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西本智実指揮エルサレム交響楽団
2016年11月27日 (日) 15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ドヴォルザーク/チェロ協奏曲ロ短調,op.104
2) (アンコール) サン=サーンス/白鳥
3) マーラー/交響曲第5番嬰ハ短調

●演奏
西本智実指揮エルサレム交響楽団*1,3
ドミトリ・ヤブロンスキー(チェロ*1-2)



Review by 管理人hs  

西本智実指揮エルサレム交響楽団による演奏会が,石川県立音楽堂コンサートホールで行われたので聞いてきました。西本さんの指揮については,数年前のラ・フォル・ジュルネ金沢で聞いて以来のことです。今回もマーラーの5番を中心に大曲をたっぷりと聞かせてくれました。

エルサルム交響楽団については,名前を聞くのも初めてでした。特に前半のドヴォルザークを聞いた印象では,超一流のヴィルトーゾ・オーケストラといった感じではなく,やや弦楽器の響きが薄く,管楽器などもどこか鄙びた感じもしましたが(今回,3階席で聞いたこともあるかもしれません),後半のマーラーの5番では,”肝”である,トランペットやホルンが好調で,最終楽章の最後の輝かしいフィナーレを中心に充実した音を聞かせてくれました。

前半では,ドヴォルザークのチェロ協奏曲が,ドミトリ・ヤブロンスキーさんとの共演で演奏されましたした。ヤブロンスキーさんは,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)が設立して間もないころに(調べてみると1990年11月30日の定期公演でした。丁度26年前ということになります)OEKと共演したことがある方です。その時の印象はすっかり残っていないのですが,今回の演奏については,全体的にテンションが低い印象で,やや物足りなさが残りました。表情の変化が少なく,音の鳴りも悪い気がしました。オーケストラの方も各楽器の音のバランスがやや悪い気がしました。

第2楽章はじっくりと演奏されましたが,その分,どこか停滞感を感じました。第3楽章には,ゴツゴツとした感じがあり,最初の方に出てくるトライアングルの音などに「やんちゃ」な感じがありましたが,チェロの音については,やはり物足りなさを感じました。その分,この楽章の見せ場である,コンサートマスターがバリバリ弾く部分が特に冴えて聞こえ,終結部の大きな盛り上がりが,爽快に響いていました。

演奏後,ヤブロンスキーさんが1回引っこんだ後,ハープ奏者がすっと席について,アンコールでサン=サーンスの白鳥が演奏されました。

前半のドヴォルザークについては,残念ながら後半のマーラーと組み合わせるには,やや長すぎるかなという印象のみが残りました。

後半のマーラーの交響曲第5番では,オーケストラの編成が増強されていました。ただし,コントラバスが6本でしたので,ものすごい大編成というわけではありませんでした。

第1楽章冒頭のトランペットは,しっかりとした音で堂々と聞かせてくれました。全曲を通じて,トランペットは安定感のある演奏を聞かせてくれました。テンポの方は,葬送行進曲らしく,大変ゆったりとしていました。前半に感じたのと同様,オーケストラ全体としては,それほど重厚な感じはせず,やや密度が薄いような印象を持ちました。

この楽章(というか全楽章を通じてですが)で面白かったのは,打楽器奏者の動きです。11月前半に聞いた石川フィルの演奏会の時には,確か5人ぐらいで演奏していたのですが,この日は3人で演奏しており,シンバルとドラと大太鼓を一人の奏者でほぼ同時に演奏しているようなシーンがあり,これは大変そうだ,と妙なところで感心してしまいました。

第2楽章も第1楽章の延長のような遅いテンポで演奏されました。ややもってまわった感じがありました。その分,楽章の終盤のクライマックスで突き抜けるようにして出てくるトランペットの響きが爽快でした。中盤に出てくるチェロの哀し気な歌も印象的でした。

第3楽章は,ウィンナ―ワルツへのオマージュを思わせるような軽快なテンポで演奏されました。この楽章ではホルンの活躍も聞きどころです。前半のドヴォルザークの時は,やや不安定な気がしたのですが,それに比べると精彩があり,バランスの良い響きを聞かせてくれました。中盤のレントラー風の部分では,テンポを落として,じっくりと味のある歌を聞かせてくれました。

第4楽章アダージェットは,全曲の中でも特に印象的でした。優しい表情をたたえた陶酔的な世界に浸らせてくれました。前半はためらいがちだったのが,終盤に行くにつれ,どこか華麗な雰囲気が出てくるのも西本さんらしいと思いました。

第5楽章では一転して,晴朗な世界に切り替わりました。弦楽器が対位法的に絡み合って進んでいく部分など,古典派の交響曲を聞くような清澄さを感じました。クライマックスの部分は,いつも爽快感に浸ることができます。トランペットの晴れやかで開放感に満ちた音が効果的で,最後の部分では,ストレートに盛り上がり,気持ちよくフィニッシュを決めてくれました。

終演後は,盛大な拍手が続き,前列のお客さんなどはスタンディング・オベーションをしていました。改めて,西本智実さんには,熱烈なファンが多いんだなぁということを実感しました。

マーラーの5番については,11月前半に石川フィルの演奏でも聞いたばかりでした。一ケ月の間にこの曲を2回実演で聞いたのは初めてのことでしたが,それぞれに面白い演奏だったと思います。何よりも,実演で聞くと本当に楽しめる作品だと改めて思いました。

(2016/12/2)

















公演の案内




無料のプログラムはなく,大きな掲示が出ていました。有料のプログラムは購入しませんでした。

終演後,オーケストラの皆さんはバスですぐ移動されたようす。