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オルガン・フェスティバルVol.1 J.S.バッハ&ウィドール
2016年10月13日(木) 19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

バッハ,J.S./トッカータとフーガ 二短調, BWV.565
バッハ,J.S./コラール前奏曲「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ」, BWV.645
バッハ,J.S./幻想曲とフーガ ト短調,BWV.542
バッハ,J.S./コラール「主よ人の望みの喜びよ」BWV.147
バッハ,J.S./パッサカリアとフーガ ハ短調, BWV.582
ウィドール/オルガン交響曲第6番ト短調
(アンコール)チャイコフスキー 悲しい歌op.40-2
(アンコール)ボエルマン ゴシック組曲 op.25〜第4曲トッカータ

●演奏
エドガー・クラップ(オルガン)



Review by 管理人hs  

「オルガン・フェスティバルVol.1 J.S.バッハ&ウィドール」として石川県立音楽堂で行われた,ドイツのオルガン奏者,エドガー・クラップさんのリサイタルを聴いてきました。音楽堂のパイプオルガンを使った演奏会を聴くのは,一年前の「パイプ・オルガンの日」以来,ほぼ1年ぶりのことでした。

今回の内容は,前半がバッハのオルガン名曲集,後半がヴィダールのオルガン交響曲第6番という構成で,石川県立音楽堂のパイプオルガンの素晴らしさを堪能できました。

前半のバッハのオルガン曲集は,名曲ばかりが集められていました。あと,小フーガ ト短調を加えれば「バッハ,オルガン・ベスト・アルバム」になりそうなプログラムでした。

トッカータとフーガ 二短調, BWV.565は,言うまでもない名曲中の名曲です。出だしから,太い幹の大木を仰ぎ見るような揺るぎのない安定感がありました。小細工なしの質実さのある音楽でした。エドガー・クラップさんは,オルガンの巨匠,ヘルムート・ヴァルヒャの後任でフランクフルト音楽大学の教授に抜擢された方だけあって,非常にオーソドックスな演奏を聞かせてくれました。

コラール前奏曲「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ」は,対照的に穏やかな気分のある曲で,その木管楽器を思わせる朴訥なムードと優しい音色が印象的でした。幻想曲とフーガ ト短調,BWV.542は,初めて聞く曲かな,と思ったのですが,プログラムの解説にあったとおり,プーランクのオルガン協奏曲の出だしの「元ネタ」ということで,聞き覚えがありました。後半はフーガになる,ということで,1曲目のトッカータとフーガと似た構造だと思いました。

コラール「主よ人の望みの喜びよ」は,オリジナルのカンタータも有名です。バッハの曲の中でもメロディの美しさで知られる曲です。ヴィブラートの掛かった,管楽器系の甘い音がここでも魅力的でした。今回演奏された2曲のコラールでは,重厚さのある「トッカータとフーガ」系の曲とは対照的にホッとさせてくれるような素朴な手触りを感じさせてくれました。

前半最後に演奏された,パッサカリアとフーガ ハ短調, BWV.582は,前半を締めるのにふさわしい,堂々たる歩みを持った曲であり演奏でした。低音ペダルで演奏された主題が何回も繰り返されるうちに,陶酔的な気分になり,気づくと別の次元の爽快な世界に入っているような演奏でした。

後半のヴィダールのオルガン交響曲第6番は,初めて聞く大曲でしたが(30分ぐらいあったと思います),大変分かりやすい曲で,しっかりとオルガン音楽の面白さを楽しませてくれました。前半のバッハのトラディショナルな気分と対照的に,明るく開放的な音楽をでした。全5楽章からなる曲で,古典的なバランスの良さのある楽章配置でした。1,3,5楽章がエネルギッシュな感じ,2,4楽章が甘く歌わせるような静かな楽章ということで,サン=サーンスの曲に通じるような分かりやすさがあると思いました。

第1楽章は鮮烈な音楽で始まり,力強さと同時に清潔感を感じました。第2楽章にはロマンティックで甘い気分があり,ワーグナーの楽劇「タンホイザー」に出てくるような,宇宙空間を思わせる癒しの気分を感じました。第3楽章は中央に配置された全曲の核になっているような楽章でした。

第4楽章は,木管楽器系の音で始まりました。静かでロマンティックな空気感を湛えた敬虔な音楽が大変魅力的でした。第5楽章はゴツゴツとしたパワーもった楽章で,喜ばしい気分で盛り上がって終わりました。

クラップさんは,前半同様,ストレートに曲の素晴らしさを感じさせてくれるような演奏を聞かせてくれました。重厚さもある作品でしたが,聞いていて爽やかさを感じました。ヴィドールはオルガン交響曲を10曲も書いているということなので,機会があれば,他のオルガン交響曲も聞いてみたいものです。

演奏後,クラップさんは,盛大な拍手を受け,アンコールを2曲演奏しました。チャイコフスキーの「悲しい歌」には,どこか古い民謡を思わせる温かみがありました。ボエルマンのゴシック組曲〜トッカータは,ちょっとエキゾティックな感じがあり(コガネムシ系の雰囲気)ましたが,次第に華やかに盛り上がって行き,格好良く締めてくれました。

カーテンコールの時,クラップさんはしきりとオルガンの方を示しながら,「音楽堂のオルガンが素晴らしいんですよ」ということをアピールしていました。

「オルガン・フェスティバル」というほど,お祭り気分のコンサートではありませんでしたが,本当にじっくりとオルガン音楽を楽しむことができました。せっかくある素晴らしいオルガンなので,年に数回は「オルガンの日」で,じっくりと楽しんでみたいものだと思いました。

(2016/10/19)




この日のポスター