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第16回 北陸新人登竜門コンサート <ピアノ部門>
5月14日(日) 15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) メンデルスゾーン/劇音楽「夏の夜の夢」序曲,op.21
2) シューマン/ピアノ協奏曲イ短調,op.5
3) サン=サーンス/交響詩「死の舞踏」op.40
4) サン=サンーンス/ピアノ協奏曲第5番ヘ長調

●演奏
井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)
川畑夕姫*2,尾田奈々帆*4(ピアノ)



Review by 管理人hs  

毎年,4〜5月頃に行われている北陸地方の新人演奏家発掘のための新人登竜門コンサート。第16回目となる今回はピアノ部門で,尾田奈々帆さん(石川県出身)と川畑夕姫さん(富山県出身)のお2人が登場し,井上道義指揮OEKと共演しました。

新しく始まった「ガル祭」が終了して1週間ほどで行われた演奏会でしたが,ピアノを習っている子供連れのお客さんなどが多い感じで,お客さんの方にもどこか若々しい気分がありました。そ

お2人が演奏したのは,川畑さんがシューマンのピアノ協奏曲,尾田さんがサン=サーンスのピアノ協奏曲第5番「エジプト風」でした。どちらも大変立派な演奏でした。井上道義さんが途中のトークで「若い人の伸びは素晴らしい!」語っていたとおり,この演奏会に向けて万全の仕上がりの演奏を楽しむことができました。

シューマンの方は,昨年からOEKが2回別のピアニストと演奏していますが,今回の川畑さんとの演奏は,それとは違った魅力がありました。第1楽章などは,全般にゆったりとしたテンポで演奏されていました,。冒頭の和音は,もっと鋭く切り込むように演奏される場合もありますがどこかおっとりとした優雅さが感じられました。攻めるよりは,守りの気分があったのですが,そこからしっとりとしたロマンの香りが漂うようでした。

第2楽章では,落ち着きのあるピアノに続き,チェロの歌わせ方がいつもにも増してたっぷりとしており,気分を盛り上げてくれました。第3楽章も着実にしっかりと演奏されていました。キラキラと速いパッセージが続く部分は,特に好きです。今回の川畑さんの演奏でも,この部分を聞きながら,じわじわと熱くなってきました。演奏全体を通じて,OEKと一体となって,若々しく華やいだ心地よいロマンの世界を伝えてくれました。

尾田さんの方は,OEKが過去ほとんど演奏したことのない,サン=サーンスのピアノ協奏曲第5番「エジプト風」を演奏しました。尾田さんは,東京芸術大学で勉強中の大学生なのですが,ステージに登場した時から絶えずニコニコとして,まったく物怖じすることなく,演奏効果満点の曲を堂々と弾き切ってくれました。本当に伸び盛りといった雰囲気のある演奏でした。

第1楽章はオーケストラもピアノも大変雄弁で,生き生きと前へ前へと進むようでした。この曲の場合,もう少し音量がある方が良い気もしましたが,「エジプト旅行」の始まりにふさわしい,鮮やかさがありました。

第2楽章のエキゾティックなムード(この辺は「正真正銘エジプト風」というよりは,サン=サーンスが感じた「自称エジプト風」のようですが)は,音による「世界の車窓から」といったムード満点でした。他の曲では聞いたことのないような,変なハーモニーが出てくる部分など大変魅力的でした。

それに続く第3楽章も快速,快適で,その元気のある演奏は,お客さんを魅了したのではないかと思います。曲の最後の部分の華やかなパッセージの鮮やかな技巧が特に印象的でした。

尾田さんは,とても小柄で,演奏後もとてもニコニコしていたので,聞いている方も幸せな気分にさせてくれました。「明日から仕事...」と思いがちな日曜の午後に聞くにはぴったりの演奏だったと思います。

この2曲だけだと,演奏時間が短いので,前半最初にはメンデルスゾーンの「夏の夜の夢」序曲,後半最初にはサン=サーンスの交響詩「死の舞踏」が演奏されました。どちらも「大変よく出来た曲」です。約2カ月ぶりに井上さんの指揮を聞きましたが,その魅力を十全に楽しませてくれました。

メンデルスゾーンの序曲は,本当にこの時期にぴったりの空気感を持った作品です。この演奏会には,自転車で行ったのですが,明るい緑の中を風を切って走るようなムードを感じました。弦楽器の繊細な音の動き,飛び交う木管楽器群,しっかり効いているテューバ(ミュートを付けていたのが面白かったですね)など,この曲の魅力がしっかり伝わってきました。

サン=サーンスの方は,コンサートミストレスのアビゲイル・ヤングさんが大活躍でした。独特の調律をしたヴァイオリンを使った演奏で大変雄弁な演奏を楽しませてくれました。演奏前,井上さんはプレトーク的にこの曲の特徴について「最初,ハープが12回音を鳴らし(12時の意味),ヴァイオリンが骸骨を表現,朝になってコケコッコー...とは言わないけれどもオーボエがそれっぽい音を出しておしまい。とても分かりやすい曲です」といった説明されていましたが,まさにその通りの演奏でした。ちなみに,ヴァイオリンのメロディは,同じサン=サーンスの「動物の謝肉祭」の「化石」にも出てきますね。

この新人登竜門コンサートですが,入場料1000円の演奏会ということで,「オーケストラの演奏会をちょっと聞いてみたいのですが」という人にぴったりな気もします。久しぶりに井上さんの「踊るような」(今年のラ・フォル・ジュルネのテーマ)指揮にも接することができ,大満足の演奏会でした。

PS. この日のオーケストラの配置で面白かったのが,いつもは第1ヴァイオリンの坂本さんが第2ヴァイオリン,第2ヴァイオリンのドゥミヤックさんが第1ヴァイオリンの席に座っていたことです。以前からそうですが,この演奏会は色々な実験の場でもあるようです。

(2017/05/21)



公演の立看板