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金沢大学フィルハーモニー管弦楽団第42回サマーコンサート
2017年6月25日(日) 16:00〜 金沢歌劇座

1) シューベルト/交響曲第8(9)番ハ長調,D.944 「ザ・グレイト」
2) チャイコフスキー/交響曲第5番ホ短調, op.64

●演奏
篠田達成*1;正村啓二郎*2指揮金沢大学フィルハーモニー管弦楽団



Review by 管理人hs  

この時期恒例の金沢大学フィルハーモニー管弦楽団のサマーコンサートを金沢歌劇座で聴いてきました。このコンサートについては,前半は序曲と中規模なオーケストラ作品,後半にベートーヴェンかロマン派の交響曲というパターンが多かったのですが,今回は,前半にシューベルトの「ザ・グレイト」,後半にチャイコフスキーの交響曲第5番ということで,どちらも「トリ」を取っても良さそうな曲2曲を並べるという,チャレンジングなプログラムでした。

昨年のように,マイナーな曲にチャレンジするのも大歓迎ですが,大曲2曲に一気にチャレンジというのも,素晴らしいことだと思います。聴く前には,チャーハンを食べた後,カレーライスを食べるといった感じになるかな,とも思ったのですが,2曲聞いた感じでは,それほど胃にもたれる感じはなく,どちらもしっかり味わって楽しむことができました。特に後半のチャイコフスキーの5番の方は,サマーコンサート史上(全部聞いているわけではないので,推測ですが)に残るような名演だったのでは,と思いました。

前半の「ザ・グレイト」の方は,第1楽章の序奏部は,やや緊張しているかな,という雰囲気はありましたが,その後主部に入ると,堂々とした歩みが始まり,正攻法で大曲を聞かせてくれました。全曲を通じて,同じような音型を執拗に繰り返すような部分の多い曲ですが,そういった部分でも,キビキビと地道にレンガを積み重ねて行くような律義さが感じられ(実は,最近そういった部分が好きなのです),若い人たちの演奏は良いなぁと思いながら聞いていました。楽器の中では,要所要所で出てくる,ティンパニの力強い響きが印象的でした。

第2楽章や第3楽章もキビキビとした感じで良かったのですが,両楽章とも気分がスッと変わる中間部では,もう少し異次元の世界というか,酔ったような気分にさせてほしいかなと,ぜいたくなことを感じました。

最終楽章では,出だしのビシっと締まった若々しさが印象的でした。執拗に続くオスティナートの律義さも良いな,と思いました。クライマックスでは,個人的には,もう少し金管楽器に暴れて欲しい気はしましたが,全曲を通じて堂々とした立派さのある演奏だったと思います。

後半のチャイコフスキーの第5番の方は,前半長い曲を1曲弾いた後ということもあるのか,オーケストラの音がさらにこなれている気がしました。チャイコフスキーの音楽自体,「山あり,谷あり」なのですが,その起伏を非常に克明に演奏し,全曲を通じて,ロマンティックな気分をしっかりと出していたのが素晴らしいと思いました。

学生指揮者の正田さんは,過去私が見て来た学生指揮者の中でも,特に”派手”な指揮ぶりで,大きく手を伸ばしたり,楽器へのキューを頻繁に出したり,観ているだけで音楽が伝わってくるようでした。実際,金大フィルの音もその通りの音を出しており,素晴らしい統率力だと感じました。チャイコフスキーならではの音楽と連動した情感の揺れが,熱く自然に伝わって来ました。

冒頭のクラリネットから,暗いムードと広がりのある空気感がたっぷり感じられ,やっぱりこの曲は良いなぁと思いました。その後もニュアンスの変化が克明に付けられており,やりたいことが明確に伝わってきました。

第2楽章はホルンのソロが,聞きどころになります。低弦による深い音の上に,どこか控えめで,素朴さと温かさのあるソロが続きました。何ともいえず,良い味だなぁと思いました。この楽章も本当じっくりと聞かせてくれました。「運命のモチーフ」の当たりになると出てくる,強烈なティンパニの炸裂もすごいと思いました。

第3楽章のワルツも色々なイマジネーションに溢れており,じっくりと聞かせてくれました。第4楽章は,そのまま間を置かず始まりました。この楽章では,まず弦の響きが良いと思いました。プレーンな音の美しさがストレートに伝わってきました。その後の山あり谷ありの部分も,思う存分演奏していたように見えました。何より素晴らしかったのは,音楽がきちんと設計されていているので,どの部分も非常に克明で,曖昧さがなかったところです。

というようなわけで,素晴らしく説得力のある演奏だったこともあり(これは予想していたのですが),第4楽章のコーダに入る直前,大きく盛り上がって,全休符が入る部分で,拍手が入りました。この拍手については,ある意味「当然」という感じだったかもしれませんね。一種「勲章」のようなものと前向き(?)に捉えてもらった方が良い気がしました。

そして,その後の部分の弦楽器のヴィブラートがたっぷりとかかった歌にもしびれました。この部分は,指揮者のこだわりがしっかりと音と歌になっていたのだと思いました。濃い音楽を聞いたなあという実感がありました。その後は,「やりたいことをやり尽くした」感のある,爽やかな気分で全曲を締めてくれました。

会場からは,ブラボーの声が飛んでいましたが,まさにそういう演奏だったと思います。

学生オーケストラの場合,メンバーが毎年毎年入れ替わり,学生指揮者も定期的に変わると思いますが,「この1曲」に掛ける思いの伝わってきた,素晴らしい演奏会でした。

(2017/07/01)





公演の立看板


演奏会が始まる前に,プレコンサートをステージ横で行っていました。


終演後,金沢21世紀美術館の横を通りかかったときに,紫陽花を撮影。この日は雨でしたが,なかなか美しく咲いていました。