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音楽堂室内楽シリーズ第2回:IMA&OEKチェンバーコンサート
2017年8月22日(火)  19:00〜 石川県立音楽堂交流ホール

1) ラヴェル/弦楽四重奏曲へ長調
2) ドビュッシー/ヴァイオリン・ソナタ
3) ラヴェル/序奏とアレグロ
4) フランク/ピアノ五重奏曲ヘ短調

●演奏
原田 幸一郎*1,神谷 美千子*3-4,レジス・バスキエ*4,,ロラン・ドガレイユ*2,ホァン・モンラ*3(ヴァイオリン)
毛利伯郎(チェロ*1,4),鈴木慎崇*2, ハエスン・パイク*4(ピアノ),平尾祐紀子(ハープ*3)
OEKメンバー(ヴォーン・ヒューズ(ヴァイオリン*1),丸山萌音揮*1,4, 石黒靖典*3(ヴィオラ),大澤明(チェロ*3),岡本えり子(フルート*3),遠藤文江(クラリネット*3)



Review by 管理人hs  

いしかわミュージックアカデミー(IMA)期間中に行われる,アカデミーの講師たちとオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)メンバーによる室内楽公演もすっかり定着しました。毎年,熱のこもった,講師の面目躍如たる演奏を楽しむことができます。今年のプログラムは特に素晴らしい演奏の連続でした。

今年はフランス音楽中心のプログラムで(後半に演奏されたフランクはベルギー生まれですが,フランスで活躍した人なのでフランスの作曲家といっても問題はないと思います),演奏会全体としての統一感があったのに加え,IMAの講師であるヴァイオリン奏者たちが4曲に分散しており,それぞれの曲と演奏者の個性を楽しむことができました。

1曲目のラヴェルの弦楽四重奏曲は,原田幸一郎さん中心の演奏でした。原田さんといえば,東京クワルテットの初代第1ヴァイオリンとして知られていますが,弦楽四重奏のメンバーとして聞く機会は,近年は意外に少ない気がします。個人的には,何よりも弦楽四重奏団のメンバーとしての原田さんの演奏を聞くことができたのが嬉しかったですね。

演奏の方ですが,冒頭から,原田さんのヴァイオリンを中心とした柔らかな響きが印象的でした。今回,大変前の「かぶりつき」のような座席で聞いていたこともあり,奏者の間のアイコンタクトがとてもよく分かりました。チェロの毛利さんの表情がキッと厳しくなった瞬間,音楽の方も激しい嵐のように変化したり,各パートの間で音が飛び交ったり,臨場感たっぷりの演奏を楽しむことができました。キビキビとした若々しい表現と柔らかな音との対比も鮮やかでした。

第2楽章の前半は,ピツィカートを中心とした若々しい楽想でしたが,途中から各楽器が弱音器を付け,素晴らしい効果を上げていました。特に原田さんのヴァイオリンの音の何とも表現できないような,くすんだ音が素晴らしいと思いました。じっくりと聞き入ってしまいました。第3楽章も弱音器を使っており,その精緻な世界を堪能できました。曲の内面に向かって,未知の世界が広がって行くような,密度の高さを感じさせてくれました。

第4楽章は生き生きと,激しく盛り上がって終わるのですが,雑な感じにならないのが見事だと思いました。

2曲目は,ロラン・ドガレイユさんと鈴木慎崇さんによって,ドビュッシーのヴァイオリン・ソナタが演奏されました。この曲では,ドガレイユさんの音の引き出しの多さに感激しました。最初の音から,フランスの香りと言ってもよさそうな。艶と高級感がありました。その一方,強い音を出す時には,ほとんど飛び跳ねるように演奏し,ダイナミックで切れ味の良さを感じさせてくれました。それでいて声高に叫ぶような感じにはならず,常に微笑みをたたえているような暖かみがありました。

その後,スケルツォ風の第2楽章,全体のまとめのような感じの第3楽章と続きましたが,ドガレイユさんは,完全にこの曲を手の内に入れてしまっており,ドビュッシーの晩年の名作を集中力たっぷりに聞かせてくれました。

演奏後,ドガレイユさんは,ピアノの鈴木さんをしきりに讃えていましたが,鈴木さんのピアノからも,ドガレイユさんのヴァイオリンにぴったりとマッチした,高級感と香りが感じられました。ヴァイオリン,ピアノともに「お見事!」と
いう感じの演奏でした。

前半最後は,ラヴェルの「序奏とアレグロ」が演奏されました。弦楽四重奏にハープ,フルート,クラリネットが加わった7人編成の曲で,この日演奏された曲の中ではいちばん大きな編成でしたが,印象としては,いちばん静かな感じでした。

この曲では,各楽器の音の溶け合い方が本当に素晴らしいと思いました。冒頭部をはじめとして,フルートの岡本さんとクラリネットの遠藤さんがハモるような部分が多かったのですが,違う楽器だとは思えないほど,しっかりと溶け合っていました。第1ヴァイオリンはホァン・モンラさんでしたが,こちらの方も,神谷美千子さんの第2ヴァイオリンやOEKの石黒さん,大澤さんと一体となった繊細で心地よい響きを作ってくれました。

そして,この曲では何といってもハープの平尾祐紀子さんの上品なきらびやかさが印象的でした。途中,カデンツァもあり,控えめながらも,主役としての存在感をアピールしていました。平尾さんの見るからに優雅な雰囲気も,この曲にはぴったりだと思いました。

初めて聞く曲でしたが,ミステリアスで詩的な雰囲気があり,どこかドビュッシーや武満徹の曲を思わせる「海」とか「水」のムードがあるのが面白いと思いました。夏の朝夕の静かな海の雰囲気をイメージしながら聞いてしまいました。

後半演奏された,レジス・パスキエさんを中心としたフランクのピアノ五重奏曲は,特に熱気に溢れた演奏でした。パスキエさんはかなり高齢なはずですが,ビシッと締まった硬質の音と演奏に対する気迫が素晴らしく,冒頭の和音から一気に聴衆をフランクの世界に引き込んでくれました。「魂のヴァイオリン」といった趣きがあり...感動しました。

この日は,非常に前の方の席で聞くことができたのですが,パスキエさんの使っている譜面の紙は古く,ボロボロ。この曲を若い頃から弾き込んでいるのだな,ということが伝わってきました。他の奏者たちも,このパスキエさんの気迫にしっかりと応えていました。ユニゾンで演奏する部分での音の迫力,所々入れていた大きな間での緊迫感。最初から最後まで,緊張感が途切れず,曲の終盤に行くほど,大きく盛り上がっていくのが素晴らしいと思いました。その一方,全体を支えるハエスン・パイクさんのピアノの音には,どこか艶っぽい美しさがあり,曲全体のイメージに膨らみを持たせているようでした。

第2楽章は悲しみに溢れた世界が広がっていましたが,この中にも常に気迫とエネルギーがひそんでしました。第3楽章は3拍子系のリズムでしたが,この楽章でも緊張感は途切れることはなく,大きく音楽が盛り上がって全曲が締められました。

全曲を通じて,パスキエさんのエネルギーが凄いと思ったのですが,このパスキエさんを盛り立てようとする,その他のメンバーのバックアップも素晴らしいと思いました。5人の奏者が一体となって,スケールの大きな音楽を作っていた,感動的な演奏でした。

というわけで,今回の演奏会では,違った編成の4曲のそれぞれの魅力を最大限に楽しむことができました。そして,間近で聞く室内楽の面白さ(CDで聞くのとは全く違った印象)をしっかりと味わうことができました。IMA受講生によるライジングスターコンサートも凄かったのですが,講師による室内楽公演それとは別の方向で凄い演奏の連続だったと思います。IMAを受講生たち(OEKの奏者たちもそうですが)の目標になるような素晴らしい演奏だったと思います。

(2017/08/24)




公演のポスター


公演の案内