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IMAライジングスターコンサート2017
2017年8月20日(日)18:00〜 石川県立音楽堂交流ホール

1) バッハ, J.S./無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調,BWV.1001
2) ヴィェニャフスキ/創作主題による変奏曲, op.15(途中まで)
3) チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲ニ長調,op.35〜第3楽章
2’) ヴィェニャフスキ/創作主題による変奏曲, op.15(途中から)
4) ベートーヴェン/魔笛の主題による7つの変奏曲変ホ長調, WoO.46
5) フバイ/カルメンによる華麗な幻想曲,op.3-3
6) ラヴェル/ラ・ヴァルス
7) ブラームス/ピアノ三重奏曲第1番ロ長調, op.8〜第1楽章

●演奏
外村理紗*1, ドンミン・イム*2, シューハン・リー*3, ナキョン・カン*5(ヴァイオリン), 金子遥亮(チェロ*4), ユリ・ノ(ピアノ*6),IMA受講生によるスペシャルトリオ(吉江美桜(ヴァイオリン),牟田口遥香(チェロ),渡邉朋恵(ピアノ))*7

伴奏者:ヤンヒー・リー*2, 5,鶴見彩*4, 三又瑛子*3(ピアノ)



Review by 管理人hs  

今年で20周年となる,いしかわミュージックアカデミー(IMA)のライジングスターコンサートを聞いてきました。このコンサートは,前年度のIMA音楽賞受賞者を中心とした若手奏者が続々と登場するコンサートです。IMA音楽賞受賞者からは,毎年必ず,国際的な音楽コンクールでの上位入賞者を輩出しています。恐らく,今日聞いた人の中からも,世界的に活躍する奏者が出てくることでしょう。

今回は次の皆さんが出演しました。
  • ヴァイオリン:外村理紗, ドンミン・イム, シューハン・リー, ナキョン・カン
  • チェロ:金子遥亮
  • ピアノ:ユリ・ノ
  • IMA受講生によるスペシャルトリオ(吉江美桜(ヴァイオリン),牟田口遥香(チェロ),渡邉朋恵(ピアノ))

今回も水準の高い演奏の連続でした。どの奏者も,技巧的に不安定なところはなく,表現力,技の切れ味,音の迫力...といった一段階上のレベルで聴き比べをするような聴きごたえ十分の演奏会でした。

今回の奏者の中では,韓国のドンミン・イム(ヴァイオリン)さん,台湾のシューハン・リー(ヴァイオリン)さんについては,演奏した曲自体,技巧が前面に出る曲だったこともあり,その音の迫力と技巧の切れ味の良さ間近で体感できました。2人とも平然と弾いているところが心憎いところです。

特にドンミン・イムさんの方は,途中で弦が切れるハプニングがあり,再度,途中から弾き直すハプニングがありましたが,これもまた,演奏の強靭さを裏付けているように感じました。非常に激しくビブラートを掛けていましたので,切れても不思議でないかなと思わせるほどでした。

シューハン・リーさんは,チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の第3楽章を演奏しましたが,既にこの曲を何回も演奏しているような,堂々たる貫禄のようなものを感じました。あまりにも平然とストレートに演奏していたので,やや面白味に掛けるかなと思わせるほどでした。

ただし,強靭だから良いというわけでもなく,金子遥亮さんの自然な表情の動きを持ったチェロの演奏を聞きながら,実に人間的で良いなぁと感じました。変奏曲ということで,時折,弱くくじけそうな雰囲気になる部分もあったのですが,そういった部分が,逆に魅力的に感じられました。

最初に演奏した,外村理沙さんのヴァイオリン独奏によるバッハの無伴奏ソナタ第1番にも,内面から溢れてくる,しみじみとした味わいと暖かみが感じられました。4つの楽章は,急-緩-急-緩の配列でしたが,全楽章を通じて,「無心の美」といった趣きがあり,誠実で衒いのない美しさに溢れていました。最終楽章でテンポが速くなると,前楽章での落ち着いた世界から,大きな世界へとパッと広がるような新鮮さを感じました。生き生きとした伸びやかさが特に素晴らしいと思いました。

後半に登場したナキョン・カンさんは,15歳に満たない方でしたが,全ての点でバランス良く,高い水準でまとまっているのが凄いと思いました。この方だけは,過去のIMA音楽賞受賞者ではないのですが,今後,「天才少女」として注目を集めるようになるのかもしれません。力みと迷いのない心地よい音が素晴らしく,カルメン・ファンタジーを軽やかにノリ良く効かせてくれました。

ピアニストとしては,韓国のユリ・ノさんだけが登場しました。この方のラヴェル「ラ・ヴァルス」もお見事でした。前半のミステリアスな雰囲気から,華麗なワルツに変化し,ダイナミックに盛り上がっている曲想を非常にクリアに再現していました。最初の部分では,「壁の向こうから舞踏会の音が漏れ聞こえてくる」ような混沌を表現しているのですが,その混沌でさえ鮮やかで生き生きと楽しむことができました。グリッサンドが何回も出てくる,終盤も大げさになり過ぎることなく,気持ちよく清潔感のある華麗さを楽しませてくれました。

演奏会の最後は,吉江美桜さん(ヴァイオリン),牟田口遥香さん(チェロ),渡邉朋恵さん(ピアノ)による,ブラームスのピアノ三重奏曲第1番の第1楽章でした。ソロ演奏が続いた後,最後に室内楽で締めるというのは落ち着きますね。ヴァイオリンとチェロの2トップの音のハモリが大変心地よく,ピアノがそれをしっかりと支えていました。若々しさと同時に落ち着きを感じさせてくれる,トリに相応しい演奏だったと思います。

以上のとおり,若い奏者たちの個性をしっかりと楽しむことができました。演奏した曲に応じて,それぞれの奏者が,適切な表現で演奏していたのが何よりも素晴らしいと思いました。IMAのコンサートについては,翌々日に講師の先生方とOEKメンバーによる室内楽コンサートが行われました。先生方の演奏と比較すると,エネルギーに溢れた演奏を聴き続けるのは,少々疲れる面もあるのですが,毎年,ライジングスターコンサートを聞いていると,若い奏者だからこそ,表現できるものもあると感じます。今回出演した奏者の中から,世界的に活躍する人が沢山登場することを期待したいとお思います。

(2017/08/24)




公演のポスター


公演の案内


交流ホールの様子