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金沢ジャズ・ストリート2017 オープニングコンサート
2017年9月16日(土) 13:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

Part I
1) 秋吉敏子/Long Yellow Road
2) ガーシュイン(秋吉敏子編曲)/I Love you, Porgy
3) ハーライン(秋吉敏子編曲)/星に願いを
4) 秋吉敏子/The Village(木更津甚句モチーフ)
5) ヴァン・ヒューゼン/Polka Dots And Moonbeams
6) バッハ,J.S./Bach (インヴェンションから)
7) バド・パウエル/Tempus Fugit
8) 秋吉敏子/Hope (Hiroshima Rising The Abyssから)
※ 以上はプログラムに記載されていた曲。このうち,1,2,7,8を含む7曲を演奏。3,6は演奏していなかったと思います。
●演奏
秋吉敏子(ピアノ)

■Part II
ポンティ(TGarland'12編曲)/On My Way to Bombay
ポンティ(TGarland'12編曲)/Last Memories of Her
ロジャース(トーリング編曲)/マイ・フェイヴァリット・シングズ
トーリング/Begejstrings

●演奏
マッズ・トーリング(ヴァイオリン)
村上寿昭指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)

■アンコール
曲名不明
●演奏
秋吉敏子(ピアノ),マッズ・トーリング(ヴァイオリン)



Review by 管理人hs  

金沢市内で毎年9月に行っている「金沢ジャズ・ストリート2017」のオープニングコンサートにオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)が登場し,ジャズ・ヴァイオリン奏者のマッズ・トーリングと共演。さらには伝説的なジャズピアニスト,秋吉敏子も登場するということで,秋の3連休の初日の午後,石川県立音楽堂コンサートホールに聞きに行ってきました。

金沢ジャズ・ストリート(KJS)も今年で9回目で,ラ・フォル・ジュルネ金沢とほぼ同様の歴史を持っているのですが,実はこれまで1回も有料コンサートを聞いたことがありませんでした。が,OEKが出演するとなると,ファンとしては聞きにいかないわけにはいきません。

KJSは,ラ・フォル・ジュルネのように,45分単位でハシゴをするようなスタイルではなく,有料公演については通常の公演ぐらいの長さ(ジャズの演奏会の長さはよく知らないのですが)があります。この日の公演も,前半が秋吉さんのソロ,後半がトーリングさんとOEKの共演から構成された,約2時間の公演でした。

 ホールの雰囲気

前半に登場した秋吉敏子さんは,日本のジャズピアニストで初めて世界的に活躍された方です。年齢のことを言うのは失礼かもしれませんが,クラシック音楽のピアニストで言うと,数年前OEKと共演した,イェルク・デームスあたりと同世代になります。80代のピアニストが現役で活躍されているというだけで,素晴らしいのですが,その演奏も味わい深いものでした。

秋吉さんは,トークをまじえつつ,全部で7曲演奏されました。ただし,配布されたプログラムには8曲書いてあったのですが,一部省略されたようです。秋吉さんのトークを聞いて演奏されたのが確実だったのが,上記のとおりです。「星に願いを」や「バッハ」の曲は弾いていなかったと思います。

この日は,3階で聞いたこともあり,やや音圧的には遠く感じました。ピアノの蓋をあまり開けていなかったのですが,そのせいもあったのかもしれません。さすがに,速いパッセージについてはスムーズでない部分はあった気はしましたが,特にしっとりとした雰囲気をもった曲での,淡々とした語り口が実に味があると思いました。

最初に演奏した「Long Yellow Road」は,秋吉さんの「Signatureのような曲」とのことです。実は,この日「サイン入り色紙」を目当てに秋吉さんのCDを1枚購入したのですが,このCDの1曲目もこの作品でした。秋吉さんが初めてアメリカを訪問した当時の東洋人に対する人種差別的な空気を盛り込んだ作品ですが,秋吉さんのその後の活躍はそれへの反発による面もあると思います。その点で,秋吉さんの原点といっても良く作品です。


秋吉さんのサイン会はなかったのですが,CDを購入したら,直筆のサイン入り色紙がついていました。

その後,ガーシュインの「ポーギーとベス」の中の曲(プログラムでは,「I Love You, Porgy」となっていましたが,オリジナルは「I Loves You, Porgy」とわざと「Loves」となっていたはずです)など数曲が演奏されまいた。この辺の曲は,やはりもっと狭い場所で,ウィスキーなどを飲みながら(どうも発想が貧困になってしまいます),聞いてみたいものです。

バド・パウエルの曲は,秋吉さんがもっとも影響を受けたピアニストということで取り上げた曲のようです。80代のピアニストとは思えない「速弾き」を聞かせてくれました。

「毎回,演奏会の最後に演奏しています」という「ホープ」という曲(広島や長崎への原爆投下に関する秋吉さんの自作の曲でデューク・エリントンに捧げた長い曲の最後の部分,という説明をされていたと思います)が,前半の最後に演奏されました。この曲での,どこか爽快さと前向きな気分のある演奏も素晴らしいと思いました。

秋吉さんは前半が終わった後,すぐに袖に引っこんでしまいましたが,淡々とした雰囲気の中に堂々とした貫禄が漂っていました。長年のライブで鍛えられた,何物にも動じない,地にしっかり足の着いたステージだったと思いました。

 
秋吉さんの著作を図書館から借りて読んでみました。秋吉さんの音楽人生を振り返る,面白い内容でした。ちなみに秋吉の「秋」は,「穐」という旧字体を使っていました。

後半は,デンマーク出身のヴァイオリニスト,マッズ・トーリングさんが登場し,村上寿昭指揮OEKと共演しました。こちらの方は,OEKの定期公演で言うところの,ファンタスティク・オーケストラコンサートのような雰囲気があると思いました。トーリングさんのヴァイオリンについては,バランスが悪くならない程度にPAを使っており,リラックスした余裕のある音がしっかりとホール全体に広がっていました。

演奏の技巧的にも素晴らしく,時折,「粋なポルタメント」のような奏法を交える以外では,通常のクラシックの演奏会と大きな違いはないと感じました。その点で,ジャズの本道(?)という感じではなく,クロスオーバー的な雰囲気がありました。

その点については,トーリングさん自身も意識しており,「餅アイスクリーム(どこで食べたのでしょうか?私も好きです)」のように,色々な音楽をフュージョンするのが私の音楽と語っていました(英語で言っていたので細かい部分は分かりませんが)。

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# 私は「雪見だいふく」でもノープロブレムです。

最初に演奏された2曲は,リュック=ポンティという人の作品で,プログラムの解説によると,ポンティのバンドが世界ツアーを行った時の印象をもとにした作品とのことでした。前半がピアノ独奏だったので,まず,後半が始まった途端,カラフルだなと感じました。OEKの編成の中にもドラムスやピアノも加わっていたこともあり,ミディアムテンポで軽快に楽しませてくれる感じでした。

それと演奏の中に,デンマーク出身という北欧のテイストや民族音楽的な親しみやすさの要素が入っているように感じました。北欧には確か民族的なヴァイオリンがあったはずですが,その辺が大きな個性になっていると思いました。

次の「マイ・フェイヴァリット・シングズ」は,ジャズの定番曲ですね。解説には,ジョン・コルトレーンのバージョンからヒントを得た演奏と書かれていましたが,熱くなり過ぎることなく,ふんわりとした印象で,リラックスして聞かせてくれました。

最後にこの日の最大の聴きものである,「Begejstring(デンマーク語で「心からの喜び,熱狂」といった意味)というタイトルを持った,ヴァイオリン協奏曲的作品が演奏されました。3楽章からなり,25分ぐらいかかっていましたので,ジャズとして作品と言えます。

解説には指揮者のマイケル・モーガンの委嘱で書かれた曲と書かれていましたが,このモーガンさんは,OEKを指揮したこともある方だと思います。クラシック音楽界も色々なところでつながっていますね。

この作品ですが,非常に面白い作品でした。通常の協奏曲のように,堂々と始まった後,中間楽章で叙情的になり,最終楽章は大きく盛り上がるというクラシカルな構成でしたが,前述のとおり,色々なジャンルの要素を巧く盛り込んでおり,飽きることなく楽しめる作品となっていました。

第1楽章は「可能性」,第2楽章は「理解」,第3楽章は「歓喜」というサブタイトルが付けられていました。第1楽章は,バーバーとかコルンゴルドのヴァイオリン協奏曲を思わせるような静かな雰囲気で始まった後,ポップな感じで展開していきました。途中,弦楽器のトップメンバーとのフーガ風の絡みがあったのが,いいなぁと思いました。楽章の最後の方では,トランペットの非常に冴えた音がスカッと加わってきて,気分が盛り上がりました。ブラーヴォという感じでした。

第2楽章はブルースっぽい雰囲気がありました。怪しげな感じとリラックスした感じが混在し,最後そのまま第3楽章につながって行く感じでした。

第3楽章は,解説によると「フィドル・ホーダウンとブルースを掛け合わせたようなもの」ということで,特に軽快で楽しい楽章でした。途中,ヴァイオリンをギターのように持ち替えて,弾いて演奏するなど,色々と変化に富んでいました。そして,最後にヴァイオリンによる,カデンツァというかアドリブ風の部分に入っていきます。

途中までは,OEKの定期公演で演奏してもおかしくない曲かな,と思いつつ聞いていたのですが,この部分になって,やはりこれは即興性を重視する何でもありのジャズだなと感じました。

トーリングさんの足元に何か機械が置いてあるのは気になっていたのですが,これを足で操作しながら,事前に仕込んでおいた音源が流れ,それに合わせて,トーリングさんが熱狂的に弾きまくっていました。PAの使い方が自然だったので,3階で聞いていると,オーケストラの誰かがバックで演奏しているのかなと思ったのですが,テンポが結構変化していたこともあり,トーリングさんの「独り舞台」だということが分かりました。

演奏後の指揮者の村上さんへのインタビューによると,「この部分はリハーサルの時は演奏しなかった」ということで,OEKメンバーも「興味津々」という感じで見入っていたのも面白かったですね。各楽章ごとに面白い聴きどころがあったのです,やはりこの部分が全曲の見せ場だったかもしれません。

この曲はトーリングさん自身の作曲ということで,クラシック音楽の作曲家としても,とても面白い存在だと思いました。トークの雰囲気からもどこか知的な雰囲気を感じさせてくれましたので,今後さらに,国際的にもジャンル的にも,色々な境界を乗り越えて活躍するアーティストとして活躍していくのではないかと感じました。

 終演後,マッズ・トーリングさんのサイン会に参加してきました。

そして,最後に秋吉さんが再度登場しました。もしかしたら1曲ぐらい,秋吉さんとの共演があるかなと思っていたのですが,その期待どおり,トーリングさんとの「50歳差デュオ」が実現しました。曲名は分からなかったのですが,大変リラックスした雰囲気のある演奏を聞かせてくれてお開きとなりました。

全体として,石川県立音楽堂コンサートホールは,ジャズを聞くホールとしてはやや大きすぎる印象はありました。結構,お客さんはマジメというか,クラシック音楽のコンサートとほぼ同じ雰囲気だったと思いました。ジャズについては,お客さんの方がもっとリアクションを示しながら聞くのかと思っていたのですが,やはり,音楽堂という場所だとクラシックと同様になってしまうのかもしれません。特に秋吉さんの演奏については,聴衆との一体感が感じられるような場所の方が本当は良かったのかなと思いました。

ただし,私としては,いつものOEKの演奏会と同様の気分で2人のアーティストの演奏を楽しめた演奏会でした。個人的な感想ですが,OEKを交えてのオープニングコンサートにするのならば,ビッグバンド風の演奏にするというのもありかなと思いました。

*

以下,金沢ジャズストリートの雰囲気を紹介しましょう。街中でやっていました。
 
ポルテ金沢の地下です。鼓門下は準備中でした。

 
鼓門下のタペストリ―は,「ジャズ」になっていませんでした。終演後,もう一度行ってみたら,子供たちが演奏を行っていました。

 
その後,近江町市場前へ。ここでも演奏中。すぐ隣りの建物の上階にあるアートグミに行ってみました。

 
ジャズのLPレコードのジャケットの展示を行っていました。フランキー堺がドラムを演奏している「スパイク・ジョーンズ・スタイル」というアルバムは,クラシック音楽を素材にした冗談音楽ですね。「ひばりとシャープ」の方は,実はCDを持っています。Lover come back to meなどを聞くと,美空ひばりのクリアな英語の発音にびっくりしてしまいます。


夜はこの場所でライブや映画も行っていたようです。ジャズ的な雰囲気に合いそうな場所ですね。

(2017/09/18)



公演のポスター(ポルテ金沢前に掲示してあったものです)

金沢ジャズストリートとほぼ同じ時期に,石川県立音楽堂邦楽ホールで「金沢おどり」もやっていました。金沢駅前から大々的に宣伝をしていました。












以下は,まったく関係ないのですが,9月上旬に発売になった「ひやおろし」の広告です。帰宅途中に近所の酒屋で購入。