OEKfan > 演奏会レビュー
いしかわミュージックアカデミー20周年記念スペシャルコンサート
2017年8月19日(土) 14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ハイドン/チェロ協奏曲第1番ハ長調 Hob. VIIb-1
2) モーツァルト/ヴァイオリン協奏曲第5番イ長調 K. 219「トルコ風」
3) メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲ホ短調 op.64
4) (アンコール)パガニーニ/カプリース〜第24番

●演奏
原田幸一郎指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:松浦奈々)*1-3
辻彩奈*2,神尾真由子*3(ヴァイオリン),新倉瞳(チェロ*1)



Review by 管理人hs  

夏休み期間中,金沢市で行われている若手演奏家のための講習会「いしかわミュージックアカデミー(IMA)」も今年で20回目となります。それを記念した「スペシャルコンサート」が石川県立音楽堂で行われたので,聞いてきました。

IMAは,ヴァイオリン奏者を中心に,世界的な音楽コンクールでの上位入賞者を続々と輩出しています。今回はその”代表”として,チェロの新倉瞳さん,ヴァイオリンの神尾真由子さん,辻彩奈さんという3人の「卒業生」が登場し,IMA全体の監督でもある,原田幸一郎さん指揮OEKと協奏曲を共演しました。いずれも大変聞きごたえのある演奏でした。

この日は最初,IMAの実行委員会会長でもある谷本石川県知事のあいさつがあった後,原田さんと神尾さんのインタビューがありました。神尾さんがIMAを受講されていたのは,中学1,2年の頃とのことです。

その後,新倉瞳さんが登場し,ハイドンのチェロ協奏曲第1番が演奏されました。新倉さんは,IMAを8回受講されたとのことで,「8月=金沢」という青春時代(?)を過ごされたことになります。この日は,3人の若い女性ソリスト3人が登場するとあって,ドレスの競演のようなところもありました。新倉さんは,水色の涼し気なドレスで登場しました。

ハイドンのこの曲は一見地味なのですが,第3楽章などをはじめ,非常に技巧的な曲です。新倉さんは,原田さん指揮OEKの安定感のある演奏と一体となって,技巧を誇示することなく,ナチュラルでしなやかな演奏を聞かせてくれました。「幸福な音楽のひと時」に浸ることができました。第2楽章での艶のある美音も魅力的でした。第3楽章は快適なビート感のある演奏で,弱音で続く,速いパッセージがとても心地よく感じられました。

この曲は,バロック音楽に近い,かなり古風なスタイルによる協奏曲なのですが,その端正な外観の中に,しっかりと新倉さんの思いが込められた,まとまりの良い演奏だったと思います。

続いて,今年度の受講生でもある辻彩奈さんが登場しました。辻さんも,IMAに参加するのは,今年で8回目ということです。ちなみにドレスの色は,紫でした。ただし,見る角度によっては,時々,青(?)に変化する不思議な色合いでした。辻さんの演奏の方も,このドレス同様に,大変ニュアンス豊かでした。

辻さんの音には,いつも真摯さと同時に密度の高さがあります。そして,ヴァイオリンの歌わせ方に,常にテンションの高さが秘められているのが素晴らしいと思います。今回のモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番でも,昨年までライジングスターコンサートで聞いて来た難技巧の独奏曲と同様の充実感のある演奏を聞かせてくれました。

辻さんは,いつもヴァイオリンをかなり高く持ち上げる感じで演奏されるのですが,第1楽章の入りの部分など,高貴な音が天から降ってくるようでした。その後も,シンプルな曲想の中に,常に絶妙のニュアンスの変化が付けられており,「プロ奏者によるモーツァルトだなぁ」と実感しました。

第2楽章での陶酔感のある美音も印象的でした。ひっそりと魅惑するような,情感の豊かさと優雅さを兼ね備えた素晴らしい演奏でした。第3楽章は,中間部で「トルコ風」に変化しますが,この部分を中心として,ドラマを感じさせる雄弁な演奏を楽しませてくれました。ちなみに,この部分でのオーケストラは,それほど大胆にトルコ風になるわけではなく,普通のコルレーニョという感じでした(4月に木嶋真優さんとヴァイオリン,鈴木優人指揮OEKでこの曲を聞いた時は,もっとスリリングな雰囲気があったと思います)。

前半の2曲は,OEKの方は,実は全く同じ編成(弦五部+オーボエ2+ホルン2)でした。演奏後の新倉さんと辻さんへのインタビューの時に,「原田先生と一緒に演奏できることがうれしい」とお2人は語っていましたが,両曲とも,その雰囲気通りのどっしりとした暖かみと包容力のある演奏を聞かせてくれました。原田さんの「まなざし」を感じさせるような,安心感があると思いました。

ちなみにこの日のコンサートミストレスは,松浦奈々さんでしたが,松浦さんもIMA出身者です。新倉さん(そして,後半に登場した神尾さん)とは,「幼なじみ」とのことでしたので,特に感慨深い演奏になったのではないかと思います。

後半は神尾真由子さんが登場し,メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲が演奏されました。神尾さんは,OEKとは何回か共演していますが,メンデルスゾーンをOEKと演奏するのを聞くのは今回が初めてだと思います。

神尾さんは,最近は,IMAの講師としても参加しているのですが,今回の演奏も,既に若手奏者による演奏という雰囲気ではなく,女王様的な貫禄のある聞きごたえたっぷりの演奏となっていました。裾の長い,鮮やかな青のドレスで登場した神尾さんの雰囲気は,大物女優的なオーラを漂わせているようでした。

第1楽章の冒頭部から,通常聞くこの曲とはかなり違った雰囲気の歌わせかたをしていました。ヴィブラートをしっかり聞かせ,かなり弱い音から入っていたので,どこかギクシャクした感じに聞こえたのですが,次第に音量がアップし,神尾さん独特の凛とした鋭い響きが出てきたり,スケール感たっぷりの雰囲気になってきました。第2主題での「影のある女性」を演じているような,じ〜っくりとした歌わせ方とのコントラストも鮮やかでした。

メンデルスゾーンのこの曲については,個人的には叙情的にサラリと演奏する方が良いような気もするので,要所で大見得を切るような起伏の大きな演奏は,「やり過ぎ」のような気もしましたが,聴衆の耳をぐっと引き付けるアピール力は素晴らしいと思いました。

反対に第2楽章では,たっぷりとヴィブラートを掛けて熱く歌っていたけれども,全体的には抑制した美しさがあると思いました。第3楽章では軽やかな躍動感を感じさせてくれました。この楽章の最初の部分は,テンポが合いにくいのですが,OEKとの息もぴったりでした。

ただし,どの楽章のどの部分について,「神尾さんの意識」が隅々まで行きわたっている感じで,メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲というよりは,神尾さんのヴァイオリン協奏曲といった演奏に感じられました。「常に意識的,常にチャレンジング」という感じがあり,少々疲れる面もあったかもしれません。その点で,少々好みが分かれる演奏だった気がしました。いずれにしても,神尾さんの音の迫力と個性の強さを感じることのできる演奏だったと思います。

アンコールでは,お得意のパガニーニのカプリースの中から,いちばん有名な第24番が鮮やかに演奏されました。

この日は夏休み中ということもあり,親子連れのお客さんや中高生のグループが大勢聞きにきていました。今日の演奏を機会に,未来のIMA受講生が出てくることを期待したいと思います。

(2017/08/24)




公演のポスター


公演の案内


いしかわミュージックアカデミーの案内


交流ホールでは,ピアノの講習を行っていました(休憩時間だったのではないかと思います)。


コンサートホール。スライドが出ていましたが,どうせながら,講習会の様子の写真をスライドショーで見たかったところです。