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2017ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭 特別演奏会:オペラの名曲とシンフォニー
2017年10月15日(日)14:00〜 石川県立音楽堂 コンサートホール

1) ヴェルディ/歌劇「運命の力」序曲
2) ヴェルディ/歌劇「椿姫」〜「乾杯の歌」「花から花へ」「パリを離れて」
3) ヴェルディ/歌劇「ナブッコ」〜「行け、わが想いよ、金色の翼に乗って」
4) ヴェルディ/歌劇「リゴレット」〜「女心の歌」
5) マスカーニ/歌劇「カバレリア・ルスティカーナ」〜「オレンジの花かおり」
6) レハール/喜歌劇「微笑みの国」〜「君がわが心のすべて」
7) ブラームス/交響曲第1番ハ短調, op.68
8) (アンコール)ブラームス/ハンガリー舞曲第5番

●演奏
花本康二*1,7-8;山口泰志*2-6指揮石川フィルハーモニー交響楽団
石川公美(ソプラノ*2),糸賀修平(テノール*2,4,6)
合唱:石川県合唱協会*2-3,5



Review by 管理人hs  

2年に一度,秋に行われている「ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭」の特別演奏会として,石川フィルハーモニー交響楽団の演奏会が石川県立音楽堂コンサートホールで行われたので,聞いてきました。近年の石川フィルの演奏会では,マーラーやラフマニノフの交響曲など,ロマン派〜近代の大曲を演奏することが多かったのですが,今回は前半にオペラアリアが入るなど,「ビエンナーレ」という「お祭り」により相応しい内容となっていました。

前半は,まず,ヴェルディの「運命の力」序曲が花本康二さんの指揮で演奏されました。オーケストラ・アンサンブル金沢が演奏する機会は少ない曲なので,実演で聞くのは久しぶりだったのですが,冒頭のファンファーレから,聞いていると,思わず「力」が湧いてくるような曲です。非常に野性的な雰囲気のある音で始まった後,途中抑制の効いた弦楽器の響きが出てきたリ,ひなびた味の木管の音が出てきたリ,オペラの世界を凝縮して表現したような,がっちりとまとまった演奏だったと思います。

プログラムの解説に,トロンボーンにとっては大変演奏しにくい部分があると書かれていましたが(「多分,あの部分かな」と聞いていて思いたる部分がありました),こういった演奏者視点の解説は面白いですね。

その後,指揮が山口泰志さんに代わり,ソプラノの石川公美さん,テノールの糸賀修平さん,石川県合唱協会の合唱との共演で,アリアや合唱曲が演奏されました。まず,ヴェルディの歌劇「椿姫」の中の3曲が演奏されました。糸賀さんの曇りのない若々しさ溢れる声と石川さんの安定感のある声による,お馴染みの「乾杯の歌」に続き,ソプラノの大曲,「ああ,そはかのひとか〜花から花へ」が演奏されました。

この曲は,前半は重くしっとりと,後半の「花から花へ」の部分は,技巧的に軽やかに飛翔する,という構成です。前半と後半で全く違った声質が要求される,大変難易度の高い曲です。今回の石川公美さんの声は大変聞きごたえがありました。青島広志さんは,北國新聞への連載記事で石川さんのことを「金沢のプリマドンナ」といった表現で讃えていたことがありますが,まさにそういう感じの歌だったと思います。

石川さんの声は,脂が乗った声という感じで,その声を聞くだけでヴェルディのオペラの世界が広がりました。この難曲に挑戦する意気込みが演奏の迫力となって迫ってきました。「花から花への」最後の部分での,「超高音」は出していませんでしたが(ただし,出さない方がオリジナルですね),大満足の歌唱でした。

この曲では,「遠くからテノールの声が聞こえる」という設定になっています。テノールの糸賀さんは,パイプオルガンのステージから歌っており,立体感のある効果を視覚的にも出していました。

「椿姫」のコーナーの最後では,「パリを離れて」が歌われました。この曲では,糸賀さんの声が少々明るすぎるかな,という印象を受けました。反対に,後で歌われたヴェルディの「女心の歌」や,最後に歌われた,レハールのオペレッタのアリアでは,糸賀さんの声と曲想がぴったり合っていると思いました。大変軽やかで,どんな高音も楽々と出せるような感じでした。

その他,ヴェルディの「ナブッコ」の中の「行け、わが想いよ、金色の翼に乗って」とマスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」の「オレンジの花かおり」では,石川県合唱協会の合唱の皆さんが,暖かみのある声を聞かせてくれました。

あまり慣れないオペラの演奏ということで,オーケストラについては,歌手の皆さんに合わせるのが大変そうな部分があるように感じました。また,特に「カヴァレリア・ルスティカーナ」のような曲では,イタリア的な空気感(行ったことはないのですが...)を表現するのは,難しいものだなと感じました。ただし,声と合唱とオーケストラが合わさる華やかさは,代えがたいものがあります。是非,今後も今回同様の試みに期待したいと思います

後半は,再度指揮者が花本さんに代わり,ブラームスの交響曲第1番が演奏されました。花本さんと石川フィルによる演奏は,毎年のように聞いているのですが,今回の演奏は,特に立派さのある演奏だったと思いました。全体に慌てることのないテンポ設定で,しっかりと深みのある音を聞かせてくれました。

まず,第1楽章冒頭のティンパニの音を核にした柔らかさと芯の強さの絶妙のバランスの取れた音が見事でした。これは石川県立音楽堂の響きの良さの力もあったと思いますが,まさに円熟した音楽を聞いたという印象を持ちました。このトーンは全曲を通じて一貫していたと思います。楽章の最後の深沈としたムードも良いなぁと思いました。

第2楽章もまた,深々と呼吸をするようなゆったりとした音楽を聞かせてくれました。コンサートマスターのソロを含むヴァイオリン・パートのデリケートな歌も心に染みました。

プレトークの時,花本さんは「ブラームスの交響曲は,弦楽奏者にとっては,主役になったり脇役になったり,室内楽的な喜びを味わえるのでとても人気があるが,管楽器奏者には,ちょっと意地悪な楽譜である」といったことを語っていました。その例として,第2楽章の最後の「弱音で吹かせるトランペット」を挙げていました。この部分に注意していたのですが,確かにこれはストレスがたまるかもと思いました。美しく吹いてもあまり目立たないが,ミスした時だけ目立つ...といったところがあり,結構,世の中のインフラのために地道に働いている人たちと同様かも,と変なところで納得してしまいました。これからは,この部分が来たら必ず注目しようと心に誓いました。

第3楽章もについても,クラリネットやホルンなどを中心に味わい音楽を聞かせてくれました。この日は,各楽章ごとに拍手がパラパラと入ってしまったのですが,さすがにこの楽章の後には拍手は入らず,第4楽章につながりました。

第4楽章は,オーケストラの各楽器の見せ場の連続ですね。序奏部では,第1楽章の雰囲気に対応するような深さを感じさせてくれました。コントラバスを中心とした弦楽器のピツィカートを聞くのが好きなのですが(そして,コントラファゴットの重低音も入りますね),やはり音楽堂コンサート・ホールだと特に贅沢さを味わうことができます。

しびれるようなティンパニの一撃の後,ホルンのソロが出てきます。「アルプホルンの雰囲気だなぁ」と感慨に浸った後,ひんやりとしたフルートが続き,そして満を持してトロンボーンによるコラール風のフレーズが登場。

上述の花本さんのトークの中で「ブラームスの意地悪さ」の例としてこの部分も挙げていました。「第3楽章まで出番がなく,いきなりプレッシャーのかかる部分で登場」というのも確かに大変ですね。ただし,トロンボーンには結構そういう曲が多いので,「待つのが仕事」のパートとも言えそうです。今回の演奏も,まとまりの良い落ち着いたハーモニーを聞かせてくれました。

そして,ヴァイオリンを中心に「ベートーヴェン風」の主題が続きます。この抑制された深さのある響きも良いなと思いました。その後も要所要所で溜めを作って,力感のある音楽が続きました。コーダでも全体のバランスを壊すことのない自然な盛り上がりを聞かせてくれました。ティンパニのしっかりとした音とテンションの高い弦楽器のキリっとしまった音が,特に素晴らしいと感じました。

アンコールでは,予想通り(交響曲では使わないはずの大太鼓が残っていたので,きっと...と思っていました)ブラームスのハンガリー舞曲が演奏されました。今回はテンポが自在に揺れる第5番でした。

というわけで,今回はオーケストラ音楽の保守本流(?)のようなブラームスの1番を小細工なく堂々を聞かせてくれました。是非,今後もこの組み合わせによる,交響曲の大曲の演奏に期待をしたいと思います。

PS. 今回指揮者として登場した,花本さんと山口さんは同級生で,金沢大学フィルの時に,今回のように,2人で分担して演奏会を行ったことがあるそうです。30数年後,こういう形で,また2人で分け合って登場する,というのは,「なんか良い話」だなぁと思いました。私も金大フィルの演奏は長年聞いているので,当時のプログラムなど残っていないか探してみたいと思います。

ということで,その後,当時のパンフレットなどが残っていないか探してみたところ...出てきました。


恐ろしいことに,35年前でした。ちなみに2曲目の指揮者も金沢の吹奏楽業界では有名な方ですね。

ついでにプログラムに掲載されていた広告。山蓄とかディスク33とか懐かしい店が入っていました。


(2017/10/22)




公演のポスター


こちらはビエンナーレのパンフレットとチケットの半券


開演前のステージ


ホテル日航金沢のロビーにある生け花。演奏会の終わった後,よく通るのですが,季節ごとに変わっていて面白いですね。