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モーツァルト室内楽の旅(27)ヴァイオリンソナタ第5回
2016年9月1日(木)19:00〜 金沢蓄音器館 |
1) モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタ第18番(第25番)ト長調,K.301(293a)(1778年2月)
2) シュスター/クラヴィーアとヴァイオリンのためのディヴェルティメント第1番(1777年)
3) モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタ第19番(第26番)変ホ長調,K.302(293b)(1778年2月)
4) モーツァルト/ピアノ・ソナタ第9番ニ長調,K.311(284c)(1777年)
5) モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタ第20番(第28番)ハ長調,K.303(293c)(1778年2月)
6) (アンコール)モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタ第18番(第25番)ト長調,K.301(293a)〜第1楽章
●演奏
大村俊介(ヴァイオリン*1-3,5-6),鶴見彩(ピアノ)
この日は久しぶりに金沢蓄音器館に出かけ,大村俊介さんのヴァイオリンと鶴見彩さんのピアノで,モーツァルトのヴァイオリン・ソナタ3曲などを聞いてきました。元OEKのヴァイオリン奏者の大村さんによる,「モーツァルト室内楽の旅」シリーズも回を重ね,2006年から始まった弦楽四重奏シリーズの13回と合わせると,今回で何と40回目になります。まさに汲めどもつきないモーツァルトの室内楽の世界です。
最近は,このシリーズではヴァイオリン・ソナタを取り上げていらっしゃるようですが,今回は鶴見彩さんのピアニストに迎え,「パリ・ソナタ」とか「プファルツ選帝侯ソナタ」とか「マンハイム・セット」と呼ばれる6曲の中の3曲が演奏されました。
ちなみに「ヴァイオリン・ソナタ」という呼称ですが,正式には「クラヴィーアとヴァイオリンのためのソナタ」となります。今回も「長いのでヴァイオリン・ソナタとしておきます」と大村さんが語っていたとおり,ここでも,一般的な表記どおり「ヴァイオリン・ソナタ」と書くことにします。
また,ソナタの番号ですが,一般的に通用している番号の方は偽作を含めた番号で,ここではその偽作を抜いた番号をメインに使っていました。
このシリーズは,毎回,大村さんが演奏する曲について,曲の背景となる知識を含め,丁寧に説明をしていただけるのが素晴らしいところです。今回のポイントは「モーツァルトはヴァイオリン・ソナタを生涯を通じて書き,その要所要所でヴァイオリン・ソナタで勝負を掛けてきた」ということです。
1回目は,モーツァルトが「神童」と呼ばれた幼少時代です。その時に作品1として出版したのがヴァイオリン・ソナタです。そして,22歳でザルツブルクを出て,マンハイムからパリへと就職活動の旅行をした後に出版したのが,今回のパリ・ソナタです。
モーツァルトの他のジャンルの曲に比べると,少々印象が薄い面もあったのですが,このことを頭に置いて,1曲ずつじっくり聞くと,どの曲も大変味わい深いと思いました。これは,大村さんのヴァイオリンの暖かみのある演奏にもよると思います。それと今回は何といっても,鶴見彩さんのピアノが素晴らしいと思いました。
至近距離での演奏ということもあり,音が大変くっきり聞こえました。さらに音の粒が気持ちよく揃っており,速いパッセージで,タタタタタ...と見事に音が連なっているのが素晴らしいと思いました。演奏全体をくっきりとしたものにしていました。
最初に演奏された第18番は,パリ・ソナタ6曲の中でも有名なものです。気負いなく歌い始めるヴァイオリンのメロディは,私も聞いたことがあります。大村さんのじっくりと聞かせるヴァイオリンを鶴見さんのピアノがくっきりと縁取るような演奏でした。
第2楽章は優雅な雰囲気のある楽章です。特に中間部で短調のシチリアーノ風になるのが独特で,ほのかに悲しみを湛えているのが,とても魅力でした。
続いて,その他,モーツァルトがこのシリーズを作曲するにあたって影響を受けた,シュスターの作品が演奏されました。大村さんは「このシリーズでは,作曲していた頃,モーツァルト自身何を考えていたかも考えたい」と語っていました。モーツァルト自身,この作品からヒントを得て,作曲したかと思うと,急に臨場感が増します。
シュスターの作品については,モーツァルトが姉に宛てて書いた手紙の中に「良い曲だ」と書かれています。この日演奏された曲だったかどうかは,不明なのですが,「楽譜が手に入った。このシリーズでないと聞けない作品(大村さん談)」ということで,クラヴィーアとヴァイオリンのためのディヴェルティメント第1番という作品が演奏されました。シンプルで活気のある両端楽章の間にピアノの伴奏の上でしっとりと歌う2楽章が入っている3楽章の作品で,確かにモーツァルトに通じる空気があると思いました。
前半の最後には,ヴァイオリン・ソナタ第19番が演奏されました。第1楽章は,細かい音の動きが心地よかったのですが,途中からモーツァルトらしく深い翳りが加わるのが魅力的でした。第2楽章は,変奏曲のような形式で,大村さんは「ヴァイオリンの音の動きはとてもシンプルだが,ピアノの和音の動きが変化していき,最後はとても感動的な感じ」と語っていました。そのシンプルかつしみじみとしたエンディングは,大村さんの言葉どおりでした。
演奏会の後半では,まず,ヴァイオリン・ソナタと同時期に書かれたモーツァルトのピアノ・ソナタ第9番が演奏されました。ここでも鶴見さんのピアノが見事でした。明快で気持ちの良い第1楽章。落ち着きと安心感のある第2楽章。品の良い小走りの感じのある第3楽章。と,それぞれが魅力的に演奏されていました。蓄音器館のピアノの特徴なのか,最初に書いたように,軽快にカタカタカタと音が連なる感じがあり,モーツァルトのソナタにぴったりだと思いました。
最後に,パリ・セットの3曲目,ヴァイオリン・ソナタ第20番が演奏されました。この曲も,ゆ〜ったりとした部分と速くキレの良い部分のコントラストが面白い第1楽章,静かに終わるメヌエットの第2楽章という構成でした。
今回は,パリ・セットの前半の3曲が演奏されましたが,どの曲も静かにスッと終わる感じでした。間近でじっくりと聞いていると,「こういうのも良いなぁ」と思いました。
大村さんの深い音楽的教養に裏打ちされたモーツァルトの室内楽シリーズですが,鶴見さんのピアノが加わり,さらにパワーアップしたのではないかと思います。夜になって虫の声が盛大に聞こえる季節にはぴったりの,味わい深い演奏会でした。ヴァイオリン・ソナタの方は,これからどんどん内容が濃くなっていくのですが,次回も楽しみにしたいと思います。
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この日は演奏前に時間があったので,浅野川から東茶屋街を散策してから,蓄音器館に行きました。その写真を紹介しましょう。
梅の橋から下流を眺めたところ

梅の橋から上流を眺めたところ。天神橋が見えます。

東茶屋街へ

最近は,この写真が金沢観光の定番写真になりつつあるかも。平日の夕方だとさすがに空いています。

金沢おどりのポスターやチョウチンが出ていました

メインストリートだけではく,脇道も味わいがあります。

以前から気になっている喫茶店

メインストリートを,いつもと反対方向から撮影

いつの間にかお店の数も増えていますね。

伝統的な景観は,メインストリート以外にも広がってきているようです。

東茶屋街から浅野川大橋に向かう途中に夕焼けを撮影

浅野川大橋から上流を眺めたところ。奥には梅の橋と天神橋が写っています。

橋場町から尾張町の裏通りへ。ブラタモリではありませんが,この高低差が,金沢市内の魅力だと思います。

蓄音器館の隣にある,泉鏡花記念館から久保市乙剣宮を見たところ。

金沢蓄音機感に到着

蓄音器館のショーウィンドウ

終演後。お隣の柳宗理デザイン研究所のショーウィンドウ。

新町・鏡花通りを示す照明

(2016/09/03)
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公演の案内。絵の方はギターに見えますが...

以前とは部屋の使い方が変わったようで,部屋の入口側で演奏する形になっていました。
棚には多数の蓄音器
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