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オーケストラ・アンサンブル金沢 富山特別公演 with 合唱団OEKとやま ヴェルディ:レクイエム
2017年8月27日(日) 15:00〜 富山県民会館

ヴェルディ/レクイエム

●演奏
山下一史指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
砂川涼子(ソプラノ)鳥木弥生(メゾ・ソプラノ),所谷直生(テノール),伊藤貴之(バス)
合唱:合唱団OEKとやま(合唱指揮:内山太一,谷崎修一)



Review by 管理人hs  

昨年まで,毎年のように夏休み中にオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と共演してきた「合唱団おおやま」が,名称を「合唱団OEKとやま」と変え,ヴェルディの「レクイエム」をOEKと共演しました。これは聞き逃せないということで,夏休み最後の日曜日,金沢から富山に高速バスで出向いて,1時間30分近く掛かる大作を聞いてきました。実は,私自身,これまでこの曲を実演で聴いたことはありません。それどころか,今回が北陸初演ということです。

この曲については,強烈な4つの和音で始まる「怒りの日」の最初の方だけは,テレビのBGMなどで,非常によく耳にするのですが,全曲となるとなかなか聞く機会はありません。私の場合,大昔,FM放送からエアチェックをしていた1980年代に,何回か全曲を聞いた記憶はあるのですが(アバド指揮ミラノスカラ座の来日公演のライブ録音とか),CD時代になってからはかえって聞かなくなってしまいました。今回,久しぶりにじっくりと予習をして聞きに行くことにしました。

実演で初めて聞いた感想は,「ヴェルディの気合い入りまくりの曲だ。すごい」と,この曲の良さを肌で実感できました。私にとっては,CDだと,何故か聞き通せない曲だったのですが,実演だと全く退屈することなく,オペラ風味をもった壮大な宗教曲を丸ごと楽しむことができました。

その理由は,今回の演奏の水準の高さによると思います。そして,そのいちばんの原動力になったのは,何といっても,山下一史さんと「合唱団OEKとやま」の皆さんの長年の信頼関係の力だったと思います。プログラムによると2002年の「合唱団おおやま」の第7回演奏会以降,山下さんとは14回目の共演とのことです。この強いつながりが,集中力と熱気を持った演奏のエネルギーになっていたと感じました。

そして,藤原歌劇団に在籍する4人のソリスト,兵庫芸術文化センター管弦楽団(PACオケ)のメンバーを加えて増強されたOEK。これらが一体となって,「合唱団OEKとやま」のデビューコンサートに相応しい,充実感のある演奏を生んでいました。

今回の会場は,富山市役所のすぐ向かいにある,富山県民会館でした。以前に一度来たことがあるのですが,ホール全体がきれいにリニューアルされていました。音楽専用のホールではなく,多目的ホールなので,残響は少な目で,今回の大編成にしては,ややホールの容積が小さいと感じましたが,その分,迫力たっぷりの生々しい音楽をクリアに楽しむことができました。

 
富山県民会館の外観と入口

第1曲の「レクイエムとキリエ」から,生の演奏は良いなと思いました。冒頭部については,CDだと「音が小さすぎてよく聞こえない」ところもあるのですが,実演だと,非常にくっきりと細かいニュアンスまで感じ取ることができました。エネルギー量が全然違うと感じました。合唱団の声からは,クリアな透明感を感じました。

「キリエ」の部分は,所谷直生さんのテノールから始まります。その若々しく,ビンビンと響く声も素晴らしものでした(実は,今回はかなり早くチケットを買ったこともあり,ものすごく良い席だったのです。)。

第2曲の「怒りの日」は,「怒りの日(「怒りの日」の中の「怒りの日」ということになります)から「涙の日」まで9曲が連続的に演奏されるセクエンツィアなのですが,この部分が,オペラの一つの幕を見るように,多彩な音楽が詰め込まれていてやはり,ヴェルディはすごいと思いました。

最初は,有名な「怒りの日」です。強烈な和音が続いた後,合唱が入って来るのですが,この部分での引き締まった充実感が素晴らしいと思いました。その後,合いの手のように大太鼓が入る部分が大好きです(OEKの渡邉さんが担当されていました)。その音も壮絶に響いていました。弦楽器の細かい音動きなども,うねるようにくっきり聞こえました。ヴェルディのレクイエムは,往年の名指揮者,カラヤンが非常に得意にしていた曲ですが,そのアシスタントをされていた山下さんの指揮ということで,師匠直伝の迫力があるな,と感じました。

この部分では,大音量の部分だけでなく,「怒りの日」の後半に出てくる,合唱のソット・ヴォーチェの部分(文字通り,声をひそめてソット歌う部分。この部分も,個人的にとても好きな部分です)などでは,非常に生々しく聞こえ,ゾクゾクしました。

ただし,この「怒りの日」は,熱狂的に荒れ狂う感じではなく,じっくりと迫力のある声の力を聞かせてくれました。100人以上からなる合唱団のパワーは素晴らしいと思いました。

その後の「トゥーバ・ミルム」では,トランペットの別動隊が「どこで演奏する?」かが楽しみでした。私の席からはどこで演奏していたのか分からなかったですが,山下さんの様子からすると,ホールの両袖の上の方(お客さんからは見えない場所)に居たようです。山下さんは半分以上,客席の方に体の向きを変えて指揮されていました。この部分での,爽快かつ立体的に音が広がる感じも素晴らしいと思いました。今回,オーケストラのメンバー表が付いていなかったのが残念だったのですが,恐らく,PACオケの方が活躍されていたのだと思います。その後に出て来た,バスの伊藤貴之さんのしみじみとした深い声も素晴らしいと思いました。

次の曲以降は,ソプラノとメゾソプラノによる二重唱,テノールの独唱など,「ほとんどオペラ」みたいな部分が続々と出てきました。4人のソリストは,みなさん本当に素晴らしかったのですが,このセクエンツィアでは,金沢ではお馴染みのメゾ・ソプラノ,鳥木弥生さんの存在感が特に大きかったと思いました。鳥木さんの声は,聞いた瞬間,「ヴェルディのオペラだ」的な充実感がありました。

「書き記されし書物は」の部分は,不気味さのある合唱との対比が面白いと思いました。「憐れあるわれ」もメゾ・ソプラノが活躍しましたが,その背後で対旋律を演奏しているファゴットもしみじみと良い味わいを出していました。この曲では,随所で木管楽器が”隠し味”のように活躍するようなところがあるのが今回よく分かりました。

「みいつの大王」は,「マエストーソ」という感じの堂々たる合唱の声が印象的でした。ソプラノの砂川涼子さんの壮大な合唱の中から突き抜けて聞こえてくる強い声が良いなぁと思いました。

「思い給え(レコルダーレ)」での砂川さんと鳥木さんの二重唱を聞きながら,「そういえば,7月のOEK定期公演では,鷲尾麻衣さんと鳥木さんの二重唱を聞いたなぁと,「思い出し」ました。「われは嘆く」でのテノールの所谷さんのストレートで真摯な声も印象的でした。そのうち,今回の藤原歌劇団の皆さんの共演で,是非,ヴェルディのオペラでの歌唱を聞いてみたいと思いました。

「判決を受けたる呪われしものは」でも,バスの伊藤さんが内容の詰まった充実の歌を聞かせてくれました。その後,「目覚まし(?)」のような感じで「怒りの日」がやや短縮されて再現された後,セクエンツィアの最後の「涙の日」になります。この部分での,鳥木さんの「泣かせる歌」は特に素晴らしいと思いました。鳥木さんの登場したオペラでは,「滝の白糸」「蝶々夫人」でも,情感豊かな声を聞かせてくれましたが,今回もしっかりと気分を盛り上げてくれました。

そして,この「涙の日」の最後の部分の雰囲気がいいなぁと思いました。ちょっと明るく転調して,静かに終わる感じが,いかにも「ヴェルディのオペラにありそう」で,終結感と期待感が混ざったような後味を残してくれました。

第3曲から後も,「ヴェルディの総決算」のような色々な曲が続きました。「奉献唱(オッフェトリウム)は,6/8拍子たっだので,どこか舟歌のような,ちょっとリラックスさせてくれる気分がありました。ソプラノとヴァイオリン2本が絡む辺りの陶酔感も印象的でした。

「サンクトゥス」は合唱だけで歌われます。落ち着きと同時に輝きを感じさせてくれ,山下さんと合唱団の長年のつながりの強さのようなものを感じました。コーダでの,OEKの輝きのあるビシッと締まった響きも素晴らしいと思いました。

ちなみにこの日の編成には,ヴェルディのオペラでよく使われているチンバッソが入っていました。調べてみると,オリジナルでは,オフィクレイド(メンデルスゾーンの「夏の夜の夢」でも指定されている楽器ですね)が入るようですが,その代わりにチンバッソを使っていたようです。テューバほど重すぎない感じがイタリア・オペラ的で,こういう部分では効果的に響いていたと思いました。

「アニュス・デイ」はユニゾン中心の素朴な感じの曲です。こうやって続けて聞くと,本当に色々なタイプの曲が詰め込まれているなと感心します。

「ルクス・エテルナ」は,ミサの中心である聖体拝領の場に相応しい神秘的な雰囲気がありました。光を表現するようなヴァイオリンのトレモロの中,メゾ・ソプラノが加わると,暖かさが加わったような雰囲気になります。中間部,コントラバスなどの低弦が加わる部分があったのですが,その充実した響きも印象的でした。この日のコントラバスは5人に増強されていましたが,その効果が出ていたと思いました。

そして,最後の「リベラ・メ」では,レクイエム全体を回想するような,聞きごたえを感じさせてくれました。この部分では,ソプラノの砂川涼子さんの声が見事でした。「リアルな朗誦」のようなソロも印象的でしたが,合唱とソプラノが一体になった時の,中から浮き上がってくるような,高揚した声の力も素晴らしいと思いました。

最後の方で,「怒りの日」が再現したり,二重フーガが出てきたリ,合唱団の皆さんには,最後まで,エネルギーと集中力が必要だったと思いますが,素晴らしい盛り上がりを聞かせてくれました。二重フーガの部分では,ヴェルディの音楽がいちいち「ジャン,ジャン」と念を押すよう感じで,結構,泥臭い(?)感じもしたのですが,それが音楽全体の熱さにつながっていたと思いました。

曲の最後の部分では,暖かみのある静けさに包まれ,「終わったな〜」という充実感をしっかりと味わうことができました(フライングではありませんでしたが,拍手が入るのがちょっと早かったかもしれないですね。)

この日の演奏は,休憩なしで一気に演奏されたのですが,とても良かったと思いました。日常の些事や夏の暑さ(?)を忘れて,充実した時間を楽しむことができました。一気に演奏して良かったと思いました。

今年の私の夏は,7月中旬,大阪で聞いた井上道義さん指揮大阪フィルによるバーンスタインの「ミサ」で始まり,8月末の富山でのヴェルディのレクイエムで終わった感じです。とても良い「夏の思い出」となりました。本日の演奏を聞いて,「合唱団OEKとやま」の今後の活躍がますます楽しみになりました。毎年,夏の思い出作りに富山に来たいものだと思いました(実は,この日,金沢から富山の間を走る高速バスの回数券を購入しました。5往復分(7700円)買ったので,少なくともあと4回は大丈夫です。)。

その一方,富山県民会館は,100人編成だとやや小さい気がしたので,残響の豊かな石川県立音楽堂コンサートホールで聞いてみたい気もしました。ヴェルディのレクイエムは,北陸初演というほどには大編成ではなかったと思いますので(トランペットは大勢必要ですが),是非機会があれば,「金沢初演」にも期待したいと思います。



その後,せっかく富山市まで来たので,ホール付近を散策しました。
 
おわら風の盆の宣伝             ホールには雰囲気の良い雑貨店が併設されていました

 
富山県美術館はこの日の前日にオープン。 ホールの隣にあった橋の方に向かいました。

 
川(運河?)には船。松川遊覧船という名前でした。どこまで行くのか一度乗ってみたいものです。
 
遊覧船乗り場の隣には,富山城がありました。今回は門をすこしくぐっただけで引き返しました。


富山市役所です。かなりインパクトのある建物でした。

(2017/09/02)




公演のポスター


ホールは2階にありました。この吹き抜けの感じは記憶に残っています。


チケットのもぎりは高校生(?)でした。


開演前のステージと客席の雰囲気


終演後です。客席から手を振ると合唱団が手を振り返す...という良い雰囲気だったので,ついつい撮影してしまいました。


この日は富山まで高速バスで往復。スタートは兼六園下