OEKfan > 演奏会レビュー
セイジ・オザワ松本フェスティバル2016 オーケストラ コンサートA (スクリーンコンサート)
2016年8月22日(月) 19:00〜 キッセイ文化ホール(松本市)からの生中継を金沢市文化ホールで視聴

1) オネゲル/交響曲第3番「典礼風」 H.186
2) ベートーヴェン/交響曲第7番イ長調, op.92

●演奏
ファビオ・ルイージ*1;小澤征爾*2指揮サイトウ・キネン・オーケストラ(コンサートマスター:小森谷巧*1;豊嶋泰嗣*2)



Review by 管理人hs  

金沢市文化ホールで,セイジ・オザワ松本フェスティバルのスクリーンコンサートが行われたので聞いてきました。サイトウ・キネン・フェスティバルの時は,「恒例」だったのですが,名称が現在のものに変更になった昨年は行われませんでしたので,2年ぶりということになります。

この日のコンサートの指揮は,前半がファビオ・ルイージさん,後半が小澤征爾さんでした。体力的に小澤さんが1つのコンサートを振り切るのは難しいため,この形を取ったと思うのですが,演奏曲目の方も,小澤さんを気遣って,ブラームスの交響曲第4番からベートーヴェンの交響曲第7番に変更になりました。

やはり,小澤さんは,以前に比べると,かなりやつれて見えました。スクリーンコンサートだと,その辺がはっきり見えてしまい,楽章間ごとにたっぷりと休息を取り,水分補給をしながらの指揮というのは,少々痛々しく感じました。ただし,その休憩での動作自体に,どこか飄々としてユーモラスな感じがあり,指揮をする仙人のような境地に入っているように見えました。

というわけで,どうしてもルイージさんは前座のようになってしまい,演奏会全体としてみると,小澤さん中心という形になっていました。

その小澤さんの指揮するベートーヴェンですが,まさに巨匠的なベートーヴェンだったと思います。小澤さんについては,ステージに登場するときに,「仲間といっしょに入ってくる」スタイルからして,「巨匠」という呼称は相応しくないと思っているのですが,オーケストラのメンバーが許さないのではないかと思います。

テンポ自体はそれほど遅くはなかったのですが,どの部分をとってもズシリとした質感がありました。オーケストラ・アンサンブル金沢の演奏するベートーヴェンからすると,弦楽器は倍ぐらいいたので,当然かもしれませんが,特に低弦が充実していると感じました。

第1楽章の主部に入る部分,小澤さんがスッと立ち上がりましたが,この辺は見ているだけで,気持ちが高ぶりました。呈示部の繰り返しも行っており,さらに大交響曲らしくなっていました。

第2楽章は,深く,巨大な音楽でした。それでいて室内楽的で緻密な音の絡み合いが大変聞きごたえがありました。

第3楽章から第4楽章に掛けては,通常は「舞踏の権化」というニックネームどおり,通常は,音が飛び回る感じになるのですが,この日の演奏は,一音一音をしっかりと弾き切るような重みを感じました。その点で,「ベト7らしくない」「スケルツォらしくない」気もしましたが,小澤さんを盛り立てようとする,サイトウ・キネン・オーケストラのエネルギーが最大限に引き出された,大シンフォニーになっていました。

第4楽章の冒頭,小澤さんは立ち上がって指揮をされていました。サイトウ・キネン・オーケストラのメンバーも,特別の感慨を持って演奏していたのではないかと思います。熱狂的になるわけではなく,小澤さんと作る音楽の時間をたっぷりと楽しんでいるようでした。

全曲を通じると,やはり弦楽器の充実感がすごいと思いました。コンサートマスターは豊嶋泰嗣さんでしたが,その他にも東京のオーケストラのコンサートマスターが勢揃いしている感じでした。特に第1楽章のコーダでの,低弦の動きなど,映像で見ても迫力十分だったので,実演だとものすごい迫力だったのではないかと思います。日頃は聞こえないような,音の刻みがくっきり聞こえくる部分があったのも面白いと思いました。

管楽器の方は,外国人のメンバーが主体でした。この曲の場合,まず第1楽章の主部に入るところでのフルートに注目です。この日は,おなじみのジャック・ズーンさんが首席奏者でした。見た感じ,もう少し跳ね回りたそうな感じがありました。それがまた,良いアクセントになっていました。

というわけで,演奏後は,いわゆる「一般参賀」のような状態になっていました(演奏自体も,朝比奈さんのベートーヴェンに近かったかも...)。朝比奈さんの時と違うのは,オーケストラのメンバー全員(+ファビオ・ルイージさんも)で「出たり,入ったり」していたことです。この辺が小澤さんらしいところだと思います。

前半のルイージさんが指揮した曲は,オネゲルの交響曲第3番「典礼風」でした。ベートーヴェンよりは大編成の曲でしたが,全体のトーンが,かなり渋い曲だったこともあり,スピーカーを通しての音量はベートーヴェンの方があったように感じました。ルイージさんの指揮ぶりには,誠実さがあり,音楽も知的に引き締まっている感じでした。

その中でいちばん印象に残ったのは,第3楽章の最後の部分です。3つの楽章を通じて,戦争の愚かさへの反発と平和への祈りが感じられる作品ですが,第3楽章では,行進曲風の部分に続いて,最後の最後に「平和」な気分になります。チェロの木越洋さん(じっくりと聞かせる「美味しいソロ」でした),フルートのズーンさん,ヴァイオリンの小森谷巧さん...と平和を象徴するような静かな感動を秘めた室内楽的な気分で終わったのが素晴らしいと思いました。

ダイナミックな音響は,スクリーンコンサートで味わうことは特に難しいので,この曲については,是非,実演で聞いてみたいものだと思いました。

毎回,スクリーンコンサートに参加するたびに,拍手しても届かないもどかしさを感じるのですが,終演後は金沢でも大きな拍手が起こっていました。小澤さんの渾身の指揮ぶりは,オーケストラのメンバーを含め,多くの人に大きなエネルギーを与えてくれたのではないかと思います。

(2016/08/25)




公演のチラシ


開演前の会場。この後,もう少しお客さんは入りましたが,満席ではありませんでした。


プログラムの書かれたリーフレットと松本市の観光ガイド。スクリーンコンサートの前には,しっかり,松本市の案内の映像が流れました。