OEKfan > 演奏会レビュー
第13回オーケストラ・アンサンブル金沢&石川県学生オーケストラ合同公演
2017年3月5日(日) 14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) スメタナ/歌劇「売られた花嫁」序曲
2) ヤナーチェク/弦楽のための組曲
3) サン=サーンス/交響曲第3番 ハ短調「オルガン付き」作品78

●演奏
松井慶太指揮オーケストラ・アンサンブル金沢;石川県学生オーケストラ(金沢大学フィルハーモニー管弦楽団,金沢工業大学室内管弦楽団のメンバー)*1,3
黒瀬恵(オルガン*3)



Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と石川県内の大学オーケストラメンバーによる合同公演,カレッジコンサートが2年ぶりに行われました。13回となる今回は,サン=サーンスの交響曲第3番がメイン・プログラムとして演奏されました。この曲は,パイプオルガンを活用できる点で,石川県立音楽堂コンサートホールで演奏するのにぴったりの作品です。ただし,OEKがこの曲を演奏するのは,多分初めてだと思います。指揮は,2年前のカレッジコンサートにも登場した松井慶太さんでした。

この演奏会は,1曲目と3曲目が合同演奏。2曲目にOEKの単独演奏が入るというのが定型となっています。今回もその形でした。

最初に演奏された,スメタナの歌劇「売られた花嫁」序曲は,OEKの方がトップ奏者になる合同演奏でした。この曲もOEKが単独で演奏する機会は多くない曲ですが,大変安定感のある演奏でした。この曲は,冒頭の旋回するように降りてくるメロディ(「男はつらいよ」に雰囲気が似ていると思います)の後,弦の細かい音の刻みが積み重なっていきます。それがくっきりと聞こえ,聞いていてワクワクとしました。松井さんは,とても長身の指揮者です。そのせいもあるのか生き生きとした気分と同時に,音楽が大らかさがあるのが良いと思いました。エネルギーを秘めながら,安定感のある音楽を聞かせてくれました。

2曲目には,ヤナーチェクの「弦楽のための組曲」という珍しい作品が演奏されました。この曲も大変楽しめました。2曲目に入れる作品についてはOEK側で選んでいるようですが(1,3曲目の方は学生側で選んでいるようです),毎回,定期公演に出てこないような,「ちょっといい感じ」の掘り出し物的な曲が出てきます。これも楽しみだったりします。

ドヴォルザークやスークの作品に「弦楽のためのセレナード」があります。このヤナーチェクの作品もその系統の作品で,せつなくなるような,ほのかな甘さと,生き生きとした民族的な感じとがバランスよく合わさった曲でした。全体は6曲からなっています。飯尾洋一さんによるプログラム解説によると,バロック時代の組曲を意図して作曲したとのことです(ただし,その後,方針を変えたようです)。

各曲はそれほど長いものではなかったのですが,それぞれに個性的で変化に富んでいました。第1曲は,ベートーヴェンの弦楽四重奏曲「セリオーソ」を思わせる切迫した感じで始まりました。ただし,激しさよりも渋くくすんだ「ほの暗い気分」がありました。一瞬,「ブルックナー?」と思わせるフレーズがあったのも面白いと思いました。第2曲には,一瞬「ローエングリン第1幕への前奏曲?」と思わせるような気分がありました。どちらも飯尾さんの解説に書いてあったとおりですが,なるほどと思いました。

第3楽章は対照的にホッとさせてくれるような短い楽章。第4楽章は,同郷の作曲家の「弦楽セレナード」に入っていそうな哀愁のあるプレストでした。中間部のノスタルジックな雰囲気も魅力的でした。

第5楽章は,低弦のレチタティーヴォで開始...ということでベートーヴェンの第9の第4楽章の前半部のような「ものがたりの開始」的な趣きがありました。その後は,チェロの大澤さんが聞きごたえのある熱い歌をソリスティックに聞かせてくれました。この曲のいちばんの聞きどころだったと思いました。

最後の第6楽章もメランコリックなゆらぎのある曲でした。最後,ほのかに和音が明るくなって終わるのも,「弦セレにありそう」という感じでした。

ヤナーチェクの室内楽といえば,もっと意味深な曲というイメージを持っていたのですが,こういう素直な曲も良いなと思いました。「どこかで聞いたことがある」という部分が多い点で,やはり若書きの作品という印象はありましたが,とても聞きやすい,愛すべき作品だと思いました。

後半は,学生側がトップになる形の合同演奏で,サン=サーンスの「オルガン付き」が演奏されました。この曲は,CDでも楽しめる曲ですが,やはり生のパイプオルガン付きの生演奏の威力にはかないません。

第1楽章の第1部は,神妙な気分で始まります。管楽器のソロが続くので,やや恐る恐る始まっている感じもしましたが,ザワザワとした弦楽器の音型が続き(この部分での微妙に音がずれている不思議なサウンドが大好きです),金管楽器が突き抜けた響きを聞かせてくれると,音楽が大きく広がります。指揮者の松井さんも若い方なので,「若々しくて良いなぁ」と思いました。フレーズを誠実に積み重ねながら,次第に大きな音楽を作って行くような雰囲気がしっかりと伝わって来て,大変聞きごたえがありました。何よりも音に込めた熱気のようなものが常に感じられるのが良いと思いました。

第1楽章第2部は,緩徐楽章的な部分です。この静かな部分では,ホール一杯に静かに広がるパイプオルガンの重低音が加わることで,弦楽器のカンタービレの魅力が10倍増(推測です)ぐらいになっていました。弦楽器の演奏には丁寧なニュアンスが付けられており,感動的な気分を盛り上げていました。このままずっと終わって欲しくないなぁという演奏でした。そのことを反映してか,楽章最後のオルガンの音はとても長く延ばされていました。後ろ髪ひかれるような気分で楽章が終わりました。

第2楽章第1部は,スケルツォ風の部分です。オーケストラの音全体に「やる気」が満ち,ガッチリとしたまとまりの良さがありました。中間部にピアノが入るのも好きです。オルガンと対照的に,ピアノが加わることで,音楽に透明感と軽やかさが加わる感じで(「動物の謝肉祭」の「水族館」と通じる部分がありますね),サン=サーンスの楽器の使い方が巧いなぁといつも思います。

そして,第2楽章の第2部は,パイプオルガンによる和音がバーンと格好良く入って始まります。その後,音楽が生気を増し,大きく盛り上がって行きます。今回は音楽堂のオルガンをいちばんよく演奏している黒瀬惠さんの演奏ということで,オーケストラとのバランスがとても良く,この曲を上品かつ華やかに楽しませてくれました。途中,「ピアノ連弾+弦楽器」になる部分になり,一瞬,爽やかな空気が入ってくるような気分になります。この部分も好きな部分です。壮大なオルガンの響きとのコントラストが楽しめる部分です。

曲の終盤は,堂々とした歩みが続きます。軽薄な感じではなく,じっくりと聞かせてくれました。その誠実なひたむきさが「良いなぁ」と思いました。曲の最後は,ティンパニの気合いのこもった連打を中心にビシッと締めてくれました。サン=サーンスの書いた設計図どおりに仕上げていくと,こんな壮大な建物になります,ということを示した立派な演奏だったと思いました。

演奏時間的には,全体で約90分ということで短めでしたが,どれも大変充実した演奏だったと思います。この時期は,大学生の授業が終わっており,お客さんの動員的にはやや厳しいところがあるとは思いますが,これからどんどん春らしくなっていく季節の気分にぴったりの若いエネルギーと開放的な気分を感じることのできた演奏会でした。

(2017/03/05)



公演のポスター


開演前ステージ上のスクリーンに,公演に向けての練習の様子などの写真が投影されていました。これも恒例ですね。


ガルガンチュア音楽祭の公演を示す掲示版も登場。見たところ...ラ・フォル・ジュルネの時と同様ですね。


JR金沢駅に行ってみると,富山県のゆるキャラが勢揃いしていました。火牛のキャラクターは,石川県なのかどうか微妙なところですが。