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石川県ジュニアオーケストラ 第23回 定期演奏会
2017年3月26日(日) 14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) 斎藤ネコ/100万回生きたねこ(佐野洋子作)
2) ウィリアムズ,J./スター・ウォーズ組曲〜メイン・タイトル
3) オッフェンバック/喜歌劇「地獄のオルフェ(天国と地獄)」〜カンカン
4) チャイコフスキー/バレエ「くるみ割り人形」より

●演奏
鈴木織衛指揮石川県ジュニアオーケストラ
南部真奈(語り)*1
バレエ:エコール・ドゥ・ハナヨ・バレエ*3,4



Review by 管理人hs  

この時期恒例の石川県ジュニアオーケストラの定期演奏会を聞いてきました。この演奏会も今回で23回目となります。毎回,趣向を凝らしたプログラムになっていますが,今回は特に豪華で,「これで無料?」というぐらいの充実感と変化に富んだ内容でした。

最初に演奏された「100万回生きたねこ」は,昨年の夏に続いての再演です。前回と違うのは,ナレーションがジュニア・オーケストラのメンバーの女子高校生が担当したことです。前回の太郎田真理さんによるナレーションも素晴らしかったのですが,今回のナレーションも別の良さがありました。大げさになり過ぎることなく,すっきりとドラマが伝わっただけでなく,トラネコが白ネコに「一緒に暮らそう」と語るあたりでは,初々しさを感じました。高校生がナレーションをする点では,武満徹の「系図」を思わせるようなムードも感じましたが,個人的には,今回の作品の方が好みです。

この曲については,昨年の大河ドラマ「真田丸」同様,前半は「ナレ死」の連続です。これが本当に異色の展開です。さらに,だんだんと「死」が平気になってしまい,その後,軽快な音楽に変わるあたり,改めて考えてみると,結構怖さがあります。

その後,自分よりも好きなくらいの「愛する存在」が登場します。しかし,この存在には寿命があり,不死身だったねこも最後には死んでしまいます。幸福感は永遠には続かず,死が訪れるということになります。この部分での「悲しいけれども嬉しい」といった感覚には,言葉では表せられないような深さがあります。この悲しさは「100万回泣いた」と表現されるのですが,「死んだ回数」と数が一致している辺りのゴロの良さは童話ならではですね。これもすごいと思います。

斎藤ネコさんの音楽には,時の推移を表現するように,繰り返しの音型が多いのですが,それが全く退屈ではなく,ドラマの展開にぴったりとマッチしています。ジュニア・オーケストラの演奏も2回目の演奏ということで,安心して聞くことができました。ナレーションの「行間」の気分をしっかりと盛り上げてくれました。

その後,ジョン・ウィリアムズ作曲の映画「スター・ウォーズ」のメインタイトルが演奏されました。ジュニア・オーケストラ・メンバーによる「演奏したい曲」の人気投票では,いつも上位に来ていた曲とのことです。

かなりの難曲ということでこれまで演奏してこなかったのですが(鈴木織衛さんのトークによると,思った以上に複雑なスコアとのことです),見事に聞かせてくれました。重苦しくなることなく,快適なテンポ感で聞かせてくれたのが素晴らしいと思いました。

曲の最初の方のトランペットのハイトーンなど,かなり大変だと思いますが,どこか爽やかな気分がありました。また,弦楽器を中心に全体が大変滑らかに演奏されていました。個人的には,フルートの音を聞くと「宇宙空間」の気分になります。今回は木管楽器がとても沢山いたこともあり,奥行のある未知の空間的な気分が良く出ていたと思いました。

後半は,エコール・ドゥ・ハナヨ・バレエの皆さんのバレエを加えてのステージでした。こちらも大変楽しいステージでした。

最初にオッフェンバックの「天国の地獄」の中のカンカンの部分が演奏されました。後半では,ステージ奥を少し高くして,そこでバレエを踊る形になっていましたが,大変華やかで,しかも格好良いパフォーマンスを楽しませてくれました。

曲が始まるとすぐ,ダンサーたちがステージ中央の扉からスーっと入って来て,スピード感のある音楽に合わせて,ぴったりと揃った群舞を見せてくれました。こういう展開を予想していなかったので,これだけで感激しました。途中,ソロのダンサーたちがフェッテ(連続回転)を見事に見せる部分があるなど,予想以上にハイレベルな踊りの連続でした。

衣装は,さすがに例のフレンチ・カンカンのスカートではなく,地獄を思わせるような(?)赤と黒のすっきりとした衣装でした。体の動きがしなやかだったこともあり,大変スタイリッシュでした。

チャイコフスキーの「くるみ割り人形」の方は,5曲の抜粋でしたが,このバレエ音楽らしく,親しみやすい音楽に乗って,次から次へとダンサーが登場してきて,会場の気分がさらに大きく盛り上がりました。やはりダンスの力は偉大だと思いました。

まず,クララ(?)が大勢出て来た「行進曲」で始まりました。これは,子どもたち向けにぴったりの曲ですね。「トレパック」では,ソロのダンサーのハイジャンプが見所でした。荒々しい迫力のある,元気のよい踊りを楽しませてくれました。

「あし笛の踊り」には,これぞバレエという優雅さがありました。聞くたびに,フルート3本を中心としたチャイコフスキーのオーケストレーションは,本当に素晴らしいと思います。そして小さい子どもたちが大きなスカートの下からゾロゾロ出てくる「ギゴーニュおばさんと子どもたち」。過去,鈴木織衛さん指揮OEKで,「くるみ割り人形」の全曲を見たことがありますが,その時の気分が蘇ってきました。それにしても豪華な衣装でした。この衣装は,どこかに保管してあるのでしょうか。是非,また見てみたいものです。

最後は「終幕のワルツとアポテオーズ」ということで,全員が出てきて,一緒に踊る曲になります。このワルツの最初の「ジャーン」という音を聞くと,華やかだけれども「もうすぐクリスマス気分も終わってしまうなぁ」というちょっと切ない気分になります。条件反射というやつですね。今回は5曲だけの抜粋でしたが,曲の途中で,「中国の踊り」「アラビアの踊り」「スペインの踊り」風のダンサーも登場したこともあり,しっかりそういう気分にさせてくれました。

ワルツの最後の部分で,音楽が盛り上がり「全員で踊る」ところも好きな部分です。ぴったり揃って,皆でクルッと回る,というのが最高です。ジュニアオーケストラの音は,包容力のある音で,見事に締めてくれました。

その後,曲の冒頭の雰囲気に戻ります。頭の中でクリスマス・ツリーを想像しながら,満足感たっぷりのエンディングになりました。オーケストラの演奏会としては,やはり「花のワルツ」も聞いてみたかったのですが,これはまた別の機会に期待したいと思います。

というわけで,今年の定期公演は,ナレーション付きの曲,スターウォーズ,ダンサー付きのバレエ音楽と,例年にも増して豪華で充実した内容だったと思います。

(2017/04/01)




公演のポスター


JR金沢駅もてなしドームには,「風と緑音楽祭」のタペストリーが登場していました。