラを思わせるところもあるな,と思いながら聞いていました。鈴木さんのピアノの美しい音も大変印象的でした。

最後は,音が遠くの方に消え去っていくように,淋しく終わります。演奏全体にミステリアスな気分が溢れ,曲を聞いている間は,全く別の世界・時代・場所にトリップさせてくれるようでした。素晴らしい演奏だったと思いました。

後半のドヴォルザークのピアノ五重奏曲も聞きごたえがありました。ピアノ五重奏曲には名作が多いのですが,この曲は親しみやすいメロディがいかにもドヴォルザークらしく,以前から特に好きな作品の一つです。

冒頭から,ハエスン・パイクさんのピアノ冴えた音と毛利伯郎さんのチェロの抑制の効いた清潔感のある音が印象的でした。その後,レジス・パスキエさんのヴァイオリンなどの楽器が加わって,ダイナミックに盛り上げっていくのが,ソリスト集団らしいと思いました。パスキエさんは,たっぷりとした弾きっぷりで,「独自の道」を歩きたそうな感じでしたが,そのせめぎ合いも面白いところです。楽章の最後は,大きな空間に向かって羽ばたくようなスケールの大きさを感じました。

第2楽章は,じっく〜と聞かせるドゥムカ風の楽章でした。ここでもパイクさんの清冽なピアノが素晴らしく,その上で原田さんのヴィオラなどがしみじみと大人の味わいを聞かせてくれました。その後,のどかな気分になったり,急に熱狂的な気分になったり,起伏の大きな演奏が続くところに,民族性を感じました。

第3楽章は,パスキエさんのヴァイオリンを中心に,予想外(?)の若々しさに溢れていました。トリオでの,昔を懐かしむような気分も印象的でした。

第4楽章には,「せーの」と大らかに合わせるような楽し気が気分がありました。終結部に向かってテンポが速まっていく変化も楽しく,音楽する喜びにあふれていました。演奏後も皆さんとても嬉しそうな表情をされていました。

前日に聞いた,受講生によるライジングスターコンサートも聞きごたえ十分でしたが,講師陣による,迫力十分の味わいに溢れた演奏もまた,聞きごたえがありした。受講生も大勢聞きに来ていましたが,色々な点で勉強になったのではないかと思います。

(2016/08/23)




公演の立看板


交流ホールでは,レッスンを行っているようでした。