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金沢大学フィルハーモニー管弦楽団第77回定期演奏会
2016年12月27日 (日) 18:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール

ワーグナー/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲
スメタナ/連作交響詩「わが祖国」〜「モルダウ」
チャイコフスキー/交響曲第6番ロ短調「悲愴」

●演奏
大山平一郎指揮金沢大学フィルハーモニー管弦楽団


Review by 管理人hs  

2016年も沢山の演奏会に出かけてきましたが,その最後に金沢大学フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会を聞いてきました。指揮はベテラン指揮者の大山平一郎さんでした。プログラムは,ワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲,スメタナの交響詩「モルダウ」,チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」という,ロマン派のオーケストラの名曲3曲でした。

例年,この定期演奏会は,年が明けたセンター試験の頃に行うのが恒例でしたが,今年は年末に行われました。平日の18:30開演ということで,ちょっと慌ただしくなりましたが,2016年の「締め」のオーケストラ公演を楽しんできました。

大山さんの指揮ぶりには,弛緩したところがなく,たっぷりとしたボリューム感よりは,ちょっと辛口の引き締まった演奏を聞かせてくれました。

最初のワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲は,過去,金大フィルの定期演奏会で何回か聞いた記憶がありますが,冒頭から鋭く切り込み,指揮者がグイっと引っ張っているような印象のある演奏でした。管楽器などは,やや「ムタムタ(金沢弁)」な感じもしましたが,最後は明快に締めてくれました。

スメタナの「モルダウ」の方も,スケールの大きなロマンティックな演奏というよりは,引き締まったテンポで積極的に攻めてくるような雰囲気がありました。特に途中,ポルカ風の舞曲になる部分の軽快さが印象的でした。その後に続く,月の光に照らされる静かな部分は,ちょっと粗が目立つ感じはしましたが,幻想的な気分がしっかり出ていました。

後半に演奏された「悲愴」も,過度に甘くなったり,思い入れたっぷりになったりすることなく,悲しさに挑む強さのようなものを感じました。

第1楽章冒頭,コントラバスの持続音の上でファゴットが主題を演奏する部分は,最初の聞きどころであると同時に,大変緊張する部分だと思います。この日のファゴットは,とても堂々とした演奏を聞かせてくれたと思います。続いて出てくる弦楽器の透明感のある響きも印象的でした。第2主題は反対に大変じっくりと演奏されました。この辺りで出てくるフルートの動きが好きなのですが,安定感のある素晴らしい演奏だったと思います。

呈示部の最後で,クラリネットが段々弱くなっていく部分(最後,バスクラリネットが引き継いでいたようでした)は,ピリピリするような弱音で演奏されることがありますが,今回の演奏では,それほど弱くしておらず,展開部に一気に流れ込んでいくような勢いの良さを感じました。この辺は,無理して強弱のダイナミクスを付けるよりは,音楽の流れの自然さを重視していたのかもしれません。

展開部については,「ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルの録音だと,ここは鋭く金管が咆哮するのに...」といった物足りなさを少々感じてしまう部分があったのですが(無茶な比較ですみません),キビキビとした音の動きは大変若々しいと思いました。その後,楽章の最後は淡々とした気分で終わりました(最後,一瞬,何かの楽器の音が残ってしまったのがちょっと残念でした)。

第2楽章も停滞しないテンポで,ぐいぐいと攻めてくるような雰囲気がありました。特に弦楽器はよく鍛えているなぁと思いました。反対に第3楽章は,やや遅めのテンポで,非常に冷静でくっきりとした演奏を聞かせてくれました。単純なお祭り騒ぎとは一線を画していました。

ただし...よくあるケースではあるのですが,かなり盛大に拍手(ブラボー入り?)が入ってしまいましたねぇ。これは残念でしたが,第3楽章の立派な演奏への素直な拍手ともいえるのではないでしょうか。

第4楽章は,また速目のテンポになり,運命に立ち向かっていくような強さを感じさせてくれました。冒頭部分のヴァイオリンの演奏を始めとして,十分な情感を持った演奏でしたが,センチメンタルな感じはしませんでした。この楽章の後半では,銅鑼が静かに鳴った後,弔いのムードになるところに注目しているのですが,この日の演奏は,結構あっさりと演奏していました。

最後の部分も神経質な弱音にはならず,パタっと時が止まるような感じで終わっていました。「悲愴」と言えば,悲しさとロマンティシズムに溢れた,たっぷりとした大曲という印象を持っていたのですが,それを裏切るような挑戦的な演奏だったと思います。

金大フィルの演奏では,全曲を通じて透明感を感じさせてくれた弦楽器の演奏が特に印象的でした。管楽器の方は,やや粗が目立つところはありましたが,冒頭のファゴットであるとか,要所で活躍するフルートなどが特に立派な演奏を聞かせてくれたと思いました。第3楽章でのティンパニ,大太鼓,シンバルの演奏も安定感があり,楽章全体を大変聞きごたえのある,冴えたものにしていました。

今回の指揮の大山平一郎さんは,一見地味な雰囲気の方ですが,どの曲についても,とても若々しい音楽を金大フィルから引き出していたと思います。大山さんのエネルギーが金大フィルの演奏にしっかりと反映した,学生オーケストラらしい,演奏会だったと思いました。

(2017/01/04)










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