OEKfan > 演奏会レビュー
鶴見彩ピアノリサイタル
2017年3月15日 (水) 19:00〜 金沢市アートホール

ブラームス/6つの小品,op.118
ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第31番変イ長調,op.110
リスト/ピアノ・ソナタ ロ短調
(アンコール)ブラームス/6つの小品,op.118〜第2番

●演奏
鶴見彩(ピアノ)



Review by 管理人hs  

金沢を中心に活躍しているピアニスト,鶴見彩さんのリサイタルが行われたので聞いてきました。鶴見さんは,約20年前に第1回石川県新人登竜門コンサートでオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と共演(調べてみると,同じ年に日本音楽コンクールでも2位入賞されています),して以来,多彩な活動をされています。チェロのルドヴィート・カンタさんをはじめとしたOEKメンバーとの共演も頻繁に行っています。恐らく,金沢でもっとも信頼されているピアニストの一人ではないかと思います。

その鶴見さんのリサイタルですが,ブラームスとベートーヴェンの晩年の作品とリストの大曲,ピアノ・ソナタ ロ短調を組み合わせた,大変聞きごたえのある内容でした。どの曲も難曲と言って良い作品だと思いますが,重く気負い過ぎることなく,各曲の美しさ,立派さ,魅力を率直に伝えてくれる見事な演奏を聞かせてくれました。

ブラームスの6つの小品については,もっと暗く,渋い曲という印象を持っていたのですが,鶴見さんの演奏には,第1曲からセンチメンタルになることのない,かっちりとまとまった質実さがあると思いました。安心して聞くことのできる演奏でした。

第2曲の間奏曲は,曲集の中でも特に有名な曲です。重く沈み込むことなく,しみじみとした味わいのある演奏でした。最後の6曲目は,特に意味深な気分がありました。引き締まった雰囲気の中から不気味な気分がクリアに浮き上がってくるようでした。

ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第31番は,「風と緑 楽都音楽祭」でも鶴見さんが演奏する予定の曲です。第1楽章は,じっくりとしたテンポで始まった後,可憐さのある速いパッセージが続きました。硬質な音で,丁寧に隙なく演奏されており見事でした。

十分力強いけれども,粗くなることのない第2楽章の後,「嘆きの歌」と呼ばれる美しくも悲しいメロディが有名な,第3楽章につながります。この部分でも,情緒的になり過ぎることなく,むしろ淡々とした雰囲気じで,リアルな悲しみが伝わってくるようでした。フーガの部分での次第に昇華されていくような気分も素晴らしいと思いました。

全曲を通じて甘くなることのない,誠実で真摯な演奏でした。派手ではなく,内容を感じさせるような素晴らしい演奏だったと思います。

最後に演奏されたリストのピアノ・ソナタは,鶴見さんのこの20年の活動の総決算になるような,スケールの大きさを感じさせる演奏でした。この曲は,最初の方に出てくる,いくつかのモチーフが,その後,何回も手を変え品を変え展開されていくような作品です。静かで清らかな部分,キラキラとした速いパッセージ,大きく盛り上がる強打の連続...非常に変化に富んでいます。鶴見さんの演奏は,どんなに音楽が変化しても,形が崩れることはなく,しっかりと地に足のついた安定感のある音楽を聞かせてくれました。

鶴見さんの作る音楽自体は,強打で圧倒するような感じでないのですが,曲が終盤になるにつれて,演奏全体に凄味が出てきて,音楽全体がどんどん深みを増していくようでした。曲の最後は,意味深さのある余韻とともに,静かに閉じられました。

アンコールでは,最初に演奏されたブラームスの6つの小品の中の第2曲が再度演奏されました。ここまでの演奏中,鶴見さんの表情には常に真剣な表情がありましたが,この曲の演奏では,1回目に演奏された時よりは,力がすっと抜けたような伸びやかさを感じました。いつまでも浸っていたくなるような音楽でした。

金沢では今回演奏されたような渋めの曲を聞く機会は少ないのですが,鶴見さんによる,曲の形を歪めない,誠実な演奏で聞くと,その良さがしっかりと味わうことができます。今後も鶴見さんの活躍に期待したいと思います。

(2017/03/23)



公演の立看