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ラ・フォル・ジュルネ金沢2016 ナチュール:自然と音楽
2016年4月29日〜5月5日 石川県立音楽堂,金沢市アートホール,JR金沢駅周辺,金沢市内各地

Review by 管理人hs  

2016年5月4日(水) 本公演2日目

ラ・フォル・ジュルネ金沢2016 本公演2日目は,天気予報が外れる形で快晴となりました。一方,公演の方は,思わぬ「花の章」事件があるなど,変化に富んだ1日となりましたが,次の写真のとおり大賑わいでした。


まずは,朝一で交流ホールで行っていた,金大吹奏楽団のファミリーコンサートへ。

■【ファミリーコンサート】10:00〜 石川県立音楽堂交流ホール

1) メンケン(星出尚志編曲)/リトル・マーメイド・メドレー(未聴)
2) 荒井由実/ひこうき雲
3) 菅野よう子
4) 童謡メドレー(木管五重奏)
5) ミッキーマウス・マーチ(フルート四重奏)
6) 真島俊夫編曲/カーペンターズ・フォーエバー
7)(アンコール)

●演奏
長田明指揮金沢大学吹奏楽団,近藤洋平(テノール*2-3,司会)
京都大学交響楽団

テノールの近藤洋平さんの歌を交えて,親しみやすい曲を色々と演奏していました。最後に演奏された「カーペンターズメドレー」は,最近亡くなられた真島俊夫編曲版ですが,このアレンジ自体も既に定番ですね。聞いていて懐かしくなりました。

今回気づいたのですが,交流ホールの八角形ステージの高さが昨年までよりも少し低くなったように感じました。音の通りがよくなった上,ステージがさらに間近になった気がします。サイド前方で聞いていたのですが,金大吹奏楽団と客席の一体感を感じました。

続いて,井上道義指揮京都大学交響楽団へ。


■【K211】11:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) シュトラウス,J.II/ワルツ「ウィーンの森の物語」op.325(抜粋)
2) ドヴォルザーク/交響曲第8番ト長調,op.88
●演奏
井上道義指揮京都大学交響楽団,OEKメンバー*1

まず,京都大学交響楽団の演奏のその水準の高さに感嘆しました。特にドヴォルザークの交響曲第8番の第4楽章の最初のトランペット。鋭く切り込むような音がピシッと揃っており,鳥肌が立ちました。第4楽章では,ホルンの強奏も良かったし,フルートのソロ(立ち上がて演奏していましたね)も鮮やかでした。第2楽章のコンサート・マスターのソロもしっかり聞かせてくれました。どのパートにも粗がないのが素晴らしいと思いました。演奏後,井上さんも「どうだ!」という表情を見せていました。

今回はとても良い場所(2階前方のバルコニー席)で聞いたこともあり,団員と一緒になって井上さんの指揮に反応するような感じで楽しんでしまいました。改めて,井上さんの指揮の素晴らしさを実感すると同時に,その手足,それどころか,その血や肉になったような集中力の高い演奏を聞かせてくれました。



この公演では,最初に「ウィーンの森の物語」も演奏されました。ツィター無しだったこともあり,最初の序奏的な部分をバサっとカットして,いきなりフルートの独奏(ここでも立って演奏)が出て来たのにも驚いたのですが,最後,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の弦楽メンバーがオルガンステージに登場し,照明が緑に変わり,通常ツィターが演奏する部分を室内楽風に演奏しました。これも面白い演出だと思いました。

OEKメンバーの服装がリアルなふだん着だったので,ウィーン観光中のアーティストが思わず飛び入りで参加...という「物語」を勝手に作って聞いてしまいました。音楽堂オリジナル版としてまた聞いてみたいものです。

その後,昼食。本日は能登牛のカレー。においが一番のPR手段ですね。


その後はエリアイベントをいくつか眺めてきました。


JR金沢駅コンコースの方も賑わっていました。


こちらは邦楽ホール前のやすらぎ広場。


こちらは交流ホールで行っていた石川県ジュニアオーケストラの演奏。


そして音楽堂前での栗コーダーカルテットの演奏。


(以上の時間帯は順不同です)

午後からは,アレッサンドロ・クルデーレさん指揮OEK祝祭管弦楽団による「白鳥の湖」「火の鳥」の”紅白鳥尽くし”を聞きました。

■【K212】13:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール

チャイコフスキー/バレエ音楽「白鳥の湖」op.20〜情景,ワルツ,小さな白鳥たちの踊り,マズルカ,ハンガリーの踊り
ストラヴィンスキー/バレエ組曲「火の鳥」
●演奏
アレッサンドロ・クルデーレ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢祝祭管弦楽団(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)

京大交響楽団も素晴らしい演奏でしたが,やっぱりOEKの演奏には一層の鮮やかさがあると思いました(曲想によると思います)。クルデーレさんはまだ若い方で,率直な音楽作りをされていました。その分,音楽の作りが単純な気もしましたが,メンバーに暖かく見守られながら(?),とても気持ちの良い音楽を聞かせてくれました。

「火の鳥」では,「子守歌」の最後の部分で,音がどんどん弱くなり,とても静かなムードになる部分が素晴らしいと思いました。その中からホルンの音が湧きあがってくる辺りも見事でした。

邦楽ホールに移動し,ルイス・フェルナンド・ペレスさんの公演へ。

■【K223】14:45〜 石川県立音楽堂邦楽ホール

ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調, op.27-2「月光」
リスト/巡礼の年第1年 スイス〜オーベルマンの谷
ドビュッシー/前奏曲集第1巻〜雪の上の足跡
ドビュッシー/ベルガマスク組曲〜月の光
ドビュッシー/喜びの島
(アンコール)ショパン/ノクターン嬰ハ短調,op.27
(アンコール)ファリャ/「恋は魔術師」〜「真夜中」「火祭りの踊り」

●演奏
ルイス・フェルナンド・ペレス(ピアノ)

ペレスさんは,ラ・フォル・ジュルネの常連ピアニストということで,この公演も,今回のテーマにぴったりのしっかりとしたコンセプトのプログラムでした。ピアノによる絵画集という感じでした。

ペレスさんのピアノは,最初の「月光」から,吟味され尽くした素晴らしいタッチが印象的で,大変ニュアンスが豊かでした。リストのピアノ曲は,生で聞くと本当に聞き映えがします。詩情豊かな歌の後に大きく盛り上がり,最後に救いがあるような「オーバーマンの谷」は大変聞きごたえがありました。

その他の「雪」「月」にちなんだ曲も詩的で豊かな気分に溢れていました。最後は,文字通り喜びに溢れたような鮮やかさのあった「喜びの島」で締めてくれました。

真のアーティストという感じの集中力と同時に,演奏後はとても人懐っこい笑顔を見せてくれます。本当に素晴らしいピアニストだと思いました。超満員のお客さんも大喜びで,アンコールが2曲も演奏され,ペレスさんも絶好調でした。

アンコール1曲目のショパンのノクターンは,調性が嬰ハ短調,しかも作品番号が27ということで,最初に演奏された「月光」とぴたり一致します。さりげないけれども,これはすごくセンスの良いアンコールだと思いました。そして,最後にスペイン出身のペレスさんの「お国もの」のファリャ。水を得た魚...というよりは火を得た踊りという感じの勢いのある素晴らしい演奏でした。

お客さんも大満足でしたが...この影響で,その後の公演が5分ずつ後ろに伸びてしまいました,

続いて,コンサートホールへ。

■【K213】16:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

マーラー/交響曲第1番ニ長調「巨人」

●演奏
ヨンミン・パク指揮プチョン・フィルハーモニック管弦楽団

上述のとおり,この公演では,予定されていた「花の章」が何の予告もなく演奏されなかったというトラブルがありました。単純な曲目変更ならば,よくあることですが,「花の章付き」というのが,この公演のチケットを売る際の決め台詞でしたので,反響は大きく,結局,「払戻可能」ということになりました。

私自身,演奏の途中から(第1楽章が終わったぐらいから),「どこで演奏する?なぜ演奏しない?」といったことが気になり,演奏後は釈然としないものが残り,拍手できませんでした(初めてのことです)。直前のペレスさんの公演がかなり伸びたので,その影響でカットしたのかな?などと勝手に憶測していました。それに加え...実は演奏自体にも満足できませんでした。

譜面どおり,ホルンをベルアップしたり,第4楽章の最後では,「全員起立」したりしていましたが,どうも音が鳴っているだけで味が薄いように感じてしまいました。個人的には,マーラーの演奏については,山あり谷あり,波乱万丈といった雰囲気を求めてしまうのですが,この公演については,あまりにも爽やかという印象を持ちました。

いずれにしても,こういう「落ち着かない気分」で聞かざるを得なかったことが残念でした。演奏を全部聞いてしまった後だったので,後ろめたさはありましたが,正直なところ「金返せ」的な気分だったことも事実なので,けじめとして払戻をしてきました。

通常の演奏会の場合,演奏者目当てのことが多いのですが,ラ・フォル・ジュルネの場合,曲目で選ぶ人も多いので,この辺は特に慎重さが必要なのだと思います。それにしても...演奏後に払戻,というのは大変珍しいケースかもしれません。その対応の速さには感心しました。

さて,続いては「金沢オリジナル公演」の目玉,「能とクラシック音楽の共演」のステージでした。

■【K224】17:30〜 石川県立音楽堂邦楽ホール


1) 能舞「雪の舞」


2) マルティーニ/愛の喜び
3) カッチーニ/アマリッリ
4) シューベルト/野ばら, D.257
5) トスティ/四月
6) ラヴェル/組曲「鏡」〜悲しき鳥たち


7) シェーンベルク「月に衝かれたピエロ」第2幕による夢幻能

●演奏
渡邊荀子之助(能舞)*1,7,中嶋彰子(ソプラノ)*2-5,7,渡邊茂人,高橋憲正(地謡)*1,江野泉(笛)*1,7,望月太喜之丞(鼓)*1,7,エリック・マカニック(ピアノ)*2-7


金沢名物の能とのコラボ。今年は中嶋彰子さんとの共演による,月に憑かれたピエロを中心とした内容でした。まず最初に,「雪」のステージということで,本物(?)の能舞が単独で演じられました。西洋のクラシック音楽とは,時間の進み方が全く違う公演,ということで...「花の章」事件の気分を振り切る,「雪の章」という感じでした。

ただし...能を単独で観た場合,あまりにも動作が少ないので,「どこを見れば良いのだろう。うーむ」という感じになってしまうのも事実です。

その後は,「花」のステージということで,今回のテーマに沿ったような歌曲が4曲歌われました。中嶋さんの声には,可憐さと深さが同居したような魅力がありました。金沢で何回も聞いていることもありますが,私にとって今いちばん波長の合うソプラノ歌手が中嶋さんといえそうです。「愛の喜び」には,酸いも甘いも噛み分けたような,シャンソンを聞くような味わい深さがありました。反対に「アマリッリ」には,何とも言えない可憐さがありました。「野ばら」は,短い歌曲なのですが,その中から大変大きなドラマが伝わってきました。「四月」は,オープニング・コンサートではオーケストラ伴奏で歌われましたが,瑞々しさと熱い思いが伝わる歌で,ここでも見事な歌を聞かせてくれました。

ピアノのエリック・マカニックさんによる「悲しき鳥たち」では,そのクリスタルような音が見事でした。ガラスで出来たような繊細さが大変印象的でした。

その後,舞台転換があり,後半は「月に憑かれたピエロ」(第2幕)になりました。中嶋さんの歌による「月に憑かれたピエロ」は,数年前,金沢で映像付き公演を見たことがありますが,今回はその時の映像を転用していました。それに渡邊荀之助さんの般若が加わり,ピエロを殺害といった...非常にチャレンジングな公演になっていました。

今回は,能舞だけではなく,笛と鼓の演奏が加わっていたのも独特で,映像と声とが一体となって,不思議な切迫感を感じさせてくれました。中嶋さんはピエロの衣装を着ていたのですが,このピエロと般若が共演するというのは,予想を超えたような組み合わせで,無邪気さと同時に邪悪さを感じさせるような,何とも言えない不思議なムードを作っていました。

ただし...相変わらず能自体については,どう楽しむのかよく分かりません。今回,演奏前に池辺晋一郎さんによる「月に憑かれたピエロ」についてのトークが入ったのですが,伝統芸能としての能をPRするためにも,「能のしきたり」についてのプレトークも必要かな,と感じました。

続いては,本日の最終公演。今度は通常のOEKの編成による公演です。

■【K214】18:45〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) グリーグ/劇付随音楽「ペール・ギュント」op.23〜「朝」「アニトラの踊り」「ソルヴェーグの歌」
2) グリーグ/ピアノ協奏曲イ短調, op.16

●演奏
アレッサンドロ・クルデーレ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)


おなじみ菊池洋子さんのピアノとクルデーロさん指揮OEKによるグリーグのピアノ協奏曲とペールギュントの中から3曲が演奏されました。

菊池さんのピアノには,結構粗い部分もあったのですが,冒頭の堂々としたタッチを聞くだけで「スケールが大きいなぁ」と感じました。それと,菅原さんのティンパニは,相変わらず迫力があります。この曲はティンパニで始まり,ティンパニで締めるようなところがありますが,菊地さんのピアノと相俟って,壮大なムードを感じさせてくれました。

OEKの演奏では,しっかりと歌う弦楽器の歌が北欧のロマンを感じさせてくれました。一日の最後(結構疲れていました)ということもあり,特に緩徐楽章は大変心地よく感じました。

ペール・ギュントの方では,「朝」での岡本さんのフルート,「ソルヴェイグの歌」での平尾祐紀子さんのハープなど,各楽器のソリスティックな美しさを楽しむことができました。クルデーロさんの作る音楽も大変誠実で,たっぷりとした歌を堪能させてくれました。

というようなわけで,あれこれあった一日ではありましたが,色々な編成の音楽(特に複数のオーケストラ)を聴き比べられるというのは,何といってもラ・フォル・ジュルネの魅力だと思いました。文字通り,狂ったように多様な音楽に浸ることのできた一日でした。

↓ホテル日航金沢内の生け花も,心なしかナチュール風でした。

(2016/05/15)