OEKfan > 演奏会レビュー
オーケストラ・アンサンブル金沢第381回定期公演マイスター・シリーズ
2016年10月8日(土) 14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) モーツァルト/ヴァイオリン協奏曲第3番ト長調, K.216
2) スーク/弦楽のためのセレナード変ホ長調, op.6
3) ベートーヴェン/交響曲第4番変ロ長調, op.60
4) (アンコール)ビゼー/「アルルの音楽」組曲第1番〜アダージェット

●演奏
オーギュスタン・デュメイ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング),オーギュスタン・デュメイ(ヴァイオリン*1)



Review by 管理人hs  

2016/2017のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)定期公演マイスター・シリーズのテーマは,「エッセンス・オブ・モーツァルト」ということで,毎回,モーツァルトの作品が取り上げられます。その第1回には,フランスのヴァイオリニストで指揮者のオーギュスタン・デュメイさんが登場しました。OEKとの共演は今回が初めてです。

デュメイさんといえば,往年のヴァイオリニスト,アルテュール・グリュミオーの後継者的な”優雅な雰囲気”を持ったヴァイオリニストといった印象を持っていたのですが,指揮者としてのデュメイさんは,かなり大柄な(実際,デュメイさんは非常に背の高い方でした)音楽を作る方だと感じました。

演奏会は,デュメイさんの弾き振りによるモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第3番で始まりました。デュメイさんのお得意のレパートリーということで,自信たっぷりで自由な気分と明るさに溢れた演奏を聞かせてくれました。

第1楽章のオーケストラだけによる序奏部から,非常に推進力がありました。この日のコンサートミストレスは,アビゲイル・ヤングさんで,全体をリードするような積極的な演奏を聞かせてくれました。デュメイさんのヴァイオリンは,所々微妙なニュアンスの変化を付けながら,基本的には小細工することなく,ストレートにモーツァルトの美しさを感じさせてくれるものでした。弾き振りということで,少し前のめりのような感じがするくらいの推進力は,序奏部と同様でした。暖かく明るい音からは,デュメイさんの人間味を感じ,思わず「これは,べっぴんさんの音だ(朝ドラの見過ぎ)」と思いました。カデンツァの部分はさらに大らかで,秋空が晴れ渡ったような気持ち良さがありました。

第2楽章もまた,幸福感が溢れていました。大味なわけではないけれども,神経質なところはなく,ストレスなく自由さに満ちた音楽を聞かせてくれました。楽章が進むにつれて,段々と高みに登っていくような気分があったのも見事でした。聞いているうちに,ピアノ協奏曲第21番の第2楽章あたりと似た,ゆったりとした品格の高さのようなものを感じさせてくれました。最後は,ゆっくりと名残惜しさを残して終わりました。

第3楽章もキリッと締まった,速目のテンポで演奏されました。生きの良さと同時に柔らかさががありました。この楽章は,色々な楽想が次々と湧いて出てくる,ニュアンスの変化が聞きものです。途中,一瞬短調になった後,再度明るさを取り戻す辺りの陰影を感じさせてくれる部分があります。この辺りが大好きです。今回の演奏では,じわじわと明るさを取り戻す「大人の音楽」になっていました。曲の最後は,テンポをじっくり落とし,ふんわりと音がホールの空気に融け込むように終わっていました。まさに絶品でした。この曲のイメージどおりの演奏でした。

2曲目に演奏されたスークの弦楽セレナードも素晴らしい演奏でした。OEKが全曲を演奏するのは初めてだと思います。第1楽章の冒頭から爽やかな勢いがあり,大変新鮮でした。楽章の途中,ヤングさんのヴァイオリンとグリシンさんのヴィオラの独奏が入りましたが,「若い男女の語らい」のような趣きがあり,まさにセレナードだな,と思いました。楽章最後の部分の名残惜しさも印象的でした。

第2楽章は軽妙なワルツでした。1楽章のロマンの香りの余韻をかすかに残すような味わいが良いと思いました。第3楽章にはノクターンを思わせる気分がありました。カンタさんと早川さんのチェロの二重奏で始まる「夜の気分」が聞きものでした。ただし,夜といっても真っ暗ではなく,月明かりのある感じでした。途中から,夜がさらに深まって,ホール全体がマジックに掛かったような雰囲気になっていました。

第4楽章はキリっと締まった勢いのある音楽でした。OEKの弦楽セクションの各パートの積極的な掛け合いも面白く,曲の終わりに向けた盛り上がりを作っていました。最終楽章の途中,第1楽章の最初の部分が戻ってくるのは,「弦楽セレナードの定番」と言って良いスタイルです。「祈り」を感じさせるゆったりした気分の後,急にテンポアップして終わっていました。演奏の完成度の高さの点では,この日演奏された3曲の中では,いちばんだったと思いました。

後半は,ベートーヴェンの交響曲第4番が演奏されました。上述のとおり,曲全体として大変大柄な,スケールの大きな演奏になっていたと思います。

第1楽章の序奏部から,弱々しい感じはなく,静かさと同時に,有機的な生命感のようなものが漂っていました。主部に入る部分では,一瞬ちょっと音を弱めた後,ゴツゴツした感じで第1主題を演奏していたのが特徴的でした。この辺は,かなり個性的でちょっと合わせにくそうな感じもありましたが,楽章全体として,堂々とした構えの大きさと強さを感じさせてくれ,大変聞きごたえがありました。なぜかこの楽章の後,パラパラと拍手が入ったのですが,それも納得という感じでした。

第2楽章では,第1ヴァイオリンが奏でるメロディの流れの良さと同時に明確なリズムの刻みを感じさせてくれました。この楽章全体を通しても,堂々たる歩みを感じました。中間部は,クラリネットの遠藤さんのすばらしくデリケートでしっとりとしたソロ,ホルンの金星さんの超高音が静かに舞い降りてくる部分など,聞きどころ満載でした。楽章の最後に向けて,テンポがぐっと遅くなっていましたが,最後の最後の部分は,ちょっと待ちきれないような感じで,やや遅すぎかな,と感じました。

第3楽章では,速目のテンポでキリっと引き締まった音楽を聞かせてくれました。トリオの部分での,パッと音が開放されるようなダイナミックさも良いと思いました。

第4楽章は,「テンポが速いと,後からファゴットが大変」という楽章なのですが...容赦のない急速な演奏でした。さすがに,その「難所」では,ファゴットの柳浦さんは大変そうだったのですが,コンサートミストレスのアビゲイル・ヤングさんを中心に,大変積極的な演奏を聞かせてくれ,デュメイさんの無茶振り(?)に見事に答えていました。キビキビとした感じと滑らかさが両立しているのが素晴らしいと思いました。途中,タタンタ,タタンタ...というリズムが繰り返し出てくる部分がありますが,そのヒタヒタと迫ってくる感じに妙に惹かれました。

楽章の最後の部分では,一転してゆったりとしたテンポになり,大きなタメを作った後,ファゴットがヒョロヒョロと演奏し,一気にダッシュして,重量感たっぷりにズドンと終わっていました。極端なぐらいのテンポの差でしが,全曲を通じて大変,面白く,スリリングな演奏になっていました。

今回のプログラムでは,どの曲にも,デュメイさんとOEKの表現意欲が溢れていました。このコンビの共演は今回が初めてでしたが,どの曲についてもデュメイさんに対するリスペクトの感じられる演奏で,相性が良いと思いました。今回は古典派音楽が中心でしたが,アンコールで演奏されたビゼーの「アルルの女」のアダージェットでのやすらぎに溢れた音楽を聞きながら,機会があれば,フランス音楽なども聞いてみたいものだと思いました。

(2016/10/12)




公演の立看板


10月10日の公演の看板。こちらには行きませんでしたが...こちらも違った意味で話題の公演ですね。


もてなしドームには,金沢マラソンのタペストリ―も登場していました。

サイン会では,持参したCDにデュメイさんのサインをいただきました。