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オーケストラ・アンサンブル金沢第385回定期公演フィルハーモニーシリーズ
1月8日(日) 14:00〜  石川県立音楽堂コンサートホール

1) ヴィヴァルディ/セレナータ「祝されたセーナ」RV693〜シンフォニア
2) ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲 ト長調 op.3-3,RV310
3) ヘンデル/歌劇「時そして覚醒の勝利」HWV46a 〜神によりて選ばれし天の使者よ
4) ヘンデル/王宮の花火の音楽 HWV351
5) モーツァルト/モテット「踊れ、喜べ、幸いなる魂よ」K.165(158a)
6) (アンコール)ヘンデル/歌劇「リナルド」〜私を泣かせてください
7) モーツァルト/交響曲第35番 ニ長調 K.385「ハフナー」

●演奏
エンリコ・オノフリ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング),森麻季(ソプラノ*3,5,6)
エンリコ・オノフリ(バロック・ヴァイオリン*1-3)



Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の2017年の定期公演は,エンリコ・オノフリ指揮による,ヴィヴァルディ,ヘンデル,モーツァルトの作品によるニューイヤー・コンサートで始まりました。オノフリさんの選曲は,「祝祭」を意識したもので,どの曲にも健康的な華やかさがありました。この清新さは,新春の気分に相応しいものでした。配布されたプログラムには,オノフリさんからのメッセージが書かれていましたが,この演奏会のことを「祝祭の宇宙」と書いていました。なるほどその通りと感じました。

この日のOEKの演奏は,古楽奏法を意識したもので,弦楽器の音色を中心に透明感と軽やかさがありました。オノフリさんの解釈はイマジネーションに溢れ,どの曲についてもニュアンスの豊かさを感じました。

前半の最初の3曲は,オノフリさんの弾き振りによる演奏でした。演奏前にマフラーでバロック・ヴァイオリンを固定する動作は,OEKに登場するのが今回で3回目となるオノフリさんならではのお馴染みの「ルーティン」です。

ヴィヴァルディのセレナータ「祝されたセーナ」の中のシンフォニアは,弦楽器の編成を少な目にしていたこともあり,緻密で精妙な室内楽的な透明感がありました。この曲は,フランス王ルイ15世の息子の誕生を祝うための曲で,ヴィヴァルディからルイ王に捧げられたものです。

全体は緩やかな部分と急速な部分からなっていました。プログラムに書かれていたオノフリさんのメッセージによると「フランス風」とのことです。全曲を通じて,いかにも地中海的なカラッと感触と軽やかさがありました。途中,少し湿気が加わった感じになりチェンバロの音がしっかり聞こえてくるなど,落ち着きのある中に湧き上がってくるような生命力があるのが素晴らしいと思いました。

続いて演奏された,ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲 ト長調 op.3-3,RV310は,「調和の霊感」として知られる協奏曲シリーズの中の1曲です。「似たような曲が多い」というのがヴィヴァルディの特徴(?)ですが,オノフリさんの完成度の高い演奏を聞いていると,同じ様式で作られた工芸の名品を,1点ずつじっくり鑑賞しているような気分になります。

この曲でも1曲目のシンフォニア同様,OEKの音には軽い浮遊感がありました。特に第1楽章の冒頭部はとても鮮やかでした。その上にオノフリさんのソロが,さりげないけれども鮮やかに浮かびあがっていました。楽章の最後,スーッと会場の空気に静かに溶け込む自然さは,オノフリさんのヴィヴァルディの魅力だと思います。

第2楽章は室内楽的な気分になり,オノフリさんのヴァイオリンと通奏低音による親密な語らいになります。この日のチェンバロは繻`亜樹子さんが担当されていましたが,その自在な演奏がオノフリさんの演奏にぴったりでした。第3楽章は急速な楽章に戻ります。オーケストラのザワザワとした感じと緻密さのある独奏ヴァイオリンとの絡みが魅力的でした。

続いて,ソプラノの森麻季さんが加わり,ヘンデルの歌劇「時そして覚醒の勝利」の中から「神によりて選ばれし天の使者よ」が演奏されました。この曲については,オノフリさんのメッセージでは「寓意による祝典曲」と書かれていました。それほど華やかな感じの曲ではなく,森さんとオノフリさんの独奏を中心に,じっくりと喜びをかみしめながら,至福の時間が流れていくような音楽になっていました。

森さんの透明感のある声にオノフリさんのヴァイオリンがしっかりと寄り添っていました。森さんの声は,声量で圧倒するようか感じではなく,オノフリさんのバロック・ヴァイオリンも音量的には大きいわけではないので,そのバランスがとても良いとと思いました。

森さんは鮮やかな青(緑も混ざっていたので,宝飾品ブランドのティファニーのイメージカラーの色に近いと色)のドレスで登場し,新春の気分を盛り上げてくれました。いつもどおりのぞくぞくさせてくれるような,ちょっとミュートするような感じのハイトーンと情感が内側から盛り上がってくるような歌が素晴らしいと感じました。

前半最後に演奏された,ヘンデルの「王宮の花火の音楽」は,英国王ジョージ2世からオーストリア継承戦争終結祝いの音楽として依頼された音楽です。とても有名な曲ですが,OEKの演奏会で全曲が演奏されるのは今回が初めてのような気がします。見事なまでに祝祭的な気分に溢れた演奏で,「さすがオノフリさん。世は満足じゃ」と英国王になったような気分で楽しむことができました。

いくつかCDを聞いていると,序曲の最初の部分で,打楽器のロールが入る時と入らない時があるのですが,この日の演奏は,バロック・ティンパニによる,ほとんどカデンツァのような感じの華やかなロールが入っており,一気に気分が盛り上がりました。カラッと晴れやかな立ち上がりでした。このロールですが,入るならば小太鼓のロールだと思っていたので,この野趣溢れる演奏にはしびれました。

その後,トランペットが大活躍します。この日は,エキストラに元NHK交響楽団の関山さんが加わっており,これまたキラキラとした祝祭的な音を楽しませてくれました。このトランペットもかなりソリスティックで,序奏部の最後の方では,装飾的なフレーズを演奏しており,強い印象を残してくれました。

ちなみにこの曲の編成ですが,管楽器は「3管編成」になっていました。ホルン,トランペット,オーボエ,ファゴットがそれぞれ3本ずつでした。弦楽器の編成はそれほど大きくなく,しかもヴァイオリンが対向配置になっていなかったのが意外でした。何事につけ,意表を突いたアイデアを持っているのがオノフリさんらしいところかもしれませんね。

序曲の後半の主部はスピード感たっぷりの音楽となり,軽やかに音楽が走り回ります。OEKの公式ツイッターにリハーサル時の写真が公開されていましたが,オノフリさんは腕まくりをして指揮をされていました。そのとおりのエネルギーや熱さを持った演奏でした。オノフリさんの作る音楽にも高貴な気分はあるのですが,英国風の気取った感じ(先入観ですみません)とは一味違った,ラテン気質の感じられるヘンデルだったと思います。

その後は色々な舞曲が続きます。ここでもトランペットはティンパニを中心とした華やかさが印象的で,生き生きとした音楽が続きました。特に「ラ・レジュイサンス(歓喜)」が華やかで,思わず拍手が入りかけていました。曲が進むにつれて気分が盛り上がるグルーブ感の感じられる演奏でした。

その後,メヌエットが2つ続いて締められます。メヌエット1の方は穏やかで可愛らしい感じで,アビゲイル・ヤングさんを中心とした弦楽パートの聞かせどころになっていました。メヌエット2の方は,終曲に相応しいどっしりとした安定感があります。まず,トランペットがメヌエットのメロディを演奏し,続いてホルンが演奏し,最後は全員で演奏するという流れは,他の曲でも同様だったのですが,見事な終結感がありました。この「立派なメヌエットで終わる」というのは,品格も感じられて,いいなぁと思いました。

私自身,この曲の全曲を実演で聞くのは,今回が初めてだったのですが,どの部分にも,喜びに満ちた音楽を楽しませようというエネルギーが感じられ,大満足の演奏でした。

後半は,再度,森麻季さんがソリストとして登場し,モーツァルトのモテット「踊れ、喜べ、幸いなる魂よ」が演奏されました。1月1日は聖母マリアの祝日ということで,森さんは,その曲の純真で高貴なイメージに合わせて白い高級感のある衣装に着替えて登場しました。

この曲は協奏曲のように3つの楽章から成っています。全曲を通じて,ゆっくり目のテンポできめ細かく丁寧な歌をじっくりと聞かせてくれました。低音部はちょっと聞きにくいところはありましたが,緩徐楽章では,母の深い愛情を感じさせてくれるような,暖かみのある歌を聞かせてくれました。最終楽章の「アレルヤ」は,コロラトゥーラの技巧も楽しみな部分ですが,とてもじっくりと歌っていたせいか,技巧を技巧と感じさせないような説得力や品格の高さがありました。全曲を通じて,愛情と幸福感に溢れた音楽を楽しむことができました。

盛大な拍手に応え,アンコールとして,ヘンデルの歌劇「リナルド」の中の「私を泣かせてください」が歌われました。この曲は,森さんの十八番と言って良いレパートリーということで,滑らかで傷のない,見事な歌を聞かせてくれました。

演奏会の最後は,OEKの十八番であるモーツァルトの交響曲第35番「ハフナー」でした。この曲は,岩城宏之さん,井上道義さんと,歴代音楽監督が繰り返し演奏してきた作品です。古楽奏法による演奏を実演で聞くのは...多分初めてだと思います。この曲でもまた,オノフリさんのイマジネーションの豊かさとそれにぴったりと反応したOEKの素晴らしさを感じることができました。

第1楽章の冒頭からやや遅めのテンポで,オノフリさんならではの,フレーズの歌わせ方,強弱の付け方,間の取り方が随所に出てきました。それらがすべて,何かを語りかけ,音楽の生命力を高めているようで,聞いていて充実感を感じました。

この曲では楽器の配置も独特でした。まず,チェンバロが入っている「ハフナー」を聞くのは初めてでした。木管楽器の配置も独特で,弦楽器の背後に下手側から,フルート2,オーボエ2,クラリネット2,ファゴット2の順に一列に並んでいました。その効果もあるのか,木管楽器の音がくっきりと聞こえてきました。呈示部の最後の方で,木管楽器が一斉に音階を掛け登るような部分があり,個人的にとても好きな箇所なのですが,その部分などとても鮮やかに聞こえてきました。

展開部も,サラサラと流れていくのではなく,どこか意味深の濃さを感じさせてくれました。非常に聞きごたえのある,個性的な第1楽章でした。

第2楽章もやや遅めのテンポで,じっくりと聞かせてくれました。清潔でクリアーな弦楽器の音の中から神秘的な雰囲気が漂ってくるようでした。弦楽器によるちょっとした伴奏音型の刻みの中にも意味を感じさせるような深い音楽でした。

第3楽章のメヌエットは,かなりテンポを揺らしていました。いちいち強く念を押すようにメロディを歌わせていたのが独特でした。所々,チェンバロの音が聞こえてきたリ,トリオの部分では,軽やかに音が流れたり,非常に起伏に富んだ,自在な演奏になっていました。

第4楽章は,ティンパニの強打を随所で生かした,スピード感のある演奏でした。音量的なコントラストが面白く,オノフリさんのイマジネーションがしっかりと音になっているようでした。最後は,明るくはじけるように終わりました。

私としては,井上道義さん指揮による,音楽が流麗に流れるような演奏も大好きなのですが,同じオーケストラから全く別の表現を聞かせてくれたのが,とても面白いと思いました。お馴染みの曲について,いろいろな表現を楽しむことができるのが,クラシック音楽の楽しみですね,

最後,アンコールの代わりに,オノフリさんから「OEKどら焼き」のプレゼントがあります,というアナウンスがあり,演奏会はお開きとなりました。実演ならではの,熱さも加わり,オノフリ+OEKの相性の良さをしっかり印象付けてくれたニューイヤー・コンサートだったと思います。

PS. この日のプレコンサートは,ファゴット3重奏でした。木管3重奏というのは時々聞きますが,ファゴットだけというのは珍しいと思います。文字通り「ほっこり」という音が聞こえてくるような演奏でした。これも「王宮の花火の音楽」の恩恵ですね(右の写真がプレコンサートの様子)。

PS2 この日は,JR金沢駅周辺のホテルは,成人式の式典や懇親会が集中していました。

まず,金沢都ホテルです。「校下」というのは,石川県の方言のようですね。小学校の通学区域とほぼ一致しています。鼓門下には,晴れ着を着た新成人が沢山集まっていました。絶好の撮影ポイントですね。


こちらはホテル日航金沢です。右側の写真は前田利家の鎧兜のデザインだったようです。


(2017/01/14)



公演の立看板


音楽堂の玄関には,門松も出ていました。



ニューイヤー・コンサート恒例の謹賀新年の看板


OEKメンバーや関係者のサイン入りです,


終演後のサイン会では,オノフリさんからサインをいただきました。どこに書かれているか大変分かりにくいのですが,イル・ジャルディーノ・アルモニコ時代のCDに頂きました。クリスマス協奏曲集のCDです。


森さんのサイン会はなかったのですが...サイン会の後,音楽堂の横に出てみると,本当に偶然に森さんと遭遇。持参したCDがあったので,サインをいただくことができました。今年は良いことがありそうです。


終演後,恒例のOEKどら焼きも配布。OEKメンバーがいたるところで配っていました。私はアビゲイル・ヤングさんからいただきました。


邦楽ホールでは,同時間帯に桂文珍さんの独演会もやっていたようですね。


この公演は,北陸朝日放送で放送されるとのことです。