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若松みなみヴァイオリン・リサイタル with ジヌゥ・パク
2017年7月13日(木) 19:00〜 金沢市アートホール

1) ドビュッシー/ヴァイオリン・ソナタ
2) モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタ第25番ト長調,K.301
3) サラサーテ/序奏とタランテラ op.43
4) マルティヌー/ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲第2番
5) フランク/ヴァイオリン・ソナタ イ長調
6) (アンコール)ピアソラ/オブリビオン
7) (アンコール)クライスラー/シンコペーション

●演奏
若松みなみ(ヴァイオリン),ジュヌゥ・パク(ピアノ*1-3,5-7),ソンジュン・キム(チェロ*4.6)



Review by 管理人hs  

この日の前週の土曜日から,5日間で回日目となるのですが,今回は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の第2ヴァイオリン奏者,若松みなみさんのリサイタルが行われたので聴いてきました。若松さんはOEKの中でも,最も若い世代の奏者で,今回が初めてのリサイタルとのことでした。というわけで,OEKファンとしては応援しないわけにはいきません。

今回のプログラムは,フランクのヴァイオリン・ソナタ,ドビュッシーのヴァイオリン・ソナタ,モーツァルトのヴァイオリン・ソナタ第25番を中心に,若松さんの演奏したい曲がしっかりと並んでいました。若松さんのヴァイオリンは,どの曲も,本当に音がしっかりと鳴っており,聴いていて惚れ惚れとしました。音が大変豊かで,音を聞くだけで幸福感を感じました。神経質な部分はなく,どの曲にも演奏する喜びが素直に表れていると感じました。

最初に演奏されたドビュッシーのソナタについては,若松さん自身によるプログラムの解説によると,「セピア色のパリ」のイメージと書かれていました。なるほどそんな感じだと思いながら聞いていました。この曲は,ドビュッシーの最晩年の名作ですが,実は,これまであまり聴いたことはありませんでした。今回の若松さんの演奏は,すっと耳になじみ,気持ちよく楽しむことができました。

モーツァルトのヴァイオリン・ソナタ第25番も健康的な演奏でした。ジュヌゥ・パクさんのまろやかなピアノと一体になって,常に笑みをたたえているような幸福感のある演奏だったと思います。第2楽章は短調になるのですが,どっと落ち込むような感じではなく,ほのかに悲しみが流れていくような感じでした。そこがまた魅力的でした。

前半最後に演奏された,サラサーテの「序奏とタランテラ」は,そのタイトルどおりの曲でした。前半の序奏部の音を聞いた瞬間,スペインの陽光が溢れてくるような気分になり,とても良い曲だと思いました。後半のタランテラの部分での技巧的な部分も気持ちよく楽しまてくれました。

後半は,若松さんのドレスが,前半の白から紫に変わっていました。私の近くに座っていた,ファッショナブルな雰囲気の女性が,とても嬉しそうな表情で拍手を送っていたのですが,視覚的にも楽しませてくれました。

後半は,まず,若松さんの同僚,OEKのチェロ奏者,ソンジュン・キムさんのチェロとの二重奏で,マルティヌーのヴァイオリンとチェロのための二重奏曲第2番が演奏されました。第1楽章から野性味があり,2人とも常に動き回っているような,生き生きとした演奏でした。静かな雰囲気の第2楽章の後,第3楽章は,どこかピアソラの曲を思わせる,クールな熱狂がありました。ソンさんのチェロの音にも屈託のない伸びやかさがあり,若松さんの演奏と息もぴったりでした。

曲の雰囲気的には,この曲だけは,やや苦み走ったような気分がありましたが,そのことによって,プログラム全体の中で,良いアクセントになっていたと思いました。

最後に演奏されたフランクのソナタも,若手奏者ならではの魅力が溢れてた,爽快な演奏でした。第1楽章はやや速目のテンポでさらりと始まり,凛とした音で,停滞することのない音楽を聞かせてくれました。第2楽章はシリアスな音楽になります。若松さんの堂々とした演奏を聴きながら,出てくる音楽も流れるように美しいけれでも,腕の動きも無理なく美しいなぁと感じました。

第3楽章には,熱さを秘めた歌がありました。深刻になり過ぎることなく,じっくりと音楽に浸らせてくれました。第4楽章も率直な演奏で,竹を割ったような爽快さで全曲を締めてくれました。ピアノのジュヌゥ・パクさんも,包容力のある演奏を聞かせてくれましたが,最後の最後の部分(この部分は結構,演奏するのが難しい部分だと思います)は,ちょっと張り切り過ぎた感じだったかもしれません。

フランクのヴァイオリン・ソナタについては,もっと鬱屈した感じであったり,はかなさを感じさせるような演奏でも魅力的ですが,今回の若松さんの瑞々しさと安定感のある演奏も素晴らしいと思いました。このところの金沢は,湿気が多く(梅雨が明けていないので仕方がありませんが),疲労がたまり気味でしたが,この演奏を聴いて,週末まで何とか働くエネルギーが湧いてきまいした。

終演後の拍手も大変暖かいものでした。アンコールでは,まず,3人全員でピアソラのオビリビオンが演奏されました,キムさんのチェロの豊かな音の中から,若松さんのヴァイオリンの音がすっと浮き上がってきて,聴いていてゾクゾクしました。それと...一瞬バンドネオンの音が聞こえたように錯覚しました。

アンコール2曲目では,「若松さんのリサイタル」ということで,若松さんのヴァイオリンとピアノ伴奏で,クライスラーのシンコペーションという曲が演奏されました。最初聞いた印象では,「リラックスした気分とラグタイムを思わせる軽妙さがあるな。誰の曲だろう。スコット・ジョプリンという感じでもないし...」と思って聞いていたのですが,後日,SNSで若松さんにお尋ねしたところ(便利な時代になりました),前述のとおりクライスラーの作品とのことでした。演奏会を軽快に締めてくれる,良い選曲だと思いました。

若松さんは,演奏後のあいさつで,「OEK入団後,金沢が大好きになりました」と語っていましたが,会場の雰囲気からは,若松さん自身,金沢のOEKファンからもしっかりと愛されているなぁということが実感できました。今後もソロや室内楽での活躍にも期待したいと思います。

(2017/07/17)





公演のポスター