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平野加奈サロンコンサート:ドイツからの贈り物:ヴァイオリンと共に
2017年1月15日 (日) 14:00 ヤギヤ |
1) シューマン/3つのロマンス, op.94
2) ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ第2番イ長調, op.100
3) ブラームス/ピアノ・ソナタ第3番ヘ短調,op.5
4) (アンコール)宮城道雄(編曲者不明)/春の海
●演奏
平野加奈(ピアノ),根来かなう(ヴァイオリン*1-2,4),望月太満衛(小鼓*4)
この日は全国的に大変寒い1日で,金沢でも雪が降ったり止んだりという天候でした。そんな中,金沢市郊外にあるクラシックカフェ「ヤギヤ」で,「平野加奈サロンコンサート」が行われたので聞きに行ってきました。
ヤギヤさんについては,石川県立音楽堂に置いてあるチラシ等で存在だけは知っており,一度,行ってみたかった場所でした。これまでも金沢蓄音器館などで,奏者のすぐ間近のアットホームな雰囲気の中でクラシックの生演奏を楽しむことの素晴らしさは知っていましたが,ヤギヤさんの場合,天井が高く開放感があり,しかもドリンク付きということで,室内楽を聞くには,理想的な場所でした。

2階席から1階を見下ろしたところ。右の写真は天井です。
今回は,2002年の北陸新人登竜門コンサートに出演し,昨年秋にドイツ留学から帰国したばかりのピアニスト,平野加奈さんを中心としたブラームスとシューマンの曲によるプログラムでした。ゲストに,同じく北陸新人登竜門コンサートに出演したことのある,ヴァイオリニストの根来かなうさんを迎え,大変聞きごたえのある演奏を楽しむことできました。曲間のトークによると,お2人は「ご近所さん」で,旧知の間柄だそうです。
サロンコンサートという名前とは違い,今回演奏された曲は,ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第2番とピアノ・ソナタ第3番ということで,大変本格的なプログラムになっていました。また,間近で聞くお2人の演奏が素晴らしく,集中力と迫力満点のすごい演奏を堪能しました。
前半は,根来さんのヴァイオリンを交えて,シューマンの3つのロマンスとブラームスのヴァイオリン・ソナタ第2番が演奏されました。
シューマンの方は,もともとはオーボエとピアノのための作品ですが,ヴァイオリン版でも,たっぷりとしたロマンを楽しむことができました。1曲目と3曲目は短調の作品でほの暗い気分,2曲目は,歌曲集「詩人の恋」あたりに出てきそうな,素朴な雰囲気がありました。根来さんのヴァイオリンの伸び伸びとした歌が,親しみやすさを引き立てていました。
ブラームスのヴァイオリン・ソナタは,個人的には,とても好きな音楽なのです。金沢で実演で演奏される機会がとても少ないので,この曲を聞くのも今回のお目当ての一つでした。スイスのトゥーン湖畔というリゾート地で作曲されただけあって,明るくと伸び伸びとした情緒が大きく広がっていくような作品です。根来さんのヴァイオリンは,シューマンの時以上に,力感がありました。歌うところは大きく歌い上げ,引き締める部分はビシッと締まっていました。
第2楽章はのどかな気分とスケルツォが混ざったような楽章です。柔らかな気分と情熱的な気分とが交錯する,ニュアンスの多彩さを楽しむことができました。第3楽章は,ブラームスの曲の中でも特にメロディアスな楽章です。低音から高音まで,た〜っぷりとブラームスらしい,渋さを楽しませてくれました。根来さんが体を大きく動かすと,出てくる音の方もぐ〜っと動くのは,間近での演奏ならではでした。
今回の演奏を聞いて,是非,ブラームスのヴァイオリン・ソナタの他の2曲もこの場所で聞いてみたいものだ,と思いました。
後半は平野加奈さんの独奏で,ブラームスのピアノ・ソナタ第3番が演奏されました。この曲を実演で聞くのが初めてでした。CDでもほとんど聞いたことのない作品でしたが,40分近くかかる,若いブラームスの「力入りまくり」の大曲で,まず純粋に音の熱さ,迫力に圧倒されました。
間近で聞く平野さんのピアノの音には,打鍵していることが肌で伝わってくるような,生命力のようなものを感じました。ヤギヤさんのピアノは,ベヒシュタインという有名メーカーのものでしたが(大型のグランドピアノではなかったと思います),ピアノの生の響きを楽しむには最高の場所だと思いました。
第1楽章の冒頭から,硬質で輝きのある強い音に圧倒されました。平野さんが演奏後のトークで語っていたとおり「クライマックスが連続するような曲」という感じで,さすがに聞いていて結構疲れる曲でしたが,その音を聞きながら,曲の形がドーンと立ち上げってくるような聞きごたえがありました。ドイツのミュンヘンで学んでいた平野さんのピアノは,曲の雰囲気にぴったりの正攻法で,じっくりと曲の立派さを体感させてくれました。
第2楽章は,シュテルナウという人の詩にもとづいて書かれた楽章ということで,静かなロマンティズムが漂っていました。曲が進むにつれて,月の夜が深まっていくようなたっぷりとした気分があり,素晴らしいと思いました。第3楽章はいかにもドイツ音楽的な雰囲気を持ったスケルツォ楽章でした。間近で聞くピアノのダイナミックさが印象的でした。
第4楽章は,第2楽章の再現のような感じの楽章ですが,段々と巨大な雰囲気になっていき,ました。途中から,葬送行進曲を思わせるような同一音型が繰り返されるあたりの「しつこさ」がブラームス的な魅力ですね。
第5楽章は,全曲を締める楽章ということで,第1楽章を受けるような華麗さがありました。曲が進むにつれて,自然と平野さんの演奏にも熱と気合いが加わり,「どうだ!」という感じの盛り上がりを作って締められました。
最初に書いたとおり,間近で聞くピアノの音には,有無を言わさぬ迫力があり,「楽器の演奏は運動だ」ということが伝わってきました。ドイツのピアノ音楽を堪能できた演奏でした。
アンコールでは,「サプライズ」のような形で,根来さん,平野さんに加え,平野さんの大学時代の知人で小鼓奏者の望月太満衛さんを交えて,「春の海」が演奏されました。お客さんの中に,美しい着物を着た「ただものでない」方がいらっしゃるな,と思って見ていたのですが...こういうことだったのかと合点しました。考えてみれば,まだ1月中旬ということで,新春気分も感じさせてくれる「お年玉」のような演奏でした。
ピアノとヴァイオリンによる「春の海」は,どこかで聞いたことがある気がしますが,小鼓入りの演奏を聞くのは,今回が初めてでした。中間部で「ポポポポポン」と音が入ってくるあたり,絶妙の三重奏でした。
ヤギヤさんでは,非常に活発にクラシックのライブ演奏を行っているようです。この日もそうでしたが,間近で聞くライブ演奏は,奏者に間近に接することができることもあり,ハズレなく毎回楽しむことができます。また,室内楽の原点のようなところもあります。機会があれば,また聞きに行ってみたいと思います。
ヤギヤさんのWebサイト
http://centruldemondiale.wixsite.com/yagiya
ヤギヤさんのFacebook
https://www.facebook.com/yagiya.classica/

ヤギヤの外観。右はこれからの公演予定
今回はドリンク付き2500円でした。
(2017/01/18)
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公演の案内

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