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ふだん着ティータイムコンサート Vol.20
2017年6月17日(土)14:00〜 金沢市民芸術村

14:00〜子供のためのコンサート(オープンスペース)
1) ミッキ−マウスマーチ
2) アンダーソン/プリンク・プランク・プルンク
3) クラリネットポルカ
4) アンダーソン/シンコペーテッド・クロック
5) 1分間指揮者コーナー(運命,ラデツキー行進曲)
6) 手のひらを太陽に

●演奏
オーケストラ・アンサンブル金沢
司会:柳浦慎史

15:10〜室内楽コンサート (ミュージック工房)
1) マーズ/ディヴェルティメントから
2) ヴィトマン/デュオ
3) ドホナーニ/弦楽三重奏のためのセレナード ハ長調 Op. 10〜第1曲,第2曲,第5曲
4) 小太鼓二重奏
5) 渡邉達弘/ その手があったかw
6) 渡邉達弘/ Flex-A-Time
7) ファッシュ/ソナタ ヘ長調
8) シュルホフ/コンチェルティーノより
9) クンマー=シューベルト/ウィリアム・テルの主題によるデュオコンチェルタンテ
10) ヒンデミット/小室内楽

●演奏
松木さや(フルート*1,8,10),遠藤文江(クラリネット*1,10),柳浦慎史*1,7,10, 渡邉聖子*7(ファゴット),加納律子,水谷元(オーボエ*7)
ヴィルジル・ドゥミヤック*2, 若松みなみ*3, 坂本久仁雄*9(ヴァイオリン),古宮山由里*3, 石黒泰典*8(ヴィオラ), 大澤明*2,9, ソンジュン・キム*3(チェロ)今野淳(コントラバス*8)
渡邉昭夫,望月岳彦(打楽器*4-6)



Review by 管理人hs  

毎年恒例の,OEKメンバーの自主企画による無料コンサート「ふだん着ティータイムコンサート」を初夏の緑の美しい金沢市民芸術村で聞いてきました。この日の金沢は,梅雨時とは思えない(まだ入っていない?)爽やかな天候だったこともあり,会場の金沢市民芸術村には芝生や水辺で遊んだ後,コンサートに突入,といった親子連れを中心に沢山のお客さんが入っていました。



前半の「子どものためのコンサート」は特に盛況で,オープンスペースには立ち見のお客さんもいました。私の方は...飲み物サービスのお手伝いをしながら聞いていました。オープンスペースの上部で,楽友会メンバーとOEKメンバーで飲み物サービスを行うのが恒例なのですが,本日は「冷たい飲み物」の準備が遅れ気味になっており,少々バタバタしていましたので,ついつい色々とお手伝いをしました。オーボエの加納さんと一緒に,ホット・コーヒーをポットに移す作業したのですが,良い思い出(?)になりました。

コンサートの方は,例年の内容とほぼ同じ形でした。ファゴットの柳浦さんの司会で,楽器紹介を交えて,親しみやすい曲が演奏されて行きました。今回の注目は...チェロの早川さんが,なぜかトロンボーン奏者として出演されていたことでしょうか。


オーボエとクラリネットの楽器比べ。別に水谷さんと遠藤さんが戦っているわけではありません。右の写真は,チェロの早川さんがトロンボーンを吹いているところ。

1分間指揮者コーナーでは,今年も色々な年代の「飛び入り指揮者」が登場し,色々なテンポで,ラデツキー行進曲とベートーヴェンの「運命」が演奏されました。意外なことに,最初に登場した,幼稚園児がいちばん「オーソドックス」なテンポだったと思います。ブラーボ!

最後にマイクを回しながら「てのひらを太陽に」を皆で歌って,最初のコーナーは終了しました。



休憩後は,ミュージック工房に場所を変え,「室内楽コンサート」が行われました。


ミュージック工房はこういう雰囲気です。

2回休憩をはさんだ3部構成で,約2時間半行われたのですが,何と演奏された曲全部,初めて聞く曲でした。私も色々演奏会に出かけていますが,これだけ渋い曲が並ぶのも珍しいことです。

こういった曲を,前半のコンサートからの流れでお子さんも一緒に聞いている,という光景が素晴らしかったですね。それと,一見,難解そうに思えるラインナップですが,予想以上に分かりやすい曲が多く,どの曲も楽しむことができました。室内楽といっても,いちばんの定番である弦楽四重奏が入っていないのも面白いと思いました。

最初に演奏されたマーズの作品は,ファゴットの柳浦さんの選曲。20世紀に活躍したドイツの作曲家の作品で,柳浦さん自身,久しぶりに演奏するとのことでした。今回は,3曲が抜粋で演奏されました。毒気をやや薄めたショスタコーヴィチ(?)のように始まった後,ちょっとラテン系の雰囲気になり,最後は素直に楽しめそうなリズミカルな曲で締められました。松木さんのフルートの音がきれいだなぁと素直に思いました。

ヴットマンの作品が演奏されました。この方は,昨年OEKの定期公演にクラリネットの弾き振り(吹き振り?)で登場した方です。その時もかなり前衛的な雰囲気を持った自作を演奏されていましたが,今回演奏された曲も凄い曲でした。ヴァイオリンとチェロの二重奏で,ドゥミヤックさんがドイツ留学中に見つけ,昨年,ヴィットマンさんがOEKに客演した時に聞いてもらったのだそうです。

大澤さんの解説によると,1曲目が6/8拍子のジーグ,2曲目が「ホームシック」,3曲目が「どんくさいワルツ」とのことでした。1曲目には,シリアスで強い表現力を感じさせるムードがありました。2曲目は短かったのですが,これもまたぐっと落ち込んでいるような深さがあり,印象的でした。3曲目は,チェロが息苦しくなるような高音を演奏しており,こちらも強いインパクトを持っていました。

若松さん,古宮山さん,ソンさんの若手3人で演奏されたドホナーニの弦楽三重奏のためのセレナード ハ長調 Op. 10は,とても聞きやすい作品でした。3つの楽章が抜粋されていましたが,うまく急―緩―急になっており,安心して楽しむことができました。弦楽四重奏などよりは,ソロが多いようで,全曲を通じて,生き生きとした明るさを感じました。

この曲については,ヴァイオリンの若松みなみさんが曲について紹介されていました。若松さんは,7月にリサイタルを行う予定です(チラシも入っていました)。時間の都合がつけば聞きに行ってみたいと思います。


休憩時間中にオープンスペースでのんびりするのもこのコンサートの楽しみの一つです。

第2部は,「打楽器小ネタ集」という趣きのあった渡邉昭夫さんと望月岳彦さんのステージで始まりました。まず,小太鼓二重奏の曲が1曲演奏されました。渡邉さんによる解説によると,(作曲者名は聞きそこなったのですが),小太鼓の単音(ロールではない)のみを使って,アクセントの移動の面白さを表現した曲とのことでした。ぴったり揃っているのも心地良かったのですが,微妙にずれていくのも面白いと思いました。

その後の2曲は,通常「効果音専門楽器」として,音楽の「薬味」のように使われているビブラスラップとフレクサトーンを普通の楽器として使ってみようという,渡邉達弘さんによる,チャレンジングな曲でした。

休憩時間中,この二つの楽器が置かれているのを撮影。子どもたちに大人気でした(次回は,「1分間ビブラスラップ」コーナーがあれば,人気が出るかも)

まず,ビブラスラップの方ですが,いちばん分かりやすいのは,北島三郎の名曲『与作』も出てくる,「カーッ」という音だと思います。
http://drum-percussion.info/category7/category134/

この楽器に「日の目」を見せたいという,やさしさ(?)を感じさせる作品でした。なぜ,「その手があったか?」について関心のある方は,以下の動画をご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=O8gVNWpSrOw

もう一つのフレクサトーンの方は,「ゲゲゲの鬼太郎」など,お化け系の効果音によく出てくると思います。こちらの方は,聞いているうちに,横山ホットブラザーズがノコギリで演奏する「おまえはアホか」の雰囲気に結構近いと思ってしまいました。
http://drum-percussion.info/category7/category136/

いずれにしても,もしかしたらトライアングルには勝てるのでは?という期待を持たせてくれるような曲だと思いました。こちらも動画がありましたので,関心のある方はご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=dmLd1q5FG9Y

ファッシュのソナタは,オーボエ2本,ファゴット2本というダブル・リード楽器のみによる四重奏でした。4楽章形式で,緩急+緩急という,バロック時代の教会ソナタのような形式の作品でした。ファッシュについて調べてみると...やはりバロック時代の作曲家でした。かっちりとクリアにまとまた感じが大変心地よい作品でした。クリアな優雅さのある演奏でした。

シュルホフの作品は,以前,ルドヴィート・カンタさんのリサイタルで聞いた記憶がありますが,今回演奏されたコンチェルティーノは,何といってもフルート(ピッコロ持ち替え)とヴィオラとコントラバスという奇想天外の編成が印象的でした。今回は,第1楽章,第2楽章,第4楽章のみが演奏されました。

第1楽章は,まず,コントラバスの演奏で始まりました。オリエンタルなムードを持った,「ゾウさん」といったところでしょうか。その中から,フルートがキラリと立ち上がってくる感じが独特でした。第2楽章は,松木さんはピッコロに持ち替えていました。ピッコロとコントラバスの重奏というのもすごいですね。第4楽章にも,どこか民族的な雰囲気がありました。コントラバスの刻むリズムの雰囲気には,どこか「兵士の物語」を思わせるところがありました。

シュルホフは,第2次世界大戦中,ヒトラーから「退廃音楽」として批判され,獄死した,歴史に翻弄された作曲家です。そういう時代に,独創的な音楽を書こうとしたことは,尊敬すべきことだと思います。



2回目の休憩後,第3部が始まりました。


第3部は,この「砂かぶり」席で,足を延ばしたり曲げたりしながら聞いていました。

まず,クンマーとフランツ・フランソワ・シューベルト(有名なシューベルトは別人)による,ヴァイオリンとチェロのための,華麗な技巧を駆使した作品が演奏されました。ただし,「ウィリアム・テル」いっても,有名な序曲のメロディが出てくるわけではありません。大澤さんのトークによると,クンマーは「B級グルメ的な良さのある曲を沢山作っている」とのことでした。チェリストだったこともあり,この曲についても,過剰なまでに華麗で,美しい瞬間が沢山ありました。

作風としては,ショパンの作った「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」辺りに通じる,これでもかこれでもかという華やかさでした。特にチェロの方は,フラジオレットなども多く,演奏至難という感じでした。そのこともあるのか,ヴァイオリンの坂本さんが大澤さんのために譜面をめくってあげていました。こういう光景も珍しいのではないかと思いました。

最後に演奏されたのは,ヒンデミットの小室内楽でした。編成はフルート,オーボエ,ファゴット,ホルン,クラリネットによる木管五重奏です。「小」という名前はついていましたが,間近で聞く名手たちの響きには厚みがあり,聞きごたえがありました。

ヒンデミットの音楽はあまり聞いたことはないのですが,モチーフをかっちりと繰り返していく感じが,やはりドイツ的だと思いました。その中に「小」室内楽ならではの小粋さも散りばめられていました。

5人の奏者の音の溶け合い方は見事で,充実感のある響きで最後のステージを締めてくれました。

毎回感じるのですが,至近距離で聞くプロの演奏は,曲の知名度に関わらず,聞く人を引き付ける迫力を持っていると思いました。天気同様,大変気持ちの良く過ごすことのできた土曜日の午後でした。


終演後です。影が流石に長くなっていました。

(2017/06/24)





開演前の雰囲気。まだ座席に余裕がありましたが...一気に親子連れで満席に


オープンステージの上の方です。温室化しており,この時間帯はかなり暑かったです。