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Trio RFR リサイタル
2017年7月11日(火)19:00〜 金沢市アートホール

ハイドン/ピアノ三重奏曲イ長調 Hob.XV:18
ベートーヴェン/ピアノ三重奏曲第6番変ホ長調, op.70-2
シューベルト/ピアノ三重奏曲第1番変ロ長調, op.99, D.898
(アンコール)ベートーヴェン/ピアノ三重奏曲第6番変ホ長調, op.70-2〜第3楽章

●演奏
Trio RFR(トリオアルファ)(青木恵音(ヴァイオリン),富田祥(チェロ),浅井隆宏(ピアノ))



Review by 管理人hs  

昨年,金沢市で行われた「第1回ベストオブアンサンブル in Kanazawa(BOE)」でグランプリを受賞したピアノ三重奏団「Trio RFR(トリオアルファ)」の演奏会が行われたので聴いてきました。このトリオは,桐朋学園大学院大学での同期生3人によって結成されたものです。以前から石川県で活躍されていたチェロの富田祥さんに男性メンバー2名が加わり,活動を開始したようです。

実は,この前の週から頻繁に演奏会に出かけていたので,「どうしようかな」と迷っていたのですが,金沢でピアノ三重奏の演奏会が行われることは多くないこと,そして,昔から好きな曲だったシューベルトのピアノ三重奏曲第1番が演奏されることを目当てに聞きに行くことにしました。

プログラムは,ハイドン,ベートーヴェン,シューベルトというウィーン古典派から初期ロマン派の作曲家によるピアノ三重奏曲を集めた大変聞きごたえのあるものでした。Trio RFRの演奏は,BOEのグランプリらしく,正攻法の誠実な演奏で,各曲を楽しませてくれました。

ヴァイオリンの青木恵音(あやね)さんの力感のある響き,ピアノの浅井隆宏さんのクリアで煌めきのある音にチェロの富田祥さんの柔らかみのある音が加わり,室内楽的な密度の高さと同時に,外に広がって行くような開放感を感じさせてくれました。

最初に演奏されたハイドンの曲は,曲の最初,朝礼とかでお辞儀をる時の「チャン・チャン・チャン」というような和音で始まり,思わず嬉しくなりました。その後も明るく,どこか可愛らしい雰囲気があり,気持ちよく楽しむことができました。第2楽章は大変美しいメロディで,ベートーヴェン,シューベルトと引き継がれるウィーン風の伝統のようなものを感じました。

続くベートーヴェンのop.70-2の三重奏曲を聞くのは初めてのことでした。ベートーヴェンの三重奏曲といえば「大公」が有名で,この曲については,「傑作の森」の真ん中にあるけれども「イマイチの作品」などと書かれている解説を読んだことがあるのですが,今回,初めて実演で聴いてみて,「そんなことはない。とても良い作品だ」と思いました。

全曲を通して深刻な感じはなく,とても健康的な雰囲気がありました。第1楽章は精妙なハーモニーで始まった後,ベートーヴェンらしくがっちり,じっくりと進んでいきました。第2楽章は典雅な気分のある安定した感じの楽章でした。

第3楽章は,親しみやすいメロディが大変印象的でした。この楽章の途中に出てくる,「ヴァイオリン+チェロ」と「ピアノ」とが対話をするように進んでいく辺りの絶妙の「間」の取り方も良いなと思いました。第4楽章は浅井さんのくっきりとしたピアノの後,がっちりとまとまった音楽が続きました。最終楽章らしく,力強さと輝きもありました。

後半は,シューベルトのピアノ三重奏曲第1番が演奏されました。Trio RFRの皆さんはこの曲の演奏で今年の2月にグランプリを受賞されましたので,「看板曲」ということになります。

冒頭からキビキビとした感じで進んだあと,これぞシューベルトという感じのメロディが出てきました。第1主題のすっきりとしたキレの良さと,たっぷりとチェロに出てくる第2主題とが鮮やかに対比されていました。要所で出てくる大きめの間は,晩年のシューベルトらしく意味深で,「あの世」に少し近づいたような幽玄な気分を感じさせてくれました。

第2楽章は昔から特に好きな楽章です。チェロに出てくる主題は,アルペジョーネ・ソナタを思わせるところがあります。この主題のテンポはやや速目でしたが,しっかり熱く歌われていました。好みとしては,もう少し耽美的な感じが好みですが,十分に堪能させてくれました。

小気味よい第3楽章スケルツォの後の第4楽章は,シューベルトらしく(?)同じフレーズが何回も繰り返される最終楽章です。このしつこい繰り返しが,シューベルトの器楽作品の魅力の一つかもしれませんね。じっくりと着実に聞かせてくれましたが,個人的には,楽章最後の部分は,もう少しはしゃいだ感じで終わってくれるのが好みです(ちなみに,我が家にあるボザール・トリオの演奏が,私にとっての定番の演奏です)。

最後にアンコールとして,ベートーヴェンのピアノ三重奏曲op.70-2の第3楽章が,もう一度演奏されました。2回目の演奏ということで,気分がさらに高揚し,うっとりと楽しむことができました。

年季を積んだ室内楽グループに比べると,どこか「真面目すぎるかな」という部分はありましたが,これまで金沢では実演で聴く機会の少なかった,ピアノ三重奏曲の世界をじっくりと楽しませてくれました。ピアノ三重奏というのは,同じ室内楽でも弦楽四重奏などに比べると,ソリスティックな部分が多く,外向き的な感じがします。それと「何でも表現できる最小限の編成」といった性格もあると思います。Trio RFRのメンバーは,実は金沢出身者が含まれていないのですが,そういうメンバーが金沢で演奏活動を始めたというのは,とても嬉しいですね。是非,これからの活動に期待したいと思います。昨年はTBSドラマ「カルテット」が話題になりましたが...今年は「ピアノ・トリオ」のブームが来る...かもしれないですね。

PS. 演奏会の後,外に出てみると...ホール内の調和の取れた世界とは全く別のものすごい豪雨。傘を持ってこなかったので,ひどい目に会って帰宅することになってしまいました。梅雨なので仕方がないのですが...。

PS. 書き忘れましたが...TrioRFRというネーミングの由来も知りたいところです。また,今回は,「リサイタル」という名称を使っていましたが,主役が一人の時がリサイタルだと思っていたので,少々違和感を感じました。室内楽の場合,どちらを使うのか,あまり事例を知らないので迷うところです。

(2017/07/17)





公演のチラシ